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    マンチェスター・ダービー

    今週末の注目戦、11月2日のマンチェスター・ダービーを控えて、10月28日の地元紙マンチェスター・イブニング・ニュースはさっそく特集記事を開始した。その一つとして、元ユナイテッド(在籍は1995-2001)のアンディ・コールが「ユナイテッドの最大の宿敵は、僕の時代はLiverpoolだったが、次第にシティがそのその地位を奪いつつある」と語った記事が大きな反響を呼んだ。

    これに対して、少なからぬユナイテッド・ファンが反論した。「歴史と伝統を考えると、ユナイテッドに匹敵するのはLiverpoolだけ。シティやチェルシーはここ数年に金持ちのオーナーが桁外れの資金をつぎ込んで『強豪』に名を連ねるようになっただけで、名門とは言えない」。

    これはユナイテッド・ファンが持論としている説だが、実際にマンチェスターの2チームのトロフィーの数(ユナイテッド39、シティ13)は、例えば北ロンドン・ダービー(アーセナル27、トットナム17)やマージーサイド・ダービー(Liverpool41、エバトン17)など他地区と比べて、格差が大きかった。

    一方、名門さで優位に立つユナイテッド・ファンに対するシティ・ファンの言い分は「マンチェスター市の唯一のチーム」だった。ユナイテッドのホーム・スタジアム(オールド・トラッフォード)の所在地はマンチェスター市のベッドタウンの一つであるトラッフォードと、これも揺るぎのない事実だった。

    しかしユナイテッド・ファンは負けていなかった。チームの強さをネタに、ユナイテッド・ファンの間ではシティ・ファンを指す「バーティ」というニックネームがすっかり定着していた。これは、子供向けマンガのキャラクターで、弱くていつも体の大きい友人にいじめられて泣きべそかいているバーティ・マグーに由来するものだった。いたずら好きのユナイテッド・ファンが、SNSにバーティ・マグー名のページを作り、シティのシャツを着た画像を掲載した。

    「マンチェスター市は、なんで市外のチームに市内での優勝パレードを許可するのか」と対抗するシティ・ファンに対して、地理上の難点を名門さで反撃するユナイテッド・ファンは、オールド・トラッフォードのストレトフォード・エンド・スタンドに「シティが最後にトロフィーを取ってから○年」の垂れ幕を貼り、毎年「○」の数字をカウントアップしていたことも有名な話だった。

    第三者から見ると滑稽なこの両者のやり取りに、他チームのファンは「バーティ・マグーの読者の年齢層にふさわしい子どもの喧嘩」と、両陣営から飛び出るジョークを聞いて爆笑していた。

    しかし、2011年にシティがFAカップ優勝を達成し、ストレトフォード・エンドの垂れ幕が「35」で引退した頃から「子どもの喧嘩」の内容が変化し始めた。

    マンチェスター・ダービーを3週間前に控えた10月11日に、マンチェスター・イブニング・ニュース紙のサイトに掲載された動画はその象徴だった。

    ユナイテッド・ファンのご家庭に育った3歳の女の子リリーは、翌週から通うことになった幼稚園の制服の色が気に入らないから着ないと言って泣き叫ぶ。「ブルーだから着たくない!」とだだをこねるリリーに対して、お母さんが「ブルーはシティだけじゃないのよ。お兄ちゃんが持ってるユナイテッドのアウェイ・シャツはブルーでしょ?この制服はユナイッドのブルーなのよ」となだめるのも聞かず、リリーは「ブルーは嫌だ」と泣きじゃくる、というものだった。

    これまでは、色にこだわるのはシティ・ファンで、サンタクロースにブルーの服を着せるが常識になっていたのに対して、ユナイテッド・ファンが「バーティ」の色を意識する場面は珍しかった。しかし、シティが3年間に2度のプレミアリーグ優勝という時代だけを見てきたリリーにとっては、シティは「バーティ」ではなく「ユナイテッドの宿敵」だった。

    3歳ながら意志の強さを見せたリリーに、ユナイテッド・ファンは温かい拍手を送った。「リリーのために、ユナイテッドはブルーの制服をプレゼントすべきだ」。シティ・ファンも「思わず笑顔が浮かんだ」と、若きライバル・ファンにエールを送った。

