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    金権体質でごまかしのプレミアリーグ?

    UK(英国と北アイルランドの連合王国。以下、「英国」)が6月23日の国民投票の結果、EU結成以来初の離脱の方向性が確定し、世界中のヘッドラインを飾った。10月に政権が交代し、そこから具体的なEU離脱過程が開始することになる英国では、現時点では何もかもが不確定な状況にある。英国の目玉の一つであるプレミアリーグも、影響を受けることは間違いない、という説は飛び交うものの、推測の域を出ない。

    その一つとして、1995年にヨーロッパのフットボール界に大変革を与えたボズマン・ルールを上げる人は多い。EU内での労働の機会均等を定めたボズマン・ルールがきっかけで、EU諸国のリーグの各クラブは、EU市民の選手に対する外国人枠を撤廃することになった。これに伴い、イングランドでも、EUの選手に関しては労働許可不要となった。EU離脱により、EU諸国の選手も非EUの選手同様の制限が科される可能性を指摘する声は大きかった。

    「ボズマン・ルールを受けて、外国人選手が増加し、イングランド人選手が『締め出される』事象を招いた。若手の成長を刺激するワールドクラスの選手が来てくれることは大歓迎だが、コスト削減のために『労働許可不要』の選手を多数、受け入れることは、若手の機会を奪う危険性を持つ。プレミアリーグで出場するイングランド人数の減少は、代表チームが国際大会で勝てなくなった時期と同期を取っている」と、FAはEU離脱を肯定的に捕えた。

    そんな中で、6月27日、ユーロ2016でイングランドはアイスランドに敗退し(試合結果は2-1)、FAが憂慮する通り、「2006年以来、国際大会のノックアウト・ラウンドでは1勝も上げていない」記録を存続することになった。

    国の人口が30万超で、代表チームの多くの選手やコーチが兼業(セミプロ)というアイスランドに、プレミアリーグを抱えるイングランドの代表チームが敗れるという事態は、FAの言う「外国人の減少」などの小手先では解決できない、もっと根本的な改革が必要だという声は、イングランドのファンや大多数のメディアが指摘していた。

    この試合の解説を勤めていたディディ・ハマンの、「プレミアリーグは金権体質でごまかし」という表現は、それらの人々の意見を裏付けていた。

    「プレミアリーグは世界で最も人気があるリーグで、最も裕福。しかし、そのお金に見合う価値はない。プレミアリーグでは、並の選手でも、アイスランドやドイツ、スペインでプレイする選手に比べて数倍・数十倍の破格の給料を貰って、ぬくぬく暮らしている。しかし、イングランド代表チームで、外国で通用するだろう選手はごく2-3人」。

    ユルゲン・クロップがLiverpool監督に就任して間もない頃に、「イングランドでは常にお金のことを語る」と、プレミアリーグの金権体質について語った言葉は、多くの人々の記憶に突き刺さった。いわゆる「マーキー・サイニング(多額の移籍金で、高給取りのワールドクラスのスター選手を獲得すること)はあるか?」との質問に対するクロップの反応だった。

    「強いチームを作るために最も必要なことは、トランスファー(移籍)ではなくトレーニング」。

    英国のEU離脱の波紋に続き、イングランドがユーロ敗退するダブル騒動の中で、6月28日、サウサンプトンのサディオ・マネのLiverpool入りが発表された。移籍金は未公表だが、サウサンプトンは「クラブ史上最高金額」と発表し、£30mに条件により£36mになるオプション付きという噂が流れた。

    地元紙リバプール・エコーは、「3年連続でサウサンプトンから、しかも£30mを超す大金で、マーキー・サイニングとは程遠い選手を獲得したことで、ライバル・チームのファンは嘲笑するし、Liverpoolファンが失望を隠せないのも無理はない」と、冷静な記事を掲げた。

    「政治もプレミアリーグも先が見えない不明瞭な状況の中で、トレーニングで強いチームを作る、というクロップの態度は明確で、最初から変わらず貫いている方針。Liverpoolファンの最大の期待は、移籍市場ではなくメルウッドにある」。


