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    歴史的勝利

    1月14日、アンフィールドでのマンチェスターシティ戦(試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)は、その日のハイライト番組や全国メディアが一斉に「プレミアリーグのプロモーションにふさわしいクラシック」と絶賛した。今季それまで22戦無敗で、2位に15ポイント差で首位を独走するシティにLiverpoolが初黒星を与えたことや、攻撃力ではプレミアリーグのトップを争う両チームが期待通りのゴール・ラッシュで白熱した試合となったことで、「世界中のフットボール・ファンにプレミアリーグの魅力を披露した」と、イングランドのメディアは鼻を高くした。

    そして、両チームの地元紙のレビューは、必然的とも言える程に同期を取っていた。リバプール・エコー紙が、ペップ・グアルディオーラの試合後のLiverpoolに対する賞賛のコメントを好意的な文面でトップに掲げたのに対して、マンチェスター・イブニング・ニュース紙は、ユルゲン・クロップのシティへの絶賛をクローズアップした。

    「ユルゲン・クロップが『歴史的勝利』と表現した事実が、シティが大いに自信を得るべき実態の表現。ヨーロピアン・カップ優勝5回のLiverpoolの監督が、シティを破ったことの意味を多大なことだと語ったのだから」と、同紙は強調した。「シティは素晴らしいチームで、恐らくもう敗戦することはないだろうから、我々は誇るべきことをやった、とクロップは語った」。

    「内容的にはLiverpoolが圧倒的に優位だった。それなのに、クロップは4-3という僅差の勝利は正当だとすら言った」と、同紙はクロップを絶賛した上で、クロップのLiverpoolを褒めちぎった。「ペップは何度も言っていた。今の激戦プレミアリーグで無敗でシーズンを終えることは不可能に近く、必ず負けるだろう、と。その『不可避の敗戦』を食らった相手が、真っ向から攻撃してシティを制したのだから、シティ・ファンも納得する敗戦だった」。

    いっぽう、リバプール・エコー紙は、「Liverpoolが強かったから我々は負けた、とグアルディオーラは開口一番に相手チームを讃えた」と、グアルディオーラの言葉を引用した。「素晴らしい試合だった。Liverpoolは良いスタートを切り、優位に立った。その後は我々も調子を上げたが」。

    「我がチームにとっては今季初敗戦となった。しかし、それは我がチームが既にどれほどのことを成し遂げたか、ということの証明でもある。この敗戦は、これが現実なのだと肯定的に受け止めるべきだと思っている」。

    グアルディオーラは、シティはアンフィールドの大声援に押された、と敗因を語った。「ただ、我々が大声援にひるんでダメなプレイをしたのではなく、Liverpoolが良かったから負けた。それは、フットボールにとっても良いことだったし、我々にとってもプラスに働くという自信がある」。

    グアルディオーラの潔いコメントは、Liverpoolの地元紙とファンの敬意を引き出し、同時にクロップの言葉は、マンチェスターシティの地元紙とファンに拍手をもたらした。少なくないシティ・ファンが、「アンチ・フットボールに徹し、0-0狙いで来るチームに対して、クロップのLiverpoolはお手本を示した」と笑顔を浮かべたことが、クロップが「歴史的勝利」と表現した、この試合の意義を物語っていた。

    そんな中で、Liverpoolファンにとっては、純粋な「相手に対する敬意」に加えて、クロップが「歴史的勝利」と言った言葉のもう一つの意味をかみしめていた。

    「フィリペ・コウチーニョを取られたLiverpoolはトップ4の望みも断たれた、と世の中のアナリストが冷笑する中、クロップは『Liverpoolのシャツのために全力を尽くす』選手たちを指揮し、プレミアリーグ優勝ほぼ決定のチームに対して、正面から戦って勝った。それは、クロップと残された選手たちの『宣言』だった」。

    ベスト・プレイヤーに出て行かれる近年の負の連鎖を食い止め、選手がLiverpoolをキャリアの頂点と据えるステータスを名実ともに復元することをミッションの一つとして掲げて入ってきたクロップにとって、コウチーニョのぶり返しは痛かったし、その一人だったラヒーム・スターリングのアンフィールド訪問は、ファンにとっても歴史的な意味を持っていた。

    それだけに、昨年夏に£8mの移籍金で降格したハル・シティから入ってきたアンディ・ロバートソンが、全力で走りスターリングを手玉に取った果敢なプレイは、ファンの心を打った。

    「何度かボールを奪った時に、スタンドのファンが僕の名前をチャントしてくれた。あれを聞いて全身が奮い立った」と、ロバートソンは試合後のインタビューで語った。「これまでもずっと、全面的にサポートしてくれていたファンには感謝していたが、今日の試合は特別だった」。

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    待ちに待った新戦力

    プレミアリーグがクリスマスの過密日程に突入し、マンチェスターユナイテッドがレスター(試合結果は2-2)、バーンリー(試合結果は2-2)と立て続けの引き分けた時に、ジョゼ・モウリーニョが「マンチェスターシティの資力と互角に戦うには、あと£300mの戦力補強投資が必要」と唱えて、イングランド中の話題を独占した。

    直後に、ジェイミー・キャラガーが、「ペップ・グアルディオーラが記録を塗り替えまくっている(=ブロークン・レコード)傍ら、ジョゼ・モウリーニョは壊れたレコードのように(=ブロークン・レコード)振る舞い続けている。選手はそのままで監督を取り換えたとしたら、ペップはユナイテッドを今のシティの立場に引き上げただろう」と、モウリーニョにカウンターを与えた議論は、チームを問わず圧倒的多数のファンの同意を引き出した。

    「ペップはシティで、今の戦力を増強しながら長期的視野で獲得した選手や前監督から引き継いだ有望若手を育て、今後も勝ち続けるチームを構築してきたのに対して、モウリーニョはワールドクラスの選手を獲得して今勝てるチームを編成することに集中している。2-3年後のことを考えたやり方には見えない」というキャラガーの主張に対して、ユナイテッド・ファンの間でも「その通りだ」という反応が交された。