    そして、「マンチェスターの2チームのファンのライバル意識」の話題になると必ず巻き込まれるLiverpoolのファンは、この一連のやり取りを見て、頷いた。

    「Liverpoolにとってユナイテッドは伝統的な宿敵、というのは真実だが、しかしダービーの対戦相手である隣人エバトンは別格。同じ土地に生まれて同じバック・グラウンドで育って、同じアクセントを持つファンは、チーム・カラーは違うが土台は同じ。それは、マンチェスターの両者間にも言えることだと思う」。

    地元のファン同士の「子どもの喧嘩」は次第に選手にも浸透し、ダービーはファンだけでなく選手にとっても特別な試合となる。

    セルヒオ・アグエロが10月26日に発表した自伝の中で、その様子を物語った。「市内でユナイテッドの選手に出くわしたら、避ける。後で何か言われたら『気づかなかった』と、とぼける」。その「ユナイテッドに対する特別なライバル意識」を植え付けたシティ・ファンの誠意のこもった応援に感謝を捧げ、「このファンに喜んでもらえるためならば何でもする、という強い決意が沸く」と誓いの言葉を添えた。

    11月2日のマンチェスター・ダービーでは、スタンドの「子どもの喧嘩」だけでなく、ピッチの上の決意のぶつかり合いも、見逃せない一戦となる。

    超スーパー・セーブ

    週末のプレミアリーグ予測が出回っていた10月24日に、イングランドでアナリストとして活躍しているピーター・シュマイクル(マンチェスターユナイテッド在籍は1991-1999)が、元チームメイトのガリー・ネビル(マンチェスターユナイテッド在籍は1992-2011)を批判して話題となった。これは、ガリー・ネビルがLiverpoolのGKシモン・ミニョレを批判したことについて、元デンマーク代表GKのシュマイクルが、「ミニョレに対する個人攻撃」と、後輩GKをかばったものだった。

    発端となったガリー・ネビルのミニョレ批判というのは、9月27日のマージーサイド・ダービーでのことだった。Liverpoolが1-0で逃げ切るかと思えた94分にフィル・ジャギエルカの弾丸シュートで1-1となり、地元紙リバプール・エコーのLiverpoolページは「まるで敗戦のように感じた引き分け」と嘆いた試合だった。

    ハイライト番組で「センターバックの2年ぶりの得点という意外な筋から出た劇的な同点ゴール」が何度も流された中で、Liverpoolファンは次第に落ち着きを取り戻した。

    「あのゴールをもう一度と思って100回トライしても絶対に出せないだろうという、一生に一度のゴール。誰かのミスから出た情けない失点ならば悔しさが残るが、あのゴールは、得点したジャギエルカを賞賛するしかない」と頷きながら、次の試合に関心を向け始めた時のことだった。

    マンデー・ナイト・フットボールで、ガリー・ネビルが「ミニョレはセーブすべきだった」と唱えて、メディアにミニョレ・バッシングのネタを与えた。バイエルンのGKマヌエル・ノイアーの「スーパー・セーブ」の映像と比較して、「ノイアーに比べて、ミニョレは低い位置で構えているから、高い位置に飛んでくるシュートを防ぐことができない。ジャギエルカのゴールは確かに改心のゴールだった。しかし、ノイアーならば止めていただろう」とミニョレ批判を打ち出したのだった。

    これに対して、同番組のレギュラーとしてガリー・ネビルと共にイングランドのファンから高い評価を受けているジェイミー・キャラガーが、「Liverpoolでクラブ史上に残る偉大なGKとして名を残すには、ビッグ・マッチで超スーパー・セーブをする必要がある。ジャギエルカのゴールは、ミニョレにとってその絶好のチャンスだった」と同意したことで、世間のミニョレ批判は一気に爆発することになった。

    Liverpoolファンは、「キャラのコメントは、Liverpoolに対するひいき心から出たものだと納得できる。でもガリー・ネビルの、あのゴールをセーブできなかったからとミニョレを批判する意見には賛成できない」と流したものの、世間のミニョレ批判は激化する一方だった。