    目立たないながら「すべての監督の信頼No.1」へ

    6月10日に開幕したユーロ2016で、開幕2戦を1分(対ロシア、1-1)1勝(対ウェールズ、2-1)とグループBの首位に立ったイングランド代表チームは、毎度のことながら、イングランド国内の白熱した議論を呼び起こした。試合前の予測では「イングランドの楽勝」だったウェールズ戦で、後半のサブ2人がそれぞれゴールを決めて逆転勝ちという結末は、スターティング・ラインナップの是非に焦点を当てることになった。

    最大の注目は、トッテナムの5人(カイル・ウォーカー、ダニー・ローズ、デレ・アリ、エリック・ダイアー、ハリー・ケイン)だった。2015-16季は5月2日にチェルシーに2-2と引き分けて優勝争いにピリオドを打ったものの、トッテナムの快進撃は顕著で、ユーロでも、当初は「トッテナム中心のチーム編成」に対して、真面目に異論を唱える人は少なかった。

    しかし、ウェールズ戦の後で、イングランドの世論は逆転した。「トッテナムの選手がこんなに多いと、イングランドは、たとえ決勝まで行っても3位で終わるだろう」というジョークがどこからともなく出てきて、イングランド中の笑いを買った。これは、トッテナムがシーズン終幕に、優勝戦線脱落の反動から立ち直ることが出来ず、最終日に宿敵アーセナルに抜かれて3位で終わったことを指していた。

    そのような背景もあり、イングランドのメディアやファンは、一斉に、次のスロバキア戦に臨むチーム予測に沸いた。誰もがうんちくと共に「外すべき選手」と「入るべき選手」を並べる中で、ほぼ全ての「監督」のチームに入っていたごく数人の選手に、アダム・ララーナがいた。

    Liverpoolからイングランド代表入りした5人(ララーナ、ダニエル・スタリッジ、ジョーダン・ヘンダーソン、ジェームス・ミルナー、ナサニエル・クライン)の中で、唯一、2戦連続スターティング・ラインナップ入りしていたララーナについて、ライバル・チームのファンも含めて、特に理由を付けることなく、誰もがスロバキア戦のチームに選出していたのだった。

    ウェールズ戦の直前の6月15日に、イングランドの人気番組「トークスポーツ」のインタビューに登場したララーナは、サウサンプトンのアカデミー・チームのチームメートだったガレス・ベイルに敬意を示し、Liverpoolのチームメートであるジョー・アレンを賞賛した上で、勝利への自信を述べた。

    可もなく不可もないインタビューの後で、同番組のナレーターが、ララーナの人柄について語った。「癖のある人が多い、いわゆる『フットボーラー』らしくない、腰が低くて丁寧な人。こんなにラクなインタビューは珍しい」。

    大会開始直前に、ララーナのインタビューを掲載したデイリー・メール紙も、「ララーナの人物観」を裏付けた。「2014年夏に、サウサンプトンからLiverpool入りしたララーナを、最も歓迎したのはスティーブン・ジェラードだった」と、同紙は振り返った。

    「ジェラードは、『ララーナの最も良い所は人柄。サウサンプトンで主将を勤めていた人物にふさわしい人格者』と断言した。フットボール面でもLiverpoolで成功すると思うか?との質問に、ジェラードは『ララーナは、現役のイングランド人選手の中で圧倒的トップの両足効き。成功しないはずがない』と、一笑した」。

    しかし、ララーナはLiverpoolで、ファンの支持を勝ち取る必要があった。「良い選手なのだが、クライフ・ターンをやり過ぎて、チームの攻撃のリズムに水を差している」という批判の声は、しばし止まなかった。

    ユルゲン・クロップ下で最も成長した選手の一人となったララーナに対しても、依然として、Liverpoolファンの目は厳しかった。「アタッキング・ミッドフィールダーならば、シーズン2桁のゴールは必須」。昨季のLiverpoolは、3人のストライカーと2人のアタッキング・ミッドフィールダーが2桁ゴールを達成したのに対して、ララーナは7に留まった。

