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    土曜日3時の試合

    2月9日、Liverpoolはアンフィールドで会心のプレイでボーンマスに3-0と快勝し、2試合続いた引き分けに終止符を打った。僅か2試合の「連続無勝」は、主力の負傷や急病という仕方ない事情があったものの、何に付けても過剰反応のイングランドのメディアは、「Liverpoolはタイトル争いのプレッシャーの前に自滅し始めた」と騒ぎ、特にスタンドのファンの声援が途絶えた状況をクローズアップした。

    ボーンマス戦では、チームもファンも、それら批判を一笑するようなパフォーマンスを披露した。前週のメディアの批判に反論し、ファン擁護の態度を強調したユルゲン・クロップも、ボーンマス戦の試合後には本音を漏らした。「ファンがいつもよりも早く、ウォームアップの時から既にスタンドを埋め始めた様子を見て、とても嬉しかった。チームが成功するためには、ファンと一緒に戦うことが必要。わがファンは素晴らしいということは誰もが知る通り。チームだけでなく、ファンは超一流。ファンのお蔭で65ポイント取れている」。

    この背景には、前2引き分けの、特にやり玉に上がったレスター戦(試合結果は1-1)の後で、ファンの間で自主的な議論が続行していた真相があった。それは、スパイオン・コップ1906というファン・グループを中心に、「スタンドのパフォーマンス向上」のために何をすべきか、活発な意見交換が行われたのだった。

    「ヨーロピアン・ナイトでできていることを、プレミアリーグでもやろうではないか」と、提案が出た。「ボーンマス戦では、いつもより少し早めにスタンドに入って、選手がウォームアップする時に大声援を飛ばして選手に気合を注入しよう」。

    アンフィールドの「ヨーロピアン・ナイト」は有名だが、それはいくつかの条件が集まって、スタンドに特有の空気をもたらしていた。もちろん、CLのチケットはシーズン・チケット・ホルダーを始め、普段から試合に行く回数が多い地元のファンに優先販売されるという規定もあった。

    加えて、夜の試合という要因があった。

    イングランドが2005年に法改正する前は、パブは11:00から23:00の間のみアルコール販売が許されていた(※現在は許可を得れば24時間可能)。そのため、ダービーなどの「ハイセキュリティ・マッチ」はランチタイム・キックオフに変更されることが多かった。現在はTV放送の都合で試合時間が決まるが、2005年以前は、「11:00からパブが開店なので、12:45キックオフの試合の前に酔っ払う程飲む心配がないから」という理由で、ファン同士のライバル意識が強いチームの対戦がランチタイム・キックオフに指定された。

    ヨーロピアン・ナイトは、同じ理由の裏返しだった。地元のファンが仕事を早々に切り上げてアンフィールドに行き、近辺のパブで仲間と再会する。適度のアルコールで会話が弾み、気持ちが盛り上がる中で、新しいチャントや歌の練習が始まる。それがスタンドで特有の雰囲気を作り出していた。

    いっぽう、伝統的な土曜日3時の試合では、若くて体力のある男性が主流を占めるコップが歌とチャントを披露し、残りのスタンドは大半が黙って座ってコップの歌を聞いていた90年代初めまでのアンフィールドのように、全スタンドが声を張り上げる「ヨーロピアン・ナイト」の領域に達することはなかった。

    「何のためにスタジアムに行くのか、原点に立って考えよう」と、スパイオン・コップ1906のメンバーが主張した。「チームをサポートするために行くのであって、選手のミスを見て黙り込んだり、ため息をついたり、批判したりするために行くのではない。サポートする気がない人は自宅でTVを見ていればよい。我々がサポートすれば、ピッチに伝わり、選手が反応するに違いない。29年分のプレッシャーを燃料にして、声援の声を一層高めようではないか」。

    多くのファンがその方針を実行に移したボーンマス戦の後で、ファン・グループの動向を事前にキャッチしていた地元紙リバプール・エコーの記者がメッセージを飛ばした。「スパイオン・コップ1906が主導して、土曜日3時の試合でアンフィールド要塞を実現したファンの勝利」。