    10月22日には、アンフィールドでのCL戦でレアルマドリードに0-3と敗戦を喫した時に、ピークに達した。「昨年の優勝チームにホームで敗戦を食らうことは、必ずしも『恥』とは言えない。ただ、その負け方は『恥』を通り越して『危機』の域に達している。3失点のうち2点は、セットピースでディフェンスがパニックに陥ってプレゼントしたもの」と、イングランド中のメディアが厳しく書き立て、「最近18試合でクリーン・シートは僅か1回」という記録をクローズアップして、非難の矛先をミニョレに向けた。

    そんな中で、ピーター・シュマイクルのミニョレ擁護のコメントが出たのだった。折しも、イングランドのメディアが「ミニョレに代わるGK」としてLiverpoolが1月の移籍ウィンドウで獲得を計画している選手の名前を具体的に出して、憶測記事を書き立てている最中のことだった。

    「ミニョレは実力のあるGK。Liverpoolが失点を重ねて苦戦していることは確かだが、そんな時にGKに対して不当な非難の指をさすことは、不必要なプレッシャーを与えるもの。ジャギエルカのは改心のゴールだった。GKの構えが低過ぎるだの、元ライトバックから言われる筋合いはない」。

    シュマイクルの激励の余韻の中で、Liverpoolは10月25日にアンフィールドでハル・シティに0-0と引き分けて、メディアの「最近18試合でクリーン・シートは僅か1回」批判に終止符を打った。

    試合後のリバプール・エコー紙の「今こそミニョレを全面的にバックアップすべき時」という記事に、Liverpoolファンは大きく頷いた。

    「元ユナイテッドのピーター・シュマイクルとガリー・ネビルが、4週間前のダービーの話を蒸し返したことで、ゴール前に立つミニョレが一挙一動を監視され、メディアのさらし者にされている状況を改めて認識させられた。今季の失点の中でミニョレが責任を問われるべくものは皆無とは言わないし、LiverpoolがGKを含めてディフェンス強化が必要であることは誰の目にも明らか。しかし、戦力補強をするにせよ最短でも1月までは現在のメンバーだけが頼りというのも真相。良い選手が一夜で悪い選手に変わることはあり得ない。でも、苦戦が続き自信を失い、悪循環に陥る。そんな時に、今の選手たちが自信を取り戻して良いプレイができるようになるには、ファンが全面的にバックアップするしかない」。

    フットボールの価格

    10月15日に放映されたBBCの「フットボールの価格」という特集番組が、その週のイングランドの話題を独占した。ここ4年間のプレミアリーグの各クラブのチケット代の値上率が、英国の一般的な物価上昇率の2倍であるという数字を示したものだった。更に、スタジアムで紅茶とホットドッグ程度の軽食を取る場合の価格を加えた実質的な出費を計算し、「1人のファンが負担する1試合の平均価格」の高騰ぶりを問題視したものだった。具体的な価格はクラブ間の差異や、座席などによりチケット価格が異なるという差異はあるが、1人当たり£33(約6,000円)~£120(約22,000円)という実態に、政府も調査を開始する意向を表明するに至った。

    Liverpoolファンの間では、深刻な問題として頻繁に話題に上がる議題だった。「シェフィールド・ユナイテッド(現在3部)ファンの友人は、プレミアリーグには戻れない方が良い、と言っている。『金持ちのレジャー化したプレミアリーグに比べて、3部では全国どこに行ってもチケット代が安い。チェルシーと対戦して、£85(約16,000円)のチケット代プラス旅費、£2(約370円)の紅茶+£4(約400円)のホットドッグなどなどに大金を費やすより、このまま3部に残って、スター選手はいないけども無理なく払える金額で試合を堪能する方が満足感は高い』と。半分は自嘲的なジョークかもしれないが、本音もあると思う」。

    元ブラックバーンなど(現役時代は1993-2008)、現在はBBCのアナリストとして活躍しているロビー・サベージが、ファンの批判を裏付けるかのように、「金持ちのレジャー化」したプレミアリーグで恩恵を受ける選手の実態を語った。