    「インジャリータイムの決勝ゴールを決めた選手は、一躍ヒーローになる。それに比べてララーナは、ヘッドラインを飾ることはめったにないが、どの監督にとっても真っ先にチームシートに載せる『信頼度No.1』の選手」と、デイリー・メールは、クロップの言葉を引用した。4月のアンフィールドでのダービーで、エバトンに4-0と快勝した試合の後で、クロップが「誰もララーナを褒めないのは何故?」と、不満そうに言ったのだった。

    「クロップからプレッシングを徹底的に叩き込まれた、と語ったララーナは、クロップのフットボールを最も忠実に取り入れて、試合で展開している。それをイングランド代表チームでも生かしているララーナは、ロイ・ホジソンのチームシートにも真っ先に載る選手になっている」。

    トークスポーツのインタビューでは、イングランド代表での25試合中、まだゴールがないことについてララーナは、苦笑した後で、きっぱりと答えた。「自分がヒーローになることについては、どうでもいい。成功するチームの一員になりたい、ということが僕の目標」。


    アンフィールドのカルト・ヒーロー

    2011年5月、FAカップ決勝でウェンブリーに向かっていたマンチェスターシティ・ファンの集団が、ロンドンの地下鉄駅で、ヤヤ・コロ・チャントをやった動画が、イングランド中の話題を呼んだ(試合結果は1-0でマンチェスターシティがストークシティを破ってFAカップ優勝)。ウェンブリー方面のホームで歌って踊っていたシティ・ファンの対岸で、逆方向の電車を待っていた地元住民らしき乗客20人くらいが、つられて一緒に踊る様子が動画に映った。フットボールとは縁がなさそうに見える上品な初老の女性が、シティ・ファンの楽しい踊りに無意識にノッた、という感じで、見る人に笑顔をもたらした。

    2013年に、コロがフリーエージェントとしてLiverpoolに行ってしまったことで、「もうヤヤ・コロ・チャントはできないなあ」とぼやいたシティ・ファンの手を離れて、ヤヤ・コロ・チャントはイングランド各地で、絶えることなく続いたのだった。

    そして、2016年のシーズン末に、イングランドのダーツ・チームがヤヤ・コロ・チャントをやる姿がTVに映ったことで、コロは「この国の人々は本当にフットボールが好きなんだ、と嬉しくなる」と、笑顔で語った。

    そのコロが、2016年6月末で契約を満了し、Liverpoolでの3年間に終止符を打つことが正式決定となった6月10日に、地元紙リバプール・エコーは、「アンフィールドのカルト・ヒーロー」というタイトルで、コロを見送る記事を掲げた。

    35歳という年齢と、比較的選手層が厚いポジションであることから、戦力面では致し方ない結論という前提で、同紙は、「コロの笑顔は、ヤヤ・コロ・チャントのように、人を惹きつける。Liverpoolでは、華々しい活躍に埋もれた3年間とは言えないながら、豊富な経験で若いチームを引っ張り、ピッチの上でリーダーシップを発揮したコロは、Liverpoolファンから熱烈な人気を得ていた。いなくなるのは寂しい存在」と、ファンの気持ちを代弁した。

    「コロの名場面」として、ファンの間で真っ先に上がったのは、2013年のアウェイでのフラム戦(試合結果は2-3でLiverpoolの勝利)で、反撃を目指して全力疾走していたコロが、たまたま通り道にいたレフリーのフィル・ダウドを思いっきり突き倒したものだった。「皆がやりたくてもできないことを、コロはいとも自然にやってのけた」と、イングランド中の爆笑を買った。

    Liverpoolでの唯一のゴールとなった2016年2月のアウェイでのアストンビラ戦で(試合結果は6-0でLiverpoolの勝利)、ピッチに仰向けに倒れて万歳した「祝ゴール」について問われて、コロが「どうしたらいいのか分からなくて、取りあえず、転がった。そもそも、得点した時にどんな反応をしようか、ということは事前に考えてなかったので」と笑った様子も、ファンの記憶に納まった。