    ボーンマス監督のエディ・ハウも、スタンドの貢献に脱帽した。「我がチームは良いスタートを切ったと思ったが、Liverpoolファンは素晴らしいサポートでチームを駆り立てた」。

    その夜のトークスポーツで、元ウィンブルドン(所属は1986–1989、1992–1998)のビニー・ジョーンズが、自らのアンフィールド経験を証言した。「初めてアンフィールドを訪れた試合で、コップの前でコーナーを得た時に、チームメートに作戦を伝えようと叫んだが、コップの大音量にかき消されてお手上げだった。ラッシュアワーの電車みたいな騒音でアンフィールドを仕切る、凄いファンだった。ボーンマス戦では、当時のコップを思い出させられた」。

    地元出身で、自らLiverpoolファンとして生まれ育ったトレント・アレクサンダー・アーノルドは、この日のスタンドの変化に気付いていた。「土曜日3時の試合で、アンフィールドがこんな凄かったのは初めて。今日のアンフィールドは違う、とヘンドに言った」。

    「スカーフ、旗、バナー。何もかもが、僕にとっては初めての経験だった。このサポートが今後も続いて欲しいと願っている。ファンからこんなサポートをしてもらったら、選手は最高のパフォーマンスをする以外にあり得ないと思う。それが、今の我々に必要」。

    29年分のプレッシャー

    1月30日、アンフィールドでLiverpoolがレスターに1-1と引き分けた試合の直後に、マンチェスターシティのカイル・ウォーカーが、ハリー・マグアイアのW杯大会中の写真に「7ポイント差になったと思っただろうに」というキャプチャを添えてTwitterにポストし、すぐに削除して世間の注目を集めた。

    これは、Liverpoolが先制しながら前半のインジャリータイムにミスから与えてしまったフリーキックで、マグアイアが同点ゴールを決めたことを、ウォーカーがイングランド代表のチームメートとして称賛し、「ライバルチームからポイントを奪ってくれてありがとう」と示唆したものだった。

    フォロワーが多いフットボーラーの発言は、削除する前にスクリーンショットを取る人が必ずいるもので、今回もウォーカーの削除したTweetがインターネット上を飛び交った。更に目ざといファンが「マグアイアがLikeした」真相を披露し、ライバル・ファンの爆笑を引き出した。

    このウォーカーの大人げないTwitterの話題がひと段落したところで、アナリストが異口同音に「Liverpoolはリーグ優勝のプレッシャーを感じ始めた」と唱えた。

    Liverpool陣営から、黄金時代に主将として数々の栄誉を勝ち取ったレジェンドであるグレアム・スーネスが、後輩たちのタイトル争いの行方を心配した。「クリスタルパレス戦(試合結果は4-3でLiverpoolが勝利)に続き、レスター戦では守りの不安が見られた。悪天候は攻撃にマイナスの影響を与えるものだが、Liverpoolの場合は逆に守りが揺れ始めたことが気になる。リーグ優勝を意識するのはまだまだ早い。これはタイトル争いのプレッシャーではなく、一時的なものであることを祈っている」。

    いっぽう、ポール・インスは、現役時代にはLiverpoolにも在籍したがマンチェスターユナイテッドで黄金時代を過ごした経歴に基づいて、Liverpoolの選手たちがプレッシャーに苦戦していると指摘した。「サー・アレックス・ファーガソンは、3月が勝負だといつも言っていた。リーグの行方を決めるのは3月だということ。でも今のLiverpoolは、まだまだ3月には程遠いのに既にプレッシャーに負けそうな気配がうかがえる」。

    中立の立場のアナリストに至っては、より断定的な表現で「Liverpoolは29年間リーグ優勝から離れている分、経験不足も手伝ってタイトル争いのプレッシャーに押し潰されるだろう」と、マンチェスターシティ有利説を主張した。