    「ファンにこれほど大きな負担をかけて、その高騰するチケット代の一部で飛躍的な昇給を受けている選手たちは、ファンの痛みを分かっていない。最近、エバトンのスティーブン・ネイスミスがポケットマネーで地元の失業者にチケットを贈呈して話題になったが、これはごくごく例外。自分も現役時代はそうだったが、殆どの選手はチケット代がいくらかすら知らないのが実情。先日、CLの試合でマンチェスターシティの空席を非難したポール・スコールズとリオ・ファーディナンドも、ファンにとってチケット代がどれほど負担かという実態を理解していたら、あの言葉は出なかったと思う」。

    かくして「フットボールの価格」の話題が頂点に達していた10月18日のプレミアリーグで、サンダーランドがアウェイでサウサンプトンに8-0と大敗した試合の後で、チケット代が別な形で話題に上がった。イングランド北端のサンダーランドからイングランド南端のサウサンプトンまで、往復640マイル(約1,000キロ)を駆け付けた2,600人のサンダーランド・ファンが、試合終幕に、定番の「赤と白」の応援歌を合唱する姿がその日のハイライト番組で流され、「サンダーランドの選手たちは、このファンのサポートを受ける資格がない」と酷評されたのだった。

    その直後に、サンダーランドのGKビト・マンノーネが「こんな素晴らしいファンにこんな思いをさせるなんて恥ずかしい。自主的な罰金という形で、選手全員で2,600人のファンにチケット代を払い戻したい」と宣言した。

    これに対して、サンダーランドのサポーターズ・クラブの代表者が、「選手が我々ファンのことを気にしてくれることは、ありがたいと思う。しかし、我々が選手たちに期待しているのは、チケット代を払い戻すことではなく、次の試合でピッチの上で返してくれること」と語り、イングランド中のファンの拍手を誘った。

    ファンは、勝っても負けてもチームをサポートする。「負けたからチケット代を払い戻す、というのは本質から外れた議論。選手が自主的に罰金を払うことに異議を唱えるつもりはないが、その資金はもっと建設的な使途に回して欲しい」というサンダーランド・ファンの言葉に、イングランド中のファンが一斉に同意を示した。

    たとえチームが情けない試合をしようとも、大差で負けようとも、ファンの忠誠は変わらない。しかし、クラブや選手が、ファンのサポートを当たり前と考えるのは間違いだ。

    地価が高い首都ロンドンのクラブは、昔から他都市に比べてチケット代が高く、「フットボールの価格」の調査でも、最高値はアーセナル(£97/約18,000円)だった。しかしクラブごとの最安値を比較すると、Liverpool(£40/約7,400円)が最も高く、「失業率最悪のマージーサイドで、これではチケット代が払えなくて断念するファンが出るのは現実的な問題」と、大きな批判を集めた。

    「'コップ'と言った時に、世界中のフットボール・ファンの殆どが、Liverpoolのホーム・スタジアムであるアンフィールドの有名なスタンドのことだと瞬時に理解する。でも、例えば、'ストレトフォード・エンド'と言った時に、どのクラブのことか分かる人はどれだけいるだろう?」と、Liverpoolファンは振り返る。

    「そのコップとは、何があっても忠誠を尽くすファンのこと。Liverpoolのチームは黄金の70,80年代の強さはなくなったかもしれないが、ファンが変わらない以上、アンフィールドは永遠に聖地であり続ける」。

    ファンがいないフットボールはあり得ない。そして「フットボールの価格」は、ファンが今後もチームをサポートし続けられる環境を、クラブが財政面で見直す必要があることを説いたものだった。

    代表選手の「謎の負傷」

    10月のインターナショナル・ウィークは、ラヒーム・スターリングがイングランドのヘッドラインを独占した。10月12日のエストニア戦で、後半64分にサブで登場したスターリングが得たフリーキックをウェイン・ルーニーが決めて、イングランドが1-0と勝った試合の後で、ロイ・ホジソンが「スターリング本人が『疲労のため体力が回復し切れていない』と言ったので先発から外した」と公表したことが発端となった。