    Liverpoolの前には、マンチェスターシティ(在籍2009~2013)とアーセナル(在籍2002~2009)の両方で、プレミアリーグ優勝を達成したコロが、その「根っからの勝者」ぶりを見せてくれた数々の試合の中で、最も強くファンの心に焼き付いているのは、2016年1月のリーグ・カップ準決勝1戦目、アウェイでのストーク戦だった(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)。試合終幕に足を吊ったコロが、動かない足でジャンプして相手のゴール・チャンスをブロックした「サーモン・タックル」だった。

    シーズン終幕になって、Liverpoolでの契約更新の可能性について質問された時に、コロは「Liverpoolに残りたい。来季も必要な戦力だと認めて欲しい一心で、あの『サーモン・タックル』をやった」と笑った。

    「34歳になって、イングランドのベスト・クラブの一つであるLiverpoolでプレイできるとは、驚くべきことだと思う。こんなキャリアを自分が歩めるなんて、夢にも思わなかった。だから、僕は今、Liverpoolでの一瞬一瞬を、心から楽しんでいる」。

    その笑顔でファンを魅了したコロが、「トロフィーを取って、Liverpoolファンに恩返ししたい」という強い決意で臨んだEL決勝戦では、マン・オブ・ザ・マッチの気力を発揮した(試合結果は3-1でセビーリャの優勝)。

    「振り返れば、Liverpoolでの最後の試合となったEL決勝戦は、コロにとってはふさわしいエンディングとなった」と、エコー紙は締めくくった。

    コロの今後の行く先として、フランス・リーグのモナコが上がっているのと並行して、弟のヤヤはシティを出てインターに行くらしいと見られている。

    「ヤヤとコロのトゥーレ兄弟は、その絶頂期に、ピッチの上でもチャントでも、イングランドのフットボール界に足跡を残した。そして、コロは、アンフィールドのカルト・ヒーローとして、Liverpoolで語り継がれる逸話を作った」。

    ヨーロッパなしのシーズン

    5月28日に2部のプレイオフ決勝でハル・シティがシェフィールド・ウェンズディに1-0と勝って、来季のプレミアリーグ20チームが決定した(昇格3チームはミドルスバラ、バーンリー、ハル)。間髪をおかず、6月15日には2016-17季のプレミアリーグ日程が発表になる。来季のプレミアリーグは、総計£8bという破格のテレビ放映権が投入される初年度でもあり、プレミアリーグの注目度は更に高まることが予測されている。加えて、ヨーロッパの超一流監督がプレミアリーグに揃うことが、拍車をかけていた。

    特に、ペップ・グアルディオーラのシティと、ジョゼ・モウリーニョのユナイテッドのおひざ元である地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースは、両監督をトップに掲げることが日課となった。

    2010年から2012年まで、グアルディオーラがバルセロナ監督として、モウリーニョがレアルマドリード監督として、公の場で「マインドゲーム」を繰り広げたことは有名な話で、その舌戦のあまりの壮絶さに、「病原菌」と呼ばれたほどだった。5月28日にモウリーニョのユナイテッド監督就任が正式に発表された時に、スペインのメディアは「病原菌がマンチェスターに行った」と書き立てた。

    そして、マンチェスター・イブニング・ニュース紙は、「スペインでは330マイル離れた土地にいたが、イングラドでは同じマンチェスター地区の、僅か4マイルの距離で『病原菌』が激突することになる」と続けた。

    何より、両チームのファンが、新監督を全面的に支持し、来季の巻き返しに自信を持っている様子が顕著だった。3年半前にチキ・ベギリシュタインとフェラン・ソリアーノをディレクターに迎え、バルセロナ時代の旧友ペップを監督として迎える下地を作っていたシティは、「やっとペップが来てくれた」と、ファンは沸いた。対するユナイテッドは、「モウリーニョは、2009年からユナイテッド監督になりたいという希望を抱いていた」と、ファンが歓声を上げた。

    いっぽう、プレミアリーグに集まる「ヨーロッパの超一流監督」として一般的に語られている中には、チェルシーでプレミアリーグ初シーズンとなるアントニオ・コンテ、続投組のアーセン・ベンゲル(アーセナル)とマウリシオ・ボチェティーノ(トッテナム)に加えて、ユルゲン・クロップがいた。