    そして、それらアナリストの「分析」を掲げる記事の多くが、プレッシャーの出所としてアンフィールドのスタンドを指した。「レスター戦の直後にLiverpoolの選手が『スタンドの緊張がピッチの上に伝わった』と証言したことからも明らかなように、チームの苦戦がファンの懸念を呼び起こし、タイトル争いのプレッシャーを増強している」。

    Liverpoolファンの間では、レスター戦のスタンドの反応に関する反省と同時に、メディアが大きな焦点を当てている「タイトル争いのプレッシャー」について議論が交わされた。

    「スタンドの緊張がピッチの上に伝わった、という発言は、選手が我々ファンの応援が足りないと批判する意図で出したものではなく、インタビュアーから誘導尋問されて正直に答えたものだった」と、ファンはメディアの曲解に当惑しながらも、本音を明かした。

    「我々ファンは29年間、今の選手たちの多くが生まれていなかった頃から、リーグ優勝を待ち続けている。その間、期待を抱き、砕かれて、それでも辛抱強く待ち続けている。29年分のプレッシャーを、我々ファンが感じるのは仕方ないこと。ただ、それは我々の心の中でのことであって、スタンドではチームを信じて応援し続けるべき」。

    そのファンの痛々しい声を聞いたかのように、ユルゲン・クロップが、29年分のプレッシャーについて語った。「29年間もの間待ち続けているという事実を、忘れることが出来たらどんなに良いだろうと思う」。

    「どんな人だってそんなに長く待っていればプレッシャーを感じる。それは、外部の人間が『プレッシャーを感じるのはやめなさい』と言っても無理なこと」。

    「私は、ファンの反応が問題だとか全く思わない。よくやってくれていると感謝している。チームももっと良いプレイをしなければいけない面があるし、ファンもたぶん、もっと大きな声援を出せると思う。それは、チームとファンが一緒に向上して行くべきこと」

    「ファンが助けてくれているからこそ、これまで61ポイントも取れているのだから」

    批判され続けたLiverpool主将

    1月19日、アンフィールドでのプレミアリーグ戦(対クリスタルパレス、試合結果はLiverpoolが4-3で勝利)で、クラブ史上最も成功を収めた監督として今でも話題に上るボブ・ペイズリーの生誕(1919年1月23日)百周年を記念するモザイクなど様々なイベントが行われた。

    その一つとして、ペイズリーの下で主力として黄金時代を作った選手の一人であり、現在はアナリストとして活躍しているロニー・ウィーランのインタビューがあった。その中で、ウィーランが自分の現役時代の、あまり良くない思い出を明かした場面があった。アイルランドのダブリンからLiverpool入りしたウィーランは、1979から1994年にかけて通算362試合でリーグ優勝6回、リーグカップ3回、ヨーロピアン・カップ(CLの前身)1回、FAカップ2回と華々しいトロフィーを勝ち取った。しかもFAカップ2度目の1989年は、主将としてひのき舞台に立った。

    「Liverpool入りして2年目、ボブ(ペイズリー)が監督だった時だが、私はいつもファンから批判の的にされていた。でも、私は毎試合出ていた。正直、批判される理由が理解できなかった。チームメートも監督も、私を評価してくれていたのに」。

    当時すでに大人だったベテラン・ファンは、ウィーランの言葉に頷いた。「私はウィーランを評価する側だったが、批判者は確かに少なくなかった。思い余って私はある日、ウィーランのどこが悪いのか?と彼らに質問した。ところが彼らは、数分考えた末に明確な答えが出なかった。その挙句に、『ウィーランはグレアム・スーネスでもないしケニー・ダルグリーシュでもないから』と言い放った」と、そのファンは苦笑した。

    「今のジョーダン・ヘンダーソンが受けている扱いは、当時のウィーランと全く同じ。もちろんトロフィーの数は違うが、どんなに良いプレイをしても批判者はひるまない。批判の理由が『ヘンダーソンはスティーブン・ジェラードではないから』というところが、まさに同じ」。