    イングランド中が蜂の巣をつついたような騒ぎとなった「ラヒーム・スターリングが疲れているから外して欲しいと申し出た」事件に、メディアの反応は二分した。

    「代表チームのシャツを着て試合に出るプライドのかけらもない怠け者」とスターリングを酷評した陣営の中には、元イングランド代表選手のアナリストも多数含まれていた。この夏のW杯ブラジル大会では「ボーイ・ワンダー」と言われ、イングランド中の賞賛と期待が集中したスターリングが、一瞬にして諸悪の根源になった。「予選で疲れているから出たくない、と言うような選手は本大会でも代表チームから外れるべき」。

    いっぽう、スターリング擁護に回った側は、ホジソンの言動を問題視した。「代表監督が、選手との内密の会話を公の場に晒したのは過ち。その結果、スターリングは非難の嵐の中に単独で投げ込まれた。しかも、今回の件で、代表チームの他の選手にも『ホジソンには何も言えない』という懐疑心を焼き付けた」。

    後者の中には、ライバル・チームの新旧選手も含まれていた。リオ・ファーディナンド(現QPR)もその一人だった。「スターリングの行動は正しい。イングランド代表チームの選手たちは疲労や不調を感じていてもプライドが高すぎて、絶対に言わない。しかし外国の選手は、疲労を感じた時には休んで、調子を整えて試合で実力を発揮する」。

    Liverpool陣営では、擁護派の全国版メディアの言い分に加えて、ロイ・ホジソンに対する批判色を強めた。

    「昨年11月にダニエル・スタリッジがイングランド代表チームで負傷させられて、直後のマージーサイド・ダービー(試合結果は3-3)に先発できなかった時にも、ホジソンの一言がブレンダン・ロジャーズの怒りを増幅した。試合前に既に軽傷を負っていたスタリッジを、重要とは言えない親善試合(対ドイツ、1-0でドイツの勝利)に出した理由を、『スタリッジの忍耐力を試したかった』と説明した」と、リバプール・エコー紙は辛辣な文面でつづった。

    「今年の9月にスタリッジが再びホジソンに負傷させられた時に、ロジャーズが『スタリッジを負傷の危険から守るために、Liverpoolでは、試合の後48時間は回復期間を設けている。イングランド代表チームではそれを無視して、回復期間中に本格的なトレーニングをしたために負傷を負った』と批判したのに対して、ホジソンは『代表チームでは48時間も選手を休ませる余裕はない』とLiverpoolの手法を批判しただけではなく、『スタリッジ本人はトレーニングを拒否しなかった』と責任転嫁した。今回、スターリングが負傷させられないために申し出たところ、ホジソンはその会話を公表して世間の非難をスターリングに向けさせた」。

    まさにその「世間の非難」は激化する一方だった。第三者というチームのファンからの批判の中には、スターリングがジャマイカ出身で5歳の時にイングランドに転入してきた経歴を題材にしたものも混じっていた。「イングランド代表チームの試合に出るのがイヤならば、ジャマイカに帰るべきだ」、「疲れているから外してくれって?ジャマイカ代表チームなら疲れないんじゃないの?」。

    そんな中で、隣町から聞こえてきた宿敵マンチェスターユナイテッド・ファンの声が、Liverpoolファンの心を温めた。「この一連の騒ぎは、実質的には昔からある『国対クラブ』の対決。ホジソンとロジャーズが真っ向から対立する、というならば理解できるが、19歳の選手を矢面に立たせるのは間違い」と、メディアの過剰反応を批判した上で、本来の問題に対する見解を語った。

    「ファーギー(サー・アレックス・ファーガソン)の頃には、インターナショナル・ウィークの度に、ユナイテッドの選手の『謎の負傷』(※)が注目を浴びた。今、世の中の非難がユナイテッドではなくLiverpoolの選手に向かっている、という状況は、意外過ぎてピンと来ないくらいだ」と笑いながら、「その頃、我々ファンはファーギーを全面的に支持した。ロジャーズも同様に、自分の大切な選手をイングランド代表チームで無謀な使われ方をすることに対して異論を唱える権利があると思う」。
    ※負傷を理由に代表チームを外れた選手が、インターナショナル・ウィーク明けのリーグ戦には『脅威の回復』を遂げて先発することから、メディアが『謎の負傷』と称したもの。