    2月にペップのシティ入りが公になった時に、クロップが「ペップは来季、実際に来た時に、きっと驚くだろう」と同情的に語った言葉は、大きな話題を呼んだ。「何しろイングランドは、毎日、雨が降る。特にマンチェスターの雨の降り方は、マージーサイドの比でないくらいひどい」。

    イングランドに定着したクロップは、地元に溶け込み、「唯一、馴染めないのは天候だけ」と明るく語った通り、Liverpoolファンの信頼を深め、地元紙の評価を高めるスタートを切った。

    「地元の人々の気質は、似たような社会的バックグラウンドを持つ土地に生まれ育った私には、とてもウマが合う。これまで町中で出会った人々は、皆、いい感じで接してくれた。エバトン・ファンもたくさんいた」というクロップの証言を、ジェイミー・キャラガーが裏付けた。「先日、市内でタクシーに乗ったら、運転手が筋金入りのエバトン・ファンだった。その運転手が、真面目な口調で『最も気に入らないのは、ユルゲン・クロップを憎めないということ』と、ため息をついた」。

    必然的に、地元紙リバプール・エコーは、2015-16季の総決算として、「ユルゲン・クロップ語源集」を掲げた。

    その中には、監督就任の記者会見で、モウリーニョの「スペシャル・ワン」について質問されて、「私はノーマル・ワン」と言った言葉に始まり、EL決勝(3-1でセビーリャの勝利)の試合後の「今日の経験を、次の勝利に活かす。我々は間違いなく、より強いチームになってチャレンジする」に至るまで、クロップの初シーズンを象徴する言葉が連なっていた。

    同紙のお気に入りは、11月8日のホームでのクリスタルパレス戦(試合結果は1-2でパレスの勝利)の、「試合はまだ12分残っているという時点で、人々が去るのを見て、私は孤独を感じた」だった。「あの言葉は、それまで長期間の暗黒の中で、冷え切っていたLiverpoolファンの心を開いた」。

    そして、来季はヨーロッパに出られないシーズンを迎えることで、夏の戦力補強への影響を問われたクロップは、「CLに出られるから入りたい、出られないから入らない、という選手は、こちらからお断り」と、冷静に語った。

    「必要なのは、既に走っている電車に乗ることではなく、車両を押すところから始める意思のある選手」。

    フットボールはチームスポーツ

    Liverpool監督に就任して以来、記者会見ではいつもユーモラスで明るい問答を見せていたユルゲン・クロップが、いきなり激怒したことがあった。それは、劇的な大逆転で4-3とドルトムントを破り、通算5-4でEL準決勝進出を決めた、その3日後のことだった。4月17日のアウェイでのボーンマス戦で、若手中心のチーム編成で臨んだLiverpoolが、ダニエル・スタリッジの先制ゴールを含む鮮やかなプレイと並行して、若手が健闘して2-1と勝った試合だった。

    その試合後の記者会見で、最初の質問が「スタリッジは、今後の試合では絶対に外せない戦力ではないですか?」というもので、クロップの怒りに触れたのだった。

    「フットボールはチームスポーツ。なのに何故、あなたは一人の選手のことだけを取り上げるのだ?クロスを上げた選手がいたから、ゴールが出たのだろう?」。

    度胆を抜かれた記者団に、クロップはトーンを下げた。「今日の試合では、デビュー戦だった選手もいたし、経験の少ない若手が頑張った。なのに、最初の質問が、一人の選手だけをピックアップしたものだったので、私は正直、がっかりした」。

    クロップの「怒り」は、Liverpoolファンの間で大きな話題となった。「クロップがスタリッジに関する質問に対して、気が乗らない口調で回答している印象は前からあったが、それは、ジャーナリストがスタリッジのことをしつこく聞くから、うんざりしたのだろう、と思っていた。でも、今日のクロップの怒り方は、もっと深刻なもののように感じる」。

    実際に、クロップがLiverpoolに来た時には、負傷欠場中だったスタリッジについて、記者会見の度に「復帰はいつ?」と質問が出ていた。それに対してクロップは、笑顔で「今、試合に出られる選手のことを考えるのが監督の仕事」と答えていたが、ぶり返しで復帰が先延ばしになった時に、「深刻な負傷と、そうでない負傷とを切り分けることが必要」と言って、波紋を巻き起こした。