    2018年の夏に、Liverpoolがナビ・ケイタとファビーニョを多額の移籍金で獲得した時に、それらアンチ派は、「ヘンダーソンはベンチに格下げになるだろう」と自明のごとく唱えた。ユルゲン・クロップは、Liverpoolが大きな目標を達成するためには試合に出ている11人だけでなく、25人の全選手が主力となり力を合わせて勝てるチームになる必要がある、と繰り返し主張したにもかかわらず、決して少なくない人々が、「理解不能な理由で」ヘンダーソン批判を唱え続けた。

    「ケニー・ダルグリーシュ、ブレンダン・ロジャーズ、ユルゲン・クロップ、ガレス・サウスゲートら複数の監督が評価している側面を、無視して批判し続ける人々は、何があっても批判をやめない」と、そのファンは首を振った。

    しかし、それら批判者ですら、Liverpoolが最後にタイトル争いに参戦した2013-14季に、ヘンダーソンが果たした役割については(しぶしぶ)認めていた。残り4試合の時点でマンチェスターシティに3-2と勝った試合で、ヘンダーソンが退場となり3試合出場停止を食らったことが敗因だったとは、多くの人が一致するところだった。

    同じ行方を辿りつつある今季、ヘンダーソンが5年前のピッチ内外の苦しい戦いについて明かした。2013年秋に、お父さんが喉のがんと診断された時のことだった。監督から「必要なだけ休みなさい」と言ってもらったが、お父さんは「フットボールに専念しなさい」と言ったのだった。警察官だったお父さんを慕って育ったヘンダーソンは、苦しんだ末に、お父さんの言葉に従うことにしたと言う。

    「治療に苦しむ姿を見て、僕が心配するだろうと思ったから、来るなと言ったと思う。だから僕は、良い試合をしようと必死になった。お父さんが見ていることが分かっていたから。僕が頑張ってチームが勝てば、お父さんは安心して治療に臨めるだろうから、と」。

    その決意をピッチの上で表現したヘンダーソンは、Liverpoolのタイトル争いに不可欠なキーとなった。幸いお父さんは回復し、昨年のCL決勝戦もキエフまで見に来れるまでになった。

    今季はW杯の後遺症や軽傷のためスタートはもたついたが、徐々に主力として存在感を発揮しているヘンダーソンは、特にブライトン戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)とクリスタルパレス戦ではマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せた。5年ぶりのタイトル争いに主将としての役割を果たしている状況について、インタビュアーから好意的な質問を受けて、ポツリと言った。

    「僕は、人々から批判されればされるほど、見返してやろうと意欲に燃える方で、批判されるのは歓迎。逆に、褒められるのが苦手。プロ生活を通してずっと批判され続けているから、批判には慣れている」と、ヘンダーソンは苦笑した。

    「正直、どんなに批判されても気にしない。監督が言うことだけを真剣に聞く」

    例外的な選手の記録的な契約更新

    1月18日、青天のへきれきのごとく、アンディ・ロバートソンが5年間の契約更新にサインしたという朗報が流れた。「近々にどこかに行ってしまうような危惧は特になかったが、でも、最高のニュースだ」と、Liverpoolファンは誰もが一斉に歓声を上げた。

    2017年夏に降格したハル・シティから£8m(追加金が加算されて約£10m)の移籍金でLiverpool入りし、通算77試合に達した時点での昇給&契約延長だった。

    昨季後半にレギュラーの座を確保し、初シーズンを終える頃にはファンの一番人気の選手となったロバートソンは、その勢いをそのまま持続する安定したプレイで、誰からも「Liverpoolのチームシートに真っ先に乗る人物」と言われるようになった。

    その過程で、ニュートラルな立場のアナリスト、ライバルチームの関係者など様々な人々の評価を次々に塗り替えさせてきた。例えば、元マンチェスターユナイテッドの人気アナリストであるガリー・ネビルは、「ロバートソンを過小評価していた自分の見解は致命的に間違っていた」と、真っ先に反省を表明した。