    ユナイテッドの目論見としては、サー・アレックス・ファーガソン引退を最後にリーグ優勝から離れている状況を食い止め、再び優勝争いの常連に復帰する土台作りのために、「3年目シンドローム(=就任2年目にリーグ優勝、その翌シーズンには内紛を起こして出て行く)」のリスクを承知しながらモウリーニョを監督として迎えた、とは誰もが指摘するものだった。「タイトル争いに復帰するためには、ネガティブなフットボールも我慢する」と、少なくないユナイテッド・ファンは本音を明かしていた。

    一方で、魅力的なフットボールで首位を独走しているシティに対しては、ひたすら羨望のため息が出ていた。

    Liverpoolファンも例外ではなかった。「チーム力を向上させるためには、戦力補強(トランスファー)よりもトレーニングが重要、と口癖のように語るユルゲン・クロップは、その意味ではペップと同じ信念を掲げている。開始地点の戦力に既に大きな差があったことと、戦力確保のための資金は制限なしという財力が、今のシティとLiverpoolの順位に反映している。でも、クロップの選手育成方針が実を結べば、対等な争いになるに違いない」と、クロップに対する信頼はゆるぎない一方で、現在のシティの優位に関しては疑問の余地はなかった。

    それだけに、12月末に、サウサンプトンが1月にフィルジル・ファン・ダイク放出の方向性を暗示したと同時に、シティが本腰を入れてファン・ダイク獲得に出るという噂が立ち上った時には、Liverpoolファンの間で、諦めの悲鳴が飛び交った。「他のチームならば、絶対にクロップのけん引力が勝つと自信がある。でも、シティは同じように有能な監督がいて、同じくセンターバック補強を急務としている。しかも、今季はもうリーグ優勝メダルが約束されているようなもの。両方から引っ張られれば、どちらを選ぶかは自明」。

    そして、ファン・ダイクのシティ入りが内定した、という噂を上書きするかのように、12月27日にLiverpoolがファン・ダイク獲得を発表した。

    「夏にサウサンプトンと決別した後で、代わりのセンターバックを取らなかったのは、ファン・ダイクを待つことに決めたからですか?」と聞かれて、クロップはニヤッと笑った。「その質問に対して回答して良いものかどうか、弁護士に相談します」。

    「ブラックプールの密会が実を結んだ」とジョークを言って笑いながら、Liverpoolファンは歓喜にむせった。「身長あり、ボール・テクニックが一流で、声を出して守りを仕切るリーダー。まさにクロップにぴったりのタイプで、しかも既にプレミアリーグ随一のセンターバックと評価される程の実績を上げているのに、まだ26歳と成長の余地がある。クロップの下で更に磨きがかかれり、チームを底上げする重要な戦力になってくれるに違いない」。

    かくして、クロップもファンも待ち焦がれた新戦力となったファン・ダイクは、1月1日の初出勤日に、LFC TVのインタビューで、期待通りの第一声を発した。

    「このクラブがビッグ・クラブだということに加えて、伝統と独特な文化があること。有能な監督と一流の選手がそろっているし、素晴らしいファンがいる。監督は選手の能力を最大限に引き出し、それを更に向上させてくれる人。この監督の下でもっともっと成長したいと思った」とファン・ダイクは、Liverpoolを選んだ理由を熱く語った。

    「アンフィールドはスペシャルなスタジアム。このスタジアムで、ホームの選手としてプレイする日が待ち遠しい」。

    ジェームズ・ミルナーの「たいくつ」コメント

    12月22日のアーセナル対Liverpoolのプレミアリーグ戦が、全国メディアの間で「マッチ・オブ・ザ・ウィーク」と絶賛を受けた。Liverpoolが2-0とリードした後で、アーセナルが53-58分の5分間に3ゴールで逆転、最後は71分の同点ゴールで3-3と引き分けた試合は、TVで見ていた第三者の目には興奮ものだった。

    ただ、内容的に優位に立ちながら、得点チャンスを逃しているうちにミスから失点し、2ポイントを逃したLiverpool陣営は、渋い顔が浮かんでいた。

    その時、スカイTVの試合後のインタビューで、ジェームズ・ミルナーが、「あれほど優勢に試合を進めていたのに決められなかった。我々はもっと『たいくつ(ボーリング)』になる必要がある」と、失望と反省を語った表現が、イングランド中のファンに大うけし、同じくらい大きなヘッドラインを飾ることになった。第三者に絶賛される面白い試合をして1ポイント取るよりも、「たいくつ(ボーリング)」でも良いから3ポイントを死守すべき、というミルナーの意図は誰の目にも明らかだった。

    しかし、例の「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」というTwitterのパロディ・アカウントがあまりにも広まり過ぎたため、今回のミルナーの真面目なコメントが爆笑を買ったのだった。Liverpoolファンの間でも、「ミルナーの口から『たいくつ』という言葉が出たので、思わず吹き出してしまった」と、笑顔が浮かんだ。

    すっかりフットボール界に定着した「たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」は、地道にパロディのメッセージをポストし続けていた。

    その中に、昨2016-17季3月のマンチェスターシティ戦の直後のものがあった(試合結果は1-1)。「エムレ・ジャンが、なんでシティ・ファンが僕に対してブーイングを飛ばすのか?と質問したので、スタンドを見たところ、目に入ったのは空席だけだった」。

    その頃には明らかに耳に着くようになっていたシティ・ファンのミルナーに対するブーイングについては、少なくない全国メディアが、「シティ・ファンは、わずか2年前までミルナーが誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした実績を忘れてしまったようだ」と、批判を掲げた程だった。それを、ユナイテッド・ファンの枕詞である「エティハド・スタジアムの空席」ネタで軽いパロディに仕上げたものだった。

    シティ・ファンのミルナーに対するブーイングは、2016年3月のアンフィールドでのプレミアリーグ戦(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)がきっかけだった。Liverpoolは、その試合で3日前のリーグカップ決勝戦(試合結果は1-1、延長の末PK戦でシティが優勝)の雪辱を果たしたのだが、PKを決めたミルナーが、アウェイ・サポーター・スタンドの目の前で、右手で何かを振り回すようなしぐさでゴールを祝った、そのジェスチャーがシティ・ファンの反感をそそる結果になった。