    負傷係数(※選手の負傷欠場期間を算出した統計)では、2015-16季のプレミアリーグで、降格したニューカッスルに次いでワースト2の負傷率に苦しんだLiverpoolが、プレミアリーグ最多の63試合を戦う中で、戦績が上がらず苦戦していた時のことだった。

    イングランドのメディアは、さっそく「クロップはスタリッジを評価していない」という不穏な憶測記事を流し始めた。

    その中に、「クロップは、ドルトムント監督時代に、ゴールの祝い方が気に入らないからと言って、ストライカーをお払い箱にした」という、ドイツ通のジャーナリストの証言が出回った。

    スタリッジが、ゴールの度に「波乗りダンス」をやることは有名だった。それにしても、「ゴールの祝い方が気に入らないから、クロップがスタリッジを嫌っている、というのは、あまりにも根拠がなさ過ぎて心配する気にもならない」と、Liverpoolファンは一笑した。

    しかし、ボーンマス戦の記者会見でのクロップの怒りは、Liverpoolファンにとっては無視できないものだった。

    「スタリッジの負傷歴は否定できない。しかし、Liverpoolでの92試合で53得点の記録からも明らかなように、負傷していない時のスタリッジは、今のLiverpoolでは貴重なワールドクラスの選手。出て行かれるのは大きなマイナス」。

    一方で、スタンドのファンが、スタリッジに対して一線を画していたことも真相だった。2試合に1点以上の得点力を持つストライカーが、今だに歌がないことも、ファンの間で折に付け議論になっていた。

    ELで勝ち進む中で、週2試合ペースになったLiverpoolは、GKなど一部の例外を除き、リーグ戦でスタートする選手はEL戦ではベンチという図式が定着した。そして、EL準決勝1戦目でアウェイでビヤレアルに1-0と負けて、翌週のアンフィールドでの2戦目を控えたスウォンジー戦で(試合結果は3-1でスウォンジーの勝利)、スタリッジがスタートした時、ファンの間で大きな動揺が起こった。

    「得点が必要な試合にスタリッジを出さないというのは、致命的な間違い」。

    折しも、スタリッジが直前のインタビューで、試合に出られない状況について不満を漏らし、「Liverpoolに永遠に留まるとは思えない」と発言して、ファンの懸念を増幅させたばかりのことだった。

    そして、ファンの間で、「ゴールの祝い方が気に入らなかったストライカー」のエピソードが改めて話題になった。それは、獲得に動く予定だったストライカーのビデオを見ていて、乗り気になったところで、ゴールを祝う場面となり、その瞬間にクロップは「このストライカーはダメだ」とNGを出したという話しだった。選手の名前は勿論、具体的に何が気に入らなかったのか、ということも非公表だった。

    誰かがふと、漏らした。「そのストライカーは、自分一人で達成したゴールだと言わんばかりの祝い方をしたのでは?Liverpoolファンが、スタンドからスタリッジを見ていて、距離を感じるのと同じように」。

    ビヤレアル戦の試合前の記者会見の終わりに近づいた頃に、ジャーナリストが、「怒らないでくださいね」と前置きしながら、スタリッジがスタートする可能性はあるのかと質問した。緊迫した空気の中で、クロップは「もっと早くにその質問が出ると思ってたのに、やっと出ましたね」と、ジョークを言い、記者団の緊張を解いた。「100%ある」と、クロップは真顔で答えた。

    そして、スタートしたスタリッジが、後半63分に通算で勝ち越しのゴールを決めて、絶叫しながらスタンドに向かって全力疾走した「祝い方」は、ファンのスタリッジに対する「距離感」を一掃した(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。

    地元紙リバプール・エコーのインタビューで、スタリッジは、「僕のプロ生活中で最も重要なゴールだった」と語った。

    「今のLiverpoolは、一流監督が来て、選手全員が一丸となって前に進んでいる。このチームで、これから皆で力を合わせてトロフィーを勝ち取りたい」。
    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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