    12月18日に解任されたジョゼ・モウリーニョの、マンチェスターユナイテッド監督としての最後の言葉は、「アンディ・ロバートソンの短距離走を90分見せられて疲れた」と、ロバートソンへの脱帽だった。

    その点ではユナイテッド・ファンもモウリーニョと同期を取っていた。「1年前の今頃は、ルーク・ショーとアンディ・ロバートソンを比べるなど笑いものだった。今では全く逆の意味で嘲笑ものだ」と、誰もがロバートソンの圧倒的な優位を認めていた。

    BBCのガース・クルックスは、1月4日のチーム・オブ・ザ・ウィークにロバートソンを選出した。Liverpoolが今季プレミアリーグ初敗戦を食らったマンチェスターシティ戦(試合結果は2-1)の翌日だった。「私のチーム・オブ・ザ・ウィークに、負けたチームのディフェンダーが入るということは通常はあり得ない。でも、例外が必要になることがある。ロバートソンは例外的な選手だから、例外措置を取るにふさわしい」と、説明が添えられていた。

    同じくBBCのアナリストとして活躍する元エバトンのケビン・キルバーンは、更に断定的だった。「ロバートソンは今のプレミアリーグのベスト・レフトバック。攻撃力も優れているし、守りは完ぺき。そんな選手が、わずか£10mそこそこの移籍金で取れたなんて!」。

    元Liverpoolながら、ジェルダン・シャキリ批判を繰り返してLiverpoolファンの神経を逆なでしたチャーリー・アダムは、「ハル・シティが降格した時に、僕はクラブ(ストーク)に対してロバートソンを取るように懇願した。でも、決断が遅れているうちにLiverpoolに取られてしまった。今ではロバートソンは£50mは下らないだろう」と、自らの先見の明を主張した。

    アダムの絶賛にLiverpoolファンは、「先日のCIESの評価額では£72mだった。しかも、更新版の数字が出る度に上がっている」と、微笑んだ。そして、その評価額が純粋な卓上の金額であることを、誰もが確信していた。「Liverpoolについて感謝と意欲の言葉しか出さないロバートソンは、この先何年もLiverpoolの重要な戦力として活躍してくれるに違いない。Liverpoolが黄金時代を築くにはスコットランド人選手が不可欠と言われたように、クラブ史上に残る偉大なスコットランド人であるサー・ケニー・ダルグリーシュやアラン・ハンセンのように、マージーサイドに帰化するまでになって欲しい」。

    ファンの祈りを裏付けるかのように、ユルゲン・クロップがロバートソンの契約更新について、「私が監督として関わってきた契約更新の中で、史上最短記録とも言える程に簡単に終わった」と語った。「契約更新の話を持ち出した時、ロバートソンは数秒後にサインしていたのだから」。

    「2017年の夏に、彼を獲得した時のことを良く覚えている。プレミアリーグに到達するまでのロバートソンの『ジャーニー』を聞いて、私は心から感銘を受けた。こんな選手ならば絶対に戦力になってくれるだろうと確信した」と、クロップはさらに笑顔を深めた。「18か月後に、すでに私の期待をはるかに上回る選手になってくれた」。

    クロップの証言通り、契約更新には全く躊躇しなかったと語ったロバートソンは、ファンに対する感謝を強調した。「ファンがスタンドで選手の歌を歌う時、その選手にとってはどれだけ大きな励ましになることか。それはどの選手も同じ。先日はフィルジル・ファン・ダイクが控室で自分の歌を歌っていた。ものすごく気に入っている、と言いながら。僕も、ファンが自分の歌を歌ってくれるのを何度も聞いて、その度に力がみなぎるのを感じる」。

    「ファンはロバートソンのことを熱烈に好きだし、ロバートソンも同じくらいファンのことを好いている」と、クロップは語った。「本人もご家族もマージーサイドにしっかり落ち着いているし、ここでの生活が数年延長されたことは、皆にとって良いことだと思う」。