    「選手が古巣との対戦で得点した時に、ゴールを祝わないことがファンに対する敬意だ、という説には特に賛成はしていない。だから、ミルナーが祝ったことを責める気はない。ただ、あれは、ヤヤ・トゥーレがリーグカップ決勝でPKを決めた時にシャツを脱いで振り回した、あのジェスチャーをパロッたもので、ミルナーはシティに対して反感を投げつけた」という動揺の声がシティ・ファンの間で上がった。

    ミルナーがあのジェスチャーをした理由は定かではないが、シティ・ファンのブーイングを招き、たいくつ(ボーリング)なジェームズ・ミルナー」のパロディにネタを提供することになった。

    それでもミルナーが、「誇りを込めてシティのシャツを着て全力を尽くした」5年間の経験は、今のLiverpoolの中でも大きなプラスに働いていることは、アンディ・ロバートソンの証言からも明らかだった。

    夏にハル・シティからLiverpoolに移籍したロバートソンは、当初の予定ではミルナーからレフトバックのポジションを引き継ぐはずだったが、アルベルト・モレノの復調の陰でチャンスが得られない日々を過ごした。そして、モレノの負傷をきっかけにチーム入りしたロバートソンは、安定したプレイでレギュラーの座を確保するようになっていた。

    「ミリー(ミルナー)は、あのパロディ・アカウントとは正反対の人物。控室で最もジョークを振りまく張本人」と、ロバートソンは笑顔で語った。「僕のような新入りの若手に対して、ものすごく面倒を見てくれる。ミリーのように長いことビッグ・クラブで活躍してきた先輩の、経験に基づく言葉は、若手にとっては貴重なアドバイス」。

    「僕にとっては、これが初めてのビッグ・クラブ。最初は学ぶことが多くて苦戦したが、その時にミリーが励ましてくれた言葉は心に響いた。お蔭で、僕は自信を保ちながら、チームに役に立てるよう頑張り続けることができた」。

    「何年もの長い契約の、僅か2-3か月経過したばかりで、何もかもこれからだ、たっぷり時間があるのだから、焦らず着実に成長しなさい、と教えてくれた」。

    リトル・マジシャンの長い「さようなら」

    2011年9月末のこと、母国スペインからプレミアリーグに来て間もなかったダビド・デヘアが、地元のテスコ(※英国の大手スーパーマーケット)でドーナツを「万引き」した事件が、イングランドのヘッドラインを飾った。「週給£70,000のスター選手が、£1.19のドーナツをつまみ食いしてお金を払わずに出ようとした」。結局警察には通報せず「示談」となったが、店の警備員に捕まってデヘアは顔を赤くして小さくなっていたという。当時20歳で世間知らずだったデヘアは、マンチェスターユナイテッドの正GKとして、スタートに躓いて苦戦していた頃のことだった。

    事件について、地元のファンが「プレミアリーグの、特にビッグ・クラブの選手は、お金を払って何かを買うということを知らない。衣類はスポンサーから『どうかもらってください』と頭を下げてプレゼントされるし、職場であるトレーニング・グラウンドには、レストラン並みの飲食物がクラブの経費で提供されているから、自分でお金を払うという行為は縁がないのだ」と、真顔で説明してくれた。

    今季開始間もない9月に、リバプール市内で雑貨店を経営しているLiverpoolファンが明かした実話も、通じるところがあった。「試合の前日の金曜日の朝、開店第一号の客が入ってきたと思ったところ、なんとフィリペ・コウチーニョだった。フェイスタオルが欲しいとのことで、£1.99だと価格を伝えると、フィルは『銀行に行ってお金をおろしてくる』と、真面目な顔で言った」。自分はLiverpoolファンだから、代金はいらないと言うと、コウチーニョは「本当にいいんですか?」と驚いたという。そして、ポケットをひっくり返して持っていた小銭を全て渡して、何度も何度も頭を下げて去ったとのことだった。「後から数えると、£1.63だった。週給£100,000のプレミアリーグのスター選手が、£1.99(約300円)のタオルを買う現金も持っていないとは」と、そのファンは苦笑した。

    £2そこそこのドーナツやタオルの買い方を知らないデヘアもコウチーニョも、プレミアリーグのビッグ・クラブの看板であり、ライバル・ファンから一目置かれている超一流選手だった。デヘアが2年前の夏に、自ら切望していたレアルマドリード入りが、ユナイテッドも(渋々)合意して成立したにも関わらず、期限内にFAXが届かなかったという事務的な手続きミスのために破断に終わった話は有名だった。隣人ネタのジョークに盛り上がるシティ・ファンですら、デヘアを「ドーナツ好き」と呼び、移籍の話題になると「FAX機は動くようになったか?」と笑いつつも、デヘアのスーパーセーブに真顔で拍手を送る。

    同様に、ピッチの上でマジックを披露するコウチーニョのプレイに魅了されるライバル・ファンが、「コウチーニョをバルセロナに取られたら、Liverpoolは戦力面で大きな打撃だろう」と、宿敵の弱体化を期待する半面で、「プレミアリーグでこの選手のプレイを見られなくなるのは寂しい」と、純粋にフットボール・ファンとしての声を上げていた。

    8月末には移籍リクエストを出してまでバルセロナ入りを強行しようとしたコウチーニョに対して、その時には「裏切られた」と嘆いたLiverpoolファンが、アンフィールドでのセビーリャ戦(試合結果は2-2)で今季初出場となったコウチーニョを盛大な拍手で迎えた、その心の底には、いずれは失うことになるコウチーニョのプレイを、今のうちに堪能しようという、痛みの伴う決意があった。

    12月6日のスパルタクモスクワ戦(試合結果は7-0でLiverpoolが勝ってCLラスト16に首位勝ち抜き)でハットトリックを決め、「ブラジル代表チームでは経験あったが、Liverpoolでは初めて。チームの重要な勝利に貢献できたので、僕にとっては最高のハットトリックになった」と、笑顔で語ったコウチーニョを拍手で見守りながら、Liverpoolファンは誰もが同じ気持ちを抱いていた。