    「ただ、スターリングに疲労を溜めさせたのはイングランドだけでなくLiverpoolにも責任はある。スタリッジの負傷のためスターリングに負荷がかかり過ぎたのは明らか。そして今回の件で、ロジャーズのプレッシャーはより大きくなった。次の対戦相手であるQPRは現在最下位で、Liverpoolにとっては必勝の試合。しかも、3日後にCLのレアルマドリード戦を控えて、スターリングの使い方にも注目が集まってしまった」。

    Liverpoolファンは、ライバル・ファンの冷静な分析に頷きながら「ホジソンが代表監督を勤める限りは、今後はロジャーズもファーギーの『謎の負傷』手法を見習うべきかもしれない」とジョークを言いながら、必勝のQPR戦に思いが馳せた。スタリッジが5週間ぶりに復帰する朗報に期待を膨らませる一方で、苦しいスタートになったプレミアリーグは、いよいよ厳しい局面に差し掛かった。

    ふたを開けたのは誰?

    この夏にLiverpoolでの8年間に終止符を打って、古巣である母国デンマークのブレンビーIFへと去って行ったダニエル・アッガーが、ほとぼりが冷めた9月21日にデンマークのTVで語った「Liverpoolを出る決断の背景」は、Liverpoolファンの間で大きな話題になった。

    「Liverpoolでの最後の8ヶ月に、ブレンダン・ロジャーズとは殆どまともに会話したことがなかった」と、監督との亀裂を明かしたアッガーの言葉は、「アッガーがとうとうふたを開けた」という見出しでイングランドのいくつかのメディアが引用した。

    過去の苦い出来事について、やっと傷口がふさがった頃に持ち出して「真相」が明るみに出る、という意味の「ふたを開ける」という表現は、フットボール界では、去って行った選手や監督のショッキングな証言を指す慣用句として使われる。しかも、その真相とは誰もが薄々察していたもので、あえて耳にするよりはふたを閉めたままにしておきたかった、というネガティブな反応を示唆することが多い。

    そのアッガーのインタビューの中でLiverpoolファンに最も重たかったのは、「僕は常にチームを優先してLiverpoolのために行動した。それが選手の任務だと信じていた。でも、最後の1-2年で、自分のためにチームを踏み台にすることもためらわない、という人もいることを実感した。自分には絶対にできないことだが、そういうやり方もあるのだと知って、目が開けたような気がした」というくだりだった。具体的な名前は上げなかったが、デンマークのメディアは「ルイス・スアレスのことを指している」と解釈していた。

    スアレスの「ふたを開けた」のは、スティーブン・ジェラードが最初だった。9月のインターナショナル・ウィーク中に、旧友で昨年からスカイのアナリストとして活躍しているジェイミー・キャラガーのインタビューで、ジェラードがイングランド代表での最後のW杯(2014年ブラジル大会)について語った時のことだった。「W杯敗退決定の直後に、沈んだ気持ちで見ていたイタリア対ウルグアイ(試合結果は1-0でウルグアイの勝利)で、あの『噛みつき事件』は壊滅的な打撃だった。これはスアレスがLiverpoolを出る足固めに出たのだと直感した。イングランドでも希望を失い、Liverpoolでもベスト・プレイヤーを失うダブルパンチになった」。

    このジェラードの言葉は、Liverpoolファンの間で、「誰もが薄々感じながらあえて口にしなかった真相」だった。続いて今回のアッガーのインタビューで、スアレスの「ふた」が全開することになった。

    スアレスが2011年1月にLiverpool入りし時に既に、オランダでの経歴は有名だった。スアレスにヨーロッパ進出の舞台を与えたフローニンゲンを出てアヤックスに移籍した2007年に、最初は出し渋ったフローニンゲンを訴えるという行動に出たこと(最終的にはアヤックスが移籍金を上げて打開)、更に、次のステップに進むために相手選手を噛んでアヤックスを出た話は、ヨーロッパ中に知れ渡っていた。