    ジョゼ・モウリーニョが熱烈に欲しかった選手

    12月18日、マンチェスターユナイテッドがジョゼ・モウリーニョ解任を発表した。3年前にチェルシーをクビになったのが12月17日だったことから、ユナイテッド・ファンの間で皮肉なジョークの掛け合いはあったものの、元ユナイテッドのアナリストも含め、「来季もモウリーニョがユナイテッド監督を勤めることはあり得ない」という見解が圧倒的だった中で、驚いた人は殆どなかった。

    2年半の在任期間中、モウリーニョがマンチェスター市内のホテルで単身赴任生活を続けたことは有名な話で、ニュートラルなファンは一斉に、「いつクビになっても良いように備えていた」と、皮肉なジョークを交わした。

    Liverpoolファンも例外ではなかった。「モウリーニョが業績を持つ監督であることは否定しない。ただ、記者会見の場でプレミアリーグ優勝3回と自慢したところで、全てチェルシーでのことなのだから、ユナイテッド・ファンは救われない気持ちだったろう。昨季のCL敗退の時に、ユナイテッドがCL敗退するのは普通のことだと言ったことも、相当ファンの神経を逆なでしたに違いない。それもこれも、監督になったクラブの地元に引っ越すことすらしない人物を、ファンが心を開いて熱心に応援できるとは思えない」。

    対照的に、ユルゲン・クロップはLiverpool監督就任と同時に地元に居を構え、休日にはご家族と一緒にご近所との交流を深めて地元に溶け込み、奥さんともども市民の人気者になっていた。

    モウリーニョ解任の背景には、選手との亀裂が大きくなり過ぎたことに加え、2年半の通算で£400m近い資金を投入しながら成績面で本来の目標に到達できなかったこと、加えて、この夏にはLiverpoolを始めライバルチームよりも投資額が少なかったことを「戦力補強が不十分」と、繰り返しクラブを批判したこととは、誰もが指摘するところだった。

    この夏の戦力補強の不満点の一つは、モウリーニョが熱烈に欲しがっていた2人のブラジル代表ミッドフィールダーのうち、フレッジは£52mで獲得できたが、ファビーニョはLiverpoolに取られてしまったことだった。

    「モウリーニョの不満は、その意味では的中していたことが12月16日のアンフィールドで証明された」と、地元紙リバプール・エコーが唱えた。モウリーニョの最後の試合で、ファビーニョがマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せてLiverpoolが3-1と圧勝したのだった。

    「今季のプレミアリーグ開幕直後に、注目を集めたブラジル人ミッドフィールダーと言えば、フレッジの方だった。ファビーニョは、クロップが『プレミアリーグに順応する時間が必要』と宣言した通り、ベンチ入りすらしない試合が続いた。そして、その『時間』が有効に過ぎた今、フレッジの姿はどこにも見えず、ファビーニョはピッチ全体に存在感を植え付けた」と、同紙は締めくくった。

    開幕直後の好調ぶりが停滞し、フレッジがベンチにいる機会が増えたのと並行して、ファビーニョはまだ「順応中」だった頃のこと。アンチ・モウリーニョのファンが、「モウリーニョは、ベンチ要員に£52mを投入した」と批判したのに対して、Liverpoolファンは冷静さを崩さなかった。「フランスリーグから来たファビーニョが、プレミアリーグの荒波にもまれて自信喪失することがないよう、クロップはしっかり指導している。ファビーニョの準備ができたら、本来の姿を発揮してくれるだろう。アンディ・ロバートソンの前例を考えると、シーズン前半はベンチ入りすらしなくても、クロップがゴー・サインを出した時にはすごい戦力に育っていることは間違いない」と、誰もがクロップの選手投入方針に対する絶対的な信頼を語った。