    「リトル・マジシャンの長い『さようなら』は既に開始してる」と、地元紙リバプール・エコーがファンの気持ちを代弁した。折しも、1月の移籍ウィンドウに再びバルセロナが獲得に動くという噂がどんどん大きくなっていた。

    「夏にコウチーニョが移籍リクエストを出した時には、Liverpoolは代わりの選手を取る時間もないこともあり、押し切った。しかし今は、Liverpoolとしては代作を立てる時間が得られたし、ユルゲン・クロップが、出て行きたい選手をいつまでも無理に引き留めるとは考えにくい。そしてコウチーニョは、希望がかなえられなかったのに、文字通りLiverpoolで全力を尽くしている」。

    「Liverpoolで成長させてもらった恩を語り、クロップに対する感謝を公言し、それをピッチの上で実践しているコウチーニョを、行かせて上げるのが筋というもの。問題は、リトル・マジシャンの長い『さようなら』が、今季末まで続くのか、1月で終わるか」。

    壊された'ファブ・フォー'

    12月10日の通算229回目のマージーサイド・ダービーを控えた12月4日、年明け1月6日の週末に行われるFAカップ3回戦の組み合わせが発表され、初ラウンドでいきなり「FAカップ・ダービー」となったことで、地元の両陣営から大音量の反響が上がった。

    折しも、エバトンは「チームを降格から救う」実績を持つサム・アラダイスが新監督に就任し、リーグ2連勝で順位表の中頃まで上がってきたばかりだった。対するLiverpoolは、リーグ連勝に続き、12月6日のCL最終戦では「ファブ・フォー(※)」というニックネームが定着していた、サディオ・マネ、モー・サラー、ロベルト・フィルミーノ、フィリペ・コウチーニョの4人の攻撃が爆発し、スパルタクモスクワを7-0と破ってCLグループラウンド首位勝ち抜きを決めた時のことだった。

    ※オリジナルは、60-70年代に世界を一世風靡したビートルズを賞賛するニックネーム(The Fab Four)。リバプール市の4人組ということでメディアから授かった。

    すかさずジェイミー・キャラガーが、「気の毒なエバトン・ファン。クリスマスだけでなく、新年も頭痛で寝込ませられるとは」と、ジョークをSNSにポストして、世の中の笑いを買った。

    これに対して、リバプール市出身で筋金入りのエバトン・ファンで有名な、元WBC世界クルーザー級王者のプロボクサー、トニー・ベリューが「ダービーが近づくと頭痛がひどくなる」と告白し、地元のファンの気持ちを代弁した。

    「最後にアンフィールドで勝ったのは1999年のこと。以来、僕は3人の子供たちの父親になり、プロボクサーとして数えきれないほどのパンチを食らった」と、ベリューは悲痛な表情で語った。「子供の頃は、ダービーと言えば期待と興奮で胸を膨らませる行事だった。それが今は、不安をこらえながら試合に向かい、首をうなだれて帰途に着く、悪夢の代名詞になった」。

    リングでパンチを食らうのとダービーで負けるのとどちらがより痛いか?との質問に、ベリューは苦笑を浮かべた。「パンチを受ければ体が痛む。それに比べて、ダービーで負けた時の精神的苦痛は深く、長いこと消えない。エバトン・ファンにとってアンフィールドはストレスの住処」。

    ベリューの悲痛な言葉に、エバトン・ファンが一斉に頷いた横で、キャラがポツリと言った。「先日は、Liverpoolがエバトン・ファンを『クリスマスだけでなく、新年も頭痛で寝込ませる』と言ったが、しかし逆の結果になれば、僕自身がつるし上げを食らうことは覚悟している」。

    ふたを開けると、キャラの「覚悟」が現実となった。

    Liverpoolは過密日程のローテーションを貫き、スパルタクモスクワ戦から6人交代したチーム編成で臨み、ポゼッションで80%の優位に立ちながらも得点チャンスを逃しているうちに、77分のPKで1-1と引き分けに終わった。

    いっぽうエバトンは、週中のEL最終戦では既に敗退が決定していたこともあり、ダービーに備えて主力を全員休ませ、若手チームで臨んだ(対アポロン・リマソール、試合結果は0-3でエバトンの勝利)。その気迫が結果を呼んだ。

    「先制された後でも堅い守りを崩さなかったアラダイスの戦略がPK判定を呼んだ。結果は引き分けで、1999年以来無勝の残念な記録は破れなかった。でも、エバトンの最多パスがGKのジョーダン・ピックフォードという数字の通り、不利な展開を打開して得たこの1ポイントは、エバトン・ファンにとっては勝利のようなもの」と、地元紙リバプール・エコーの青いページが勝利宣言を掲げたのに対し、赤いページは「敗北のように感じた1ポイント」と沈んだ。

    Liverpoolの「敗因」については議論が分かれた。「ソフトなPK」と、レフリーの判定を非難する声と並行して、「ゴールに背を向けていた選手に触れた無謀な守りが自滅を呼んだ」という説が飛んだ。ダービーでローテーションを貫いたユルゲン・クロップに対する批判も少なくなかった。

    そんな中で、エコー紙(の赤いページ)が、「壊された'ファブ・フォー'」という見出しの記事を掲げた。

    「ユルゲン・クロップは、スパルタクモスクワ戦の後で、'ファブ・フォー'という表現に対して異論を唱えた。『良くやっているのは4人だけではないのだから、他の選手たちに対して失礼だ』と。2ポイントを落とした責任は自分にあると認めながらもクロップは、'ファブ・フォー'を壊したチーム編成を『正しかった』と主張した」。

    「アラダイスのエバトンが守り固めで来ることは誰もが予測したこと。1-0になった後で、'ファブ・フォー'の片割れの一人であるサディオ・マネが、絶好の追加点のチャンスを外した場面があった。右側にはドミニク・ソランケとアレックス・オクスレイド・チェンバレンがフリーだったのに」。

    「ローテーションがうまく回るには、'ファブ・フォー'が'他の選手たち'と協力して勝ちを得ることが必須。そのクロップの戦略を無にするような一瞬のミスが、2ポイントを吹き飛ばし、Liverpoolファンを頭痛で寝込ませた」。