    その経歴を持ってLiverpoolに来たスアレスが、2013年4月には、CLなしで低迷していたLiverpoolを見限って、出て行くために2度目の噛みつき事件を起こした。ただし、ここでスアレスの計算が狂った。Liverpoolが放出を拒否したため、スアレスの計画は延期を余儀なくされたのだった。

    その2013年夏の茶番劇の最中にも、スアレスの意図は誰の目にも明白だった。その時点では法的な効力がなかった「違約金」£40M+1を提示して獲得に動いたアーセナルの、ファンの間では現実的な議論が交わされた。「スアレスにとってCLは目的ではなく手段。アーセナルに来てCLに出て、本当の目的であるスペインの二大クラブの目に留まり、1年後にはスペインに行ってしまう計画は見え見え。それでも、今季だけでもアーセナルのトロフィー獲得を助けてくれるならば、ファンとしては割り切ってスアレスを応援する」。

    Liverpoolのトップ4入りとスアレスの得点王が現実的になった2013年12月に契約更新にサインした時、Liverpoolファンは、スアレスにとってLiverpoolは踏み台に過ぎないという真相に「ふた」をする決意を固めた。その新たな契約に有効な違約金条項が含まれていたこと、LiverpoolがCLの目標を達成しても、スペインの二大チームから誘いが来ればスアレスは出て行くだろうとは、誰もが心の中で確信していた。

    そして予想通り、この夏にスアレスはバルセロナへと去って行った。

    アッガーが「目が開けた」と表現したスアレスのやり方は、ファンにとっても強烈な印象を植え付けたことは否めない。ふたを開けたくなかった反面、出て行ったスアレスに対して非難を感じなかった理由は、たとえ次のステップへの通過点だったにせよ、「Liverpoolで優勝を目指す」と宣言し、自分の言葉を実現するために全力を尽くしたことだった。

    「5月のクリスタルパレス戦で、3-0とリードしながら3-3の引き分けに終わり、優勝に実質的にピリオドを打った試合の後で涙を流したスアレスが、チームメイトとファンに向かって『Liverpoolでの置き土産としてリーグ優勝を達成したかったのに、それが出来なかった』と謝る声を聞いたような気がする」と、ファンは頷いた。

    これからスアレスは、30代中ごろまでスペインでバリバリ活躍してバロンドールを取り、最後は母国ウルグアイの心のふるさとであるナシオナルに戻って引退するのだろう。そのキャリア・プランを実現させる能力と決意を持った選手であることを知っているLiverpoolファンは、今後のスアレスの行方を楽しみに見つめ始めた。

    なくしてから気づくもの

    イングランドのファンの間では、CLのテーマ音楽はひどく不人気とは有名な話だ。例えばチェルシーやアーセナルで、ホームでのCL戦の前にこの音楽が流れると、スタンドのファンは、あたかもこの音楽が耳障りな雑音だとばかりに自分たちのチャントを激化する。Liverpoolファンも例外ではなく、ほぼ常連だった2009-10季まで、毎試合でこの音楽をかき消す音量のチャントがアンフィールドのCL戦の風物詩だった。

    そのCLの音楽と縁がなくなってから5年経ち、久々のCL復帰となった今季、Liverpoolファンは苦笑しながら本音を漏らした。「以前は、あの冗長な音楽がうっとうしかった。でも、今は聴きたくて聴きたくてたまらない」。

    しかし9月16日のアンフィールドでのPFCルドゴレツ・ラズグラド戦で、Liverpoolファンは、あれほど待ち焦がれたテーマ音楽が流れた途端に、それを合図に声を張り上げ、5年前のコップの風景で塗りつくした。感動に震えながら清聴していたい気持ちを抑えていつもの態度を貫くファンの姿に、実況放送のアナウンサーは「ヨーロッパ中にその名を知られているコップは、今日も試合前から気合いに満ちています」と賞賛した。