    その通り、マージーサイドダービー(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)に続き、ユナイテッド戦でも安定したプレイを披露したファビーニョに対して、「まさに我々が期待した通りの、モナコ時代のファビーニョそのものだ。あまりにも凄いから、バイエルンやマンチェスターユナイテッドから引っ張られた、最強のディフェンシブ・ミッドフィールダーが、プレミアリーグにすっかり順応した」と、ファンは拍手を送り続けた。

    ファンの信頼と期待が正しかったことを、ファビーニョ本人が裏付けた。「プレミアリーグはプレイスタイルも違うし、集中度の強さも体力的な厳しさも、何もかも異なっている。チームメートの動きを理解する必要もあったし、忍耐力を持って、順応できるよう頑張った」。

    「監督のお蔭で、向上することができた」と、ファビーニョは輝く笑顔で語った。「監督は、戦略やポジショニング、マークすべき相手のことなど、いちいち僕を呼んで直接、説明してくれた。直すべき点があればすぐに、声をかけてくれて一対一で指導してくれた。それは、僕にとってとても大きな助けになった」。

    帰ってきた戦力

    12月16日、Liverpoolはアンフィールドでマンチェスターユナイテッドに3-1と勝って、今季プレミアリーグの無敗を維持した。5日前にナポリに1-0と勝ってCLラスト16進出を達成したことで、選手は自信を強めたところでの宿敵ユナイテッド戦は、事前予測を裏付けるかのような一方的な内容となった。

    「恥ずかしい程にレベルの差を見せつけられた」と、ユナイテッド陣営のアナリストは一斉に酷評し、「ジョゼ・モウリーニョが来季もユナイテッドの監督を続けるとは到底思えない」と、全国メディアも同調した。ユナイテッドの地元紙は、試合終幕にコップ・スタンドから盛大に沸き起こった「モウリーニョをクビにしないで!」チャントについて、自嘲的な文面で取り上げた。

    「ユナイテッドがモウリーニョをクビにするわけがない」と、ユナイテッド・ファンが冷ややかな口調で引き取った。グローバル・クラブであるユナイテッドの成績不振に際して、いわゆる「キーボード・ウォリアー」と呼ばれているファンが「モウリーニョのクビ」を求める声をインターネット上で張り上げる中で、地元のファンは、モウリーニョに対する拍手を毎試合続けていた。

    「スタンドでは監督と選手を全面的に支持するのがファンの務めだから、我々は無条件に拍手を送る。ただ、それは意見の反映ではない。意欲が感じられないプレイに、根本的な対処が必要だと誰もが感じている。ただ、クラブはお金本位でチームの成績は二の次。CL出場が数字上不可能になった時に、その方が解約金が安くなるからという理由で、手遅れになるまで待って監督をクビにする。クラブのトップが変わらない限りはサーカス状態が続くだけ」と、毎試合応援に駆け付ける忠誠なファンは嘆いた。

    「今のLiverpoolは何もかも正反対。最初はくびをかしげたような選手でも、ユルゲン・クロップの下で数か月鍛えられた結果、一流のスターになった例は数えきれず、チーム全体がやる気と自信に満ちている。何より、選手が全面的に監督を信頼し、監督のフィロソフィーを実現しようと必死になっているところが、我々ユナイテッド・ファンにとっては羨ましくて仕方ない」。

    いみじくも、プリシーズンの合衆国ツアーで、Liverpoolがユナイテッドに4-1と快勝した試合の後で、地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップとジョゼ・モウリーニョの大きな違い」について書いた記事が、ユナイテッド・ファンの嘆きを裏付けていた。

    それは、ナサニエル・クラインとアントニー・マーシャルが同時期に息子さんが誕生し、両選手が出産のためツアーを出て帰国したことに対する両監督の対極的な反応だった。

    「モウリーニョが、『マーシャルは、無事、健康な息子さんが生まれたことが分かったので、本来はツアーに戻ってきて試合に出ているべきなのに、休んでいる』と、不満を隠さなかったのに対して、クロップはニコニコ笑って言った。『リトル・クライニーの写真を見せてもらったが、元気な息子さんで私も嬉しい。暫くクライニーは忙しいだろう。人生にはフットボールよりも重要なことはあるが、出産は間違いなくその一つ』。その後、マーシャルが出て行くことを考えているという噂が飛んだことは、Liverpoolの選手からは明るいやる気の言葉しか聞こえない実態と同じく、誰もが予測できたこと」。