    自分のチームのゴールを喜ぶ監督

    10月28日、ユルゲン・クロップが長年の親友であるデビッド・ワグナーとプレミアリーグで初対戦した時に、ワグナーが語った言葉がLiverpoolファンの間で大きな話題を呼んだ(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。中でも最も大きな反響を集めたのは、「イングランドのメディア(の批判)はドイツに比べて遥かに大きい。特に、声を上げる人の数が多い」というものだった。

    折しも、ハダースフィールドがその時点で9戦3勝3分の12ポイントで11位と、プレミアリーグの「驚きのチーム」となっていたのと対照的に、9戦3勝4分でわずか1ポイント差の9位にに低迷していたLiverpoolが、批判の嵐の渦中にいた時のことだった。

    「フットボールは結果ビジネスだから、勝てなければ批判されるのは仕方ない」と肩をすくめながらも、一部のアンチのアナリストが「ユルゲン・クロップは今季の途中でクビになるだろう」という予測を掲げる姿に、Liverpoolファンは、「イングランドのメディアの過剰さに、クロップが嫌気を抱いて出て行くのではないか」と、心配する声すら出ていた。

    状況は変わり、以来6試合で5勝1分と調子を盛り返し、4位に浮上した12月2日のブライトン戦(試合結果は1-5でLiverpoolが勝利)の後で、戦績にもかかわらずイングランドのメディアのクロップ批判が沸き起こる事態になった。

    それは、試合後にブライトンのクリス・ヒュートンがクロップとの握手を拒んだらしき場面がTVカメラに映ったことから、その夜のマッチ・オブ・ザ・デイでクローズアップされたものだった。レギュラー・アナリストのイアン・ライトが、「4点も5点も取った時に、監督がいちいちタッチラインで飛び上がってガッツポーズを見せれば、負けた側の監督が神経を逆なでされるような気持ちになるのも当然。おそらくヒュートンだけでなく、他の監督も同じように感じ始めているのではないかと思う」と、クロップ批判の口火を切った。

    その音韻が続いていた2日後に、BBCの別の人気ハイライト番組で、レギュラー・アナリストのガレス・クロックスが、毎週選出しているプレミアリーグのチーム・オブ・ザ・ウィークのコメントの中で「クロップ批判」に拍車をかけた。それは、ロベルト・フィルミーノの選出理由の説明の3分の2のスペースを割り当てて、「CL決勝なら話はわかる。でも、これはブライトン戦。勝利は重要だが、ゴールの度にこぶしを振り回して大げさに喜ぶ必要があるのだろうか」と指摘したものだった。

    「不必要なまでに大げさな喜び方のために、試合が終わった時には両監督が握手してお互いをねぎらう伝統が守られなくなってしまった。勝利とお金が至上となってしまい、フットボールの良さが失われつつある。監督として適切な行動ができないような人物は、他の職業を探すべき」。

    これに対して、「『勝利とお金』?勝てない時に批判されるのはさておき、勝つのがダメなの?それも、ボビー(フィルミーノ)を称賛すべき記事ので、えんえんとクロップ非難を並べた末に、クロップに監督をやめろとは何事?」と、Liverpoolファンの間で反論が飛んだ。

    かくして、ライトとクロックスの「クロップ批判」は、しばしイングランド中のフットボール・ファンの話題を独占することになった。

    そして、チームを問わず圧倒的多数のファンが、クロップ擁護の意見を表明した。宿敵であるマンチェスターユナイテッド・ファンも例外ではなく、「自分のチームのゴールに、飛び上がってガッツポーズする監督に対して非難の指をさすようなアナリストこそ、他の職業を探すべき」と、肩をすくめた。

    地元紙リバプール・エコーが、「ユルゲン・クロップは欠点がない完璧な監督だとは言わないが、ゴールを喜ぶことはその一つではない」という記事でファンの意見を代弁した。

    「クロップがタッチラインで感情を素直に表現する監督である真相は、プレミアリーグに来る前から有名だったし、イングランドでのクロップ人気の一因でもあった。それが、CL決勝ならいいがブライトン戦では喜ぶべきではない、と言うのは、ブライトンに対する侮辱。クロップはブライトンに敬意を抱いているからこそ、全身でゴールを喜んだ」。

    「試合後の記者会見で、ヒュートンは『Liverpoolは今季これまで対戦した中で最も強いチーム』と絶賛した。その口調からは、クロップに対して根に持つような感情を抱いている、という印象は全く受けなかった。そもそも、4点も5点も取られて負けることそのものが、やられた監督にとっては神経を逆なでされるはず」。

    「つまり、クロップが他の監督から嫌がられる状況が、今後頻繁に起こることを祈るべき」。

    翌朝クビになる

    11月20日、WBAが監督トニー・ピュリスの解任を発表した。2017-18季が12試合消化という時点で、プレミアリーグでは5人目となった。ホームでチェルシーに0-4と大敗を喫し、連敗を4と伸ばした試合中に、ホーム・サポーター・スタンドから「翌朝クビになる」チャントが飛んだ様子は、WBAの地元紙バーミンガム・メールが「このところスタンドの風物詩になっていた」と称した通り、誰も驚かなくなっていた。その通り、その翌日に決断が下ったのだった。

    降格と昇格を繰り返す、いわゆる「ヨーヨー・クラブ」として分類されるWBAは、ピュリスが2015年1月に監督に就任して以来、そのシーズンに14位、翌季は10位とプレミアリーグの常連としての地位を固めつつあった傍ら、魅力的なフットボールとは対極にある戦術を貫くピュリスは、「ファンの支持を一度も得られずに終わった」とは、バーミンガム・メール紙の見解だった。

    「近年のプレミアリーグでは、10、11月に監督がクビになる傾向が顕著となっている。最下位でクリスマスを通過したチームが残留を達成するのは異例と言える程に困難な上に、新監督が1月の移籍ウィンドウに戦力補強計画を立てるための時間が取れる最終タイミングでもあるため」と、全国メディアはピュリス解任を冷静に分析した。