    ふたを開けるとCL1週目は、チェルシー(対シャルケ04、1-1)、アーセナル(対ボルシアドルトムント、0-2)、マンチェスターシティ(対バイエルンミュンヘン、0-1)が揃ってポイントを落とし、イングランドのメディアはさっそく「受難のCL」と危機説を打ち出した。唯一、勝星でスタートしたLiverpoolも酷評を免れなかった(試合結果は2-1)。元エバトンのアナリスト、ケビン・キルバーンが「Liverpoolはとても、とても、とてもラッキーだった。グループ・ラウンド全6試合中、最も勝ちやすいと思える試合で、引き分けがせいぜいという内容だった」と畳みかけた。Liverpoolファンは「元エバトンのアナリストがLiverpoolを褒めるはずがない」と口先では反論しながらも、批判されても仕方ないプレイだったことは誰もが認めていた。

    そして2週目の9月30日~10月1日は、チェルシー(対スポルティングリスボン、1-0)とアーセナル(対ガラタサライ、4-1)がそれぞれ勝利を記録する中で、ホームでローマに1-1と引き分けたシティが、元ライバル・チームのアナリストからぼろくそに言われる憂き目を見ることになった。

    「試合開始30分前のスタンドは、空席だけが目立った。アンフィールド、オールド・トラッフォード、チェルシーなどなどと比べて、シティはCL特有の雰囲気が全く感じられない。今のシティは勝てる選手を揃えた強豪であることは事実。でも、ファンは?彼らはCLに出られる栄誉を理解しているとは思えない」。

    ITVの解説者として活躍している元マンチェスターユナイテッドのポール・スコールズが、批判の矛先を、僅か37,509人と発表されたこの日の観客に向けたことで、イングランド中の話題を独占することになった。折しも、エティハド・スタジアム(シティのホーム)ではスタンドの拡張工事が開始したばかりで、「今でも空席だらけのスタジアムを、6万2千人にすれば空席が増えるだけ」という皮肉がメディアを飾った。

    これに対して第三者のチームのファンは、「スタンドの空席の数について、ライバル・ファンがジョークにして笑うのはそれはそれ。でも、不況にも拘わらずチケット代は上がる一方で、ファンの財政的負担は多大。そのファンの負担で給料をもらっている選手やアナリストがファンを批判するのは反則」と、シティ・ファンに対する同情の声が大きかった。

    Liverpoolファンも、「この3万7千人のファンは、チームが3部落ちした1998–99季にも忠誠心を維持し、プレミアリーグ優勝を達成する栄誉の土台を作った人々。彼らを批判するのはお門違い」とシティ・ファンを擁護する一方で、自分たちの経験を振り返った。「決して安くないチケット代£50を支払って、平日の夜にCLグループ・ラウンドの試合に行くのは負担だ、という言い分は理解できる反面、それが出来るのは恵まれた環境にあるということを、彼らもCLの試合に行きたくても行けない悔しさを味わうまでは、わからないかもしれない」。

    その言葉が聞こえたかのように、シティ・ファンの間でも、ユナイテッドのワン・クラブ・マンだったスコールズに対する反論が渦巻く中で、自分たちの足元を見つめなおす声が上がった。「スタンドの空席は、チケット代だけが理由なのだろうか?同地域にあるユナイテッドや、経済情勢ではもっと悪いリバプール市にあるスカウサーが、CLの全試合で超満員になる実態を考えると、我々が出来ないというのは言い訳だと思う。アンフィールドでのルドゴレツ戦を見て、不調に苦しむチームを全力でサポートするスカウサーの姿には、正直、感銘を受けた。あの試合は、スタンドのファンがチームを引っ張り上げて決勝ゴールをたたき出した」。

    さてLiverpoolは、10月22日に次のCL戦でアンフィールドにレアルマドリードを迎える。10月1日のアウェイでのCLバーゼル戦で0-1と敗れた試合の後で、「我々は、絶対に勝つという気力に欠けていた。バーゼルの方が意気込みで優っていた」と語ったスティーブン・ジェラードは、CLのテーマ音楽を5年間待ち続けたファンがスタンドから引っ張り上げる力に、チームが答えなければいけないことを理解していた。
    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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