    そしてクラインは、昨季は腰の負傷のためほぼシーズンを棒に振った後で、ライトバックのポジションをこなす若手が急成長したこともあり、今季はリーグカップ戦(対チェルシー、試合結果は1-2でLiverpoolの敗退)のみの出場に留まっていた。負傷者続出のため、急遽ユナイテッド戦でプレミアリーグ初試合となったクラインは、まるでコンスタントに出場していたかのような安定したプレイで90分をこなしたのだった。

    「クライニーは今季初のプレミアリーグ戦だったし、90分持たないだろうと思っていた。でも、私の予測は間違いだったというくらいに、素晴らしいプレイをした」と、クロップは目を細めた。「選手層が厚いということは、全員が順番制で試合に出られる仕組みではなく、選手全員が、チャンスが来れば実力を発揮すべく日々備えること。その意味では、クライニーはまさにお手本」。

    クロップの称賛に、ファンは深く頷いた。「クラインは1月にカーディフに行くのでは?という噂が飛び交っていたところで、クリスタルパレス時代にデビューさせてもらった監督のニール・ウォーノックに引っ張られて行くことは本人にとっても良いことかと思っていた。でも、そんな噂を吹き飛ばすかのように、Liverpoolの負傷の危機を救うために立ち上がってくれた」。

    「負傷前にはレギュラーとして活躍していた選手が、回復後にチャンスを待つ立場に置かされるのは、内心穏やかではないだろう。それが、必要が出た時にはいつでも高いレベルを発揮してくれるのは、文字通り選手全員が監督の方針に賛同して一丸となっているから」。

    「ミスター・リライアブル」のプレミアリーグ500試合

    12月8日のランチタイム・キックオフ戦で、Liverpoolはボーンマスに4-0と快勝し、その前のバーンリー戦(試合結果は3-1でLiverpoolの勝利)に続きアウェイの連勝を記録した。開幕16試合無敗でクラブ記録を塗り替え、プレミアリーグの首位に立った。

    その試合で、ハットトリックを含み会心のプレイでスカイTVのマン・オブ・ザ・マッチに輝いたモー・サラーが、授賞式で、プレゼンター役のジェームズ・ミルナーに向かって、「僕はこの賞は受け取れない」と拒否したことで、TVを見ていたファンは一斉に目を点にした。

    「この試合は彼(ミルナー)の500試合という記念すべきものだから、彼が受賞すべき」と、サラーはスカイTVのアナウンサーに真顔で主張した。「彼のキャリアは輝かしいもの。僕は、自分のキャリアの中で、これから頑張っていいプレイをしたい。でも、今日はもらうわけにはいかない」。

    首を横に振り続けたサラーと、困惑しながらも嬉しそうに微笑んでいたミルナーの姿に、ファンの拍手は絶えなかった。「いい場面を見せてもらった。サラーの行動は寛大だし、何よりミルナーがベテランの副主将として、チームメートに心から尊敬されている実態が伺えた。ミルナーは、若手から慕われて敬意を抱かれるにふさわしい業績の持ち主」。

    「今日の試合では、正直、サラーが秀でていたのは確かだが、他の全員が10点満点の7点を超えるくらいの良いプレイを見せた。特にミルナーは、負傷のため急遽入ることになったライトバックで、あたかもこのポジションで何年もやってるベテランのような安定した試合をした」と、ファンは頷き合った。

    ミルナーのプレミアリーグ500出場は、ボーンマス戦の前に全国メディアも一斉に報道した。史上僅か13人目という500試合のマイルストーンに到達することになったミルナーは、現役選手の中では最多だった。

    「バーンリー戦で通算ゴール数を