    「それにしても、ピュリスのクビを求めるWBAファンの声は、あまりにも大きくなり過ぎてオーナーは最終決断を下さざるを得なくなった」。

    バーミンガム・メール紙は、「ファンの判定」を更に裏付けた。「アシスタントのガリー・メグソンが暫定監督としてトットナム戦に臨んだ、そのアウェイ・スタンドでは、明るい笑顔に戻った2,400人のWBAファンが、試合開始4分の先制ゴールに飛び上がって歓声を上げた。『翌朝クビになる』チャントはすっかり影を潜め、74分に同点ゴールを食らった後も、最後まで元気に飛び跳ね続けた(試合結果は1-1)」。

    バーミンガム市内のアストンビラとバーミンガムシティに加えて、近郊都市でありWBAにとっての「隣人」に当たるウルブス(ウルバーハンプトン)が揃って2部に低迷しているため、WBAは地元で唯一のプレミアリーグのチームとなっていた。そして、今季はウルブスが好調に首位を走っていた。

    「ウルブスがリーズに4-1と快勝した試合中に、ウルブス・ファンが『WBAよ、来季はダービーができるね!』とチャンとして話題になった。そしてWBAファンは、ウェンブリーのアウェイ・スタンドから『ウルブスへ。待ってるからね!』チャントで返した」と、バーミンガム・メール紙は明るい文面で締めくくった。

    いっぽうマージーサイドでは、10月24日にロナルド・クーマンを解任して以来、監督なし状況が5週間となったエバトンの深刻な状況が、Liverpoolファンの間でも話題になっていた。WBAのピュリス同様に、クーマンがファンからそっぽを向かれた末に解任となった後で、クラブの歴代スター選手であるデビッド・アンズワースの代理監督効果は殆どないまま、7戦1勝2分5敗で16位と低迷を続けていた。

    「本来は最悪でも10位以内には入るチーム力のエバトンは、今は自信喪失で低迷しているが、経験豊富な監督が正式に就任が決まって安定すれば、成績は伴うだろう。ただ、若くて能力はあるが不明要素が大きい監督を選べば、一歩間違えばどん底に行く危険性も秘めている」とは、元エバトンのアナリストの多数派の意見だった。その言葉の横で、監督が決まらない時期が長引くにつれて、落ち着かない空気が濃厚になっていた。

    後任監督候補として、最近ではワトフォードのマルコ・シルバが最有力と言われている傍らで、その決定権を握るオーナーとチェアマンの意見の対立が原因で、監督決定が遅れている、という説が流れていた。「ファンの声を受けてクーマン解任を決定した」オーナーは、シルバを支持しており、ビル・ケンライトはショーン・ダイシュを推しているが、結局はオーナーが強行するだろうということだった。

    Liverpoolファンの間では、「果たして来季はダービーがあるのか?」という議題が、次第に「来年の今頃は、翌季はダービーが復活するだろうか?という議論で沸いているような気がしてきた」と、苦笑を浮かべるようになった。「同僚のエバトン・ファンが、最近はフットボール談話になると泣きそうな顔になる」と、隣人の苦境を複雑な心境で見守るLiverpoolファンは、自分たちも決して手放しの状況ではないことは認識していた。

    11月21日のセビーリャ戦で3-0のリードを放棄して3-3と引き分けて、CL最終戦を必勝のプレッシャーで迎えることになった直後のチェルシー戦で、先制しながら85分の同点ゴールで1-1と引き分けた。

    そんな中でも、Liverpoolファンは、幸い「翌朝クビになる」チャントとは縁がないことを認識し、全力で監督とチームを応援し続ける決意を再確認していた。

    Liverpoolのベスト・センターバック

    11月18日のアンフィールドでのサウサンプトン戦に先駆けて、イングランドのメディアは予想通り、夏の移籍ウィンドウ最大のソープオペラの一つだったフィルジル・ファン・ダイクに焦点を当てた。試合前の定例記者会見の場で、「1月にLiverpoolは再度ファン・ダイク獲得に出るか?」という質問に、ユルゲン・クロップは「その質問に私が答えるとでも思ってた?」と爆笑したのに対して、マウリシオ・ペジェグリーノが「将来のことはわからない」と真面目に答えてしまったものだから、喜んだメディアが更に火のない所に煙を立てる騒ぎになった。

    折しも、Liverpoolのジョー・ゴメスが対ドイツの親善試合(試合結果は0-0)でセンターバックとしてイングランド・フル代表デビューを飾り、続くブラジル戦(試合結果は0-0)ではマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せたことで、全国メディアの過剰反応に油を注いだ。

    更には、スカイTVでティム・シャーウッドが「代表監督はクラブの監督より選手を知っている」と断言するに至った。それは、イングランド・アンダー21代表チーム時代からゴメスを見てきた現フル代表監督のガレス・サウスゲートが、Liverpoolでは今季ライトバックで出場しているゴメスの、適材適所を見抜いている、という議論だった。

    「例えば、Liverpoolのベスト・センターバックは誰?ジョー・ゴメスだ。でも実際には、別の選手がセンターバックのポジションを占めていて、ゴメスが能力を発揮する場を奪っている」。

    ジョーク半分に、「1月以降のLiverpoolの3人センターバックは、ジョエル・マティプ、ファン・ダイク、ゴメスで決まり」と叫んでいたLiverpoolファンも、真顔になってシャーウッドの説に反論した。「イングランドの5人DF体制に比べて、攻撃主体のLiverpoolのディフェンスは難易度が高い。ゴメスの将来はセンターバックにあることは疑いないが、若手はまだ不安定なことが多く、プレッシャーをかけ過ぎるのは酷。加えて、今はナサニエル・クラインの負傷のため、18歳のトレント・アレクサンダー・アーノルドをカバーするためにも、ゴメスがライトバックに入ることは必須」。

    期せずしてセンターバックが脚光を浴び中で行われたサウサンプトン戦は、ファン・ダイクが単独で話題をそそるような場面もなく、ベンチで試合を見ていたゴメスに代わり、先輩センターバックがサウサンプトンの得点チャンスをシャットアウトした(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。

    「ジョー(ゴメス)はこれから15年間、Liverpoolの選手として活躍すべき選手」と、無責任なアナリストの雑音で、不必要なまでに注目を浴びていたゴメスをいたわるかのように、試合後のインタビューでユルゲン・クロップは語った。「イングランド代表チームで素晴らしい活躍をしたことについては、私は心から喜んでいる。もちろん、ジョーはクラブでも重要な戦力。でも、2試合連続出場した僅か4日後に、しかも過密日程の皮切りであるこの試合で、無理をさせるのはリスクが大きいを判断した。負傷に苦しんだ記憶がつい最近のことだけに、尚のこと」。

    それは、今回のイングランド・フル代表チーム初選出に際して語った本人の言葉とも同期を取っていた。

    「最初の負傷から回復して、直後に2度目の負傷に見舞われた時には、運に見放されたかと目の前が真っ暗になったこともあった」。ユルゲン・クロップがLiverpool監督に就任が決まった2015年10月にイングランド・アンダー21代表チームの試合中にじん帯を負傷し、その後、回復直後の2016-17季のプリシーズン中にアキレス腱を負傷してしまった苦悩について、ゴメスは振り返った。

    2015年の夏に、生まれ故郷ロンドンの地元のクラブであるチャールトンから£3.5mの移籍金でLiverpool入りした時には、熱心なチャールトン・ファンから「Liverpoolは史上最大のバーゲン移籍を実現した」と、感傷的な激励を受けたものだった。その時の特約が発効し、今回のイングランド・フル代表キャップ獲得で、Liverpoolはチャールトンに追加で£250,000を支払うことになった。

    メルウッドに向かう道中にイングランド・フル代表選出の連絡を受けたゴメスは、文字通りの速報をクロップに報告した。

    「監督とは、単に監督と選手という関係を超えた、人間的な繋がりを実感している。一人の人間として対話してくれる。じっと話を聞いてくれて、心から言葉をかけてくれる」。

    通算15か月の負傷欠場の後で、昨季後半には試合に復帰したものの、本来の調子を取り戻すのに時間がかかったゴメスは、自分がLiverpoolの戦力として将来はあるかと迷ったという。クロップとの会話で踏ん切りがついたゴメスは、順調に復調の道を歩み、地元のクラブであるチャールトンに追加収入をもたらした。

    「監督がいなかったら、今の自分はなかった」。

    ウェンブリーのミニ優勝パレード

    プレミアリーグの試合がないインターナショナル・ウィーク中は、あちこちで様々な総まとめ特集記事が出没する。その一環で、デイリー・メール紙が「チェルシーの余剰戦力ベスト・イレブン」と題して、ケビン・デ・ブルイネ、ロメル・ルカク、モハメド・サラー、ダニエル・スタリッジらスター選手を集めて強豪チームを編成した。

    笑いながら見ていたLiverpoolファンは、「アンダー20W杯チャンピオンで最優秀選手のドミニク・ソランケと、アンダー17W杯チャンピオンで得点王のリヤン・ブルースターが、数年後にこのリスト入りするだろう」と頷きあった。

    ブルースターの準々決勝、準決勝での連続ハットトリックで決勝進出したイングランドが、5-2とスペインを破ってアンダー17W杯に輝き、全国メディアはお祝いムードで大騒ぎしていた時のことだった。

    しかし、全国メディアのバンドワゴンに先駆けて、Liverpoolファンの間でブルースターの成長が頻繁に話題に上がるようになったのは、昨季後半のことだった。ユルゲン・クロップの若手育成方針の一環で、ファーストチームのトレーニングに定期的に合流するようになったブルースターは、16歳で既に、年齢層をスキップしてアンダー23チームに定着しつつあった。

    「アンダー23でも全く見劣りせず、堂々とプレイしている。ブルースターは、順調に育てば、来季はファーストチームでカップ戦のベンチ要員に入るだろう」と、時間が許す限りユース・チームの試合も見に行く地元の熱心なファンの間で、頻繁に名前が上がる存在になった。

    そしてブルースターは、17歳になったばかりの昨季4月のクリスタルパレス戦で、プレミアリーグのベンチに入ることになった。ファーストチームの負傷者続出という状況の中で、Liverpoolは苦戦の末に1-2とパレスに敗れ、若手に経験を積ませる余裕がないまま終わったが、しばらく前からブルースターの成長を楽しみにしていたファンにとっては嬉しい誤算だった。

    それがブルースターにとって大きなステップとなったことは、9月にイングランド・アンダー17代表チームでW杯に出かける前に、LFC TVのインタビューで語った言葉からも明らかだった。

    「フットボール生活で最高の出来事は?」という質問に、「パレス戦でベンチ入りできたこと」と、ブルースターは大きな笑顔を浮かべた。「あの場に到達するまでには、僕はまだまだ成長しなければならない面がたくさんある。でも、プロのスター選手に交じって、プレミアリーグの試合でベンチ入りできたことは、僕にとっては超現実的な経験だった」。

    2014年に、14歳でチェルシーのアカデミーチームからLiverpoolに来たきっかけは、コーチのマイクル・ビールの転職だった。その時にお父さんが、ブルースターの成長のためにLiverpool入りを決めたのだった。「それは正しい決断だった」と、お父さんは振り返った。「Liverpoolに入ってからというもの、リヤンは毎日笑顔を絶やさない。リヤンはLiverpoolが大好きで、Liverpoolもリヤンを大切にしてくれている」。

    そのお父さんの言葉は、ブルースターに「超現実的な経験」を与えた時のユルゲン・クロップの説明でも裏付けられていた。Liverpool監督に就任して2日目に、アカデミーチームの親善試合を見学していた時に、クロップはブルースターと初対面した。

    当時15歳だったブルースターが、アンダー16チームの試合を50分で引き上げて、アンダー18の試合に出るようコーチから命じられた。小走りにクロップ一行の前を通り過ぎたブルースターは、ふと立ち止まり、おもむろに戻ってきて、クロップに自己紹介して握手を求めたという。

    クロップは「ものすごく気に入った!」と叫び、以来、ブルースターの成長を注目するようになったという。

    そして、ブルースターのW杯優勝達成に際して、クロップを始め、ファーストチームの先輩から次々とお祝いが飛んだ。トレーニングでよく面倒を見ているジニ・ワイナルドゥムは、「初めてファーストチームのトレーニングに来た若手は、普通は物おじして小さくなっているが、リヤンは違った。先輩に対する敬意を保ちながら、堂々と自分を表現した。見込みがあるなとピンときた」と、口をほころばせた。

    ファンや、ファーストチームの監督と先輩の熱い期待に応えてW杯優勝という偉業を達成し、マージーサイドに戻って来たブルースターは、11月10日、Liverpoolアンダー23チームのカップ戦に出場した(対ニューカッスル・アンダー23、試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)。同じ頃、ウェンブリー・スタジアムでは、イングランド対ドイツの親善試合に先駆けて、イングランド・アンダー17代表チーム一行がW杯優勝披露式典に招待されていた。

    ブルースターは、9万人の観客の拍手を浴びるチャンスを辞退して、雨のマージーサイドで381人の観客の前で試合に出る方を選んだのだった。

    「リヤンは、ウェンブリーのミニ優勝パレードよりも自分のクラブの試合を優先した」と、Liverpoolアンダー23コーチのニール・クリッチュリーは目を輝かせた。「試合に出て、成長することが自分のやるべきことだと知っているから。W杯優勝の前と後とで態度の違いは微塵もない。優勝で自信を付けたことが唯一の変化」。

    国を統一させたエジプトのキング

    11月1日、CLマリボル戦(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)でゴールを決めたモー・サラーが、同日に発表されたアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤーの候補者入りし、Liverpool陣営は二重の拍手で沸いた。直後にローマのオフィシャル・アカウントがポストした、「2018年1月のアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤー受賞おめでとう、モー・サラー!」というジョーク交じりのお祝いメッセージが、笑いを掻き立てた。

    これに対して、リバプール・エコー紙が解説した。「ローマが気の早いお祝いをポストしたアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤーは、正式には2018年1月4日に発表される。しかし、エジプトのファンの絶対的人気を誇るモー・サラーが受賞することは間違いないという、ローマ時代の事例に基づく『気の早さ』。それは、サラーがLiverpoolの8月と9月のプレイヤー・オブ・ザ・マンスとゴール・オブ・ザ・マンスを連続受賞している事実から、Liverpool陣営でも実感し始めた現象」。

    10月のインターナショナル・ウィーク中に、サラーが95分のPKを含める2ゴールで、エジプトがコンゴに2-1と勝って、1990年以来のW杯予選勝ち抜きを決めたことで、もともとエジプトでは群を抜くNo.1だったサラー人気に更に拍車がかかった。

    サラーの故郷(Nagrig)の村長が、「サラーはこの村を世界地図に載せた」と、熱く語った。「それだけ凄い選手になった今も、自分の故郷に愛情を注ぎ、学校や病院の設備購入資金を出してくれるなど、この村の発展のために多大な貢献をしてくれている」。そして村長は、サラーの出身校を「モハメド・サラー工業高校」と改名したと語った。

    エジプトの富豪の実業家が、W杯出場の「お礼に」、サラーにお屋敷をプレゼントしたいと話を持ち掛けた時に、サラーは「ありがとうございます。それを、僕にではなく、地元のチャリティに寄贈していただけますか?」と言ったエピソードは、まさにサラーの人柄を表していた、と「モハメド・サラー工業高校」の教員が語った。「有名人になってからも折につけ故郷の村を訪問し、地元の人々と気さくに会話するサラーは、国全体の子供たちのお手本になっている」。

    エジプトでのサラー人気の背景について、エジプトのジャーナリストが「サラーは早いうちからヨーロッパに行き、国内リーグの二大勢力であるアル・アハリとアル・ザマレクのどちらにも所属していなかったことから、誰もが何のためらいもなく支持できる選手になった」と説明した。「つまり、サラーは国を統一させたエジプトのキング」。

    かくして、ファン投票で決まる様々な賞で、サラー人気がプラスに働く原理がローマの「気の早いお祝い」となった。そして、サラーの受賞が人気の成果だけではないことは、誰もが知っていた。

    11月4日のウエストハム戦(試合結果は1-4でLiverpoolの勝利)での2ゴールで、Liverpoolでの17出場で12ゴールと、昨季の得点王にわずか2差となったサラーに対する評価は、「この夏のプレミアリーグの新戦力の中で、圧倒的なトップ」と、全国メディアでも上昇する一方だった。「ルイス・スアレス以来の掘り出し物」という声すら出た。

    そして、Liverpoolファンの間で着実に高まるサラー人気が、ファン層の分布図でもエジプトだけの現象ではないことを物語っていた。「ローマから来たこの選手が、ウィングを走り、ゴールを出すと、コップは歌う。サラララララー」というサラーの歌は、あっという間にスタンドの定番になった。

    「サラーとサディオ・マネの俊足コンビは、プレミアリーグのディフェンダーの悪夢。しかも、サラーはマネと同じく人好きのするいい感じ選手。ますます応援に熱が入る」と、Liverpoolファンの絶賛が飛び交った。

    全国メディアがスアレスと比較しているのに対して、70年代を生で見てきたベテランのLiverpoolファンは、もう一人の歴代スター選手を引き合いに出してサラーを絶賛した。「全盛期のケビン・キーガンを思わせる走り。サラーは、キーガンと同じように、走り続けてゴールを決める」。

    ウエストハム戦の試合後のインタビューでサラーは、チームメートのゴールを喜ぶ「人好きのする性格」で、Liverpoolファンの人気を更に刺激した。「前半の早い時間に得点できたことで、その後の展開が有利になった。良いプレイで勝てた。アレックス(オクスレイド・チェンバレン)がプレミアリーグで初ゴールを出せたことは、とても嬉しかった。チーム全体がいい雰囲気になっていて、全員がお互いのために頑張っている。それが、僕はとても嬉しい」。

    「今日の試合は勝てたし、良かった。でも、これからも勝ち続けることが大切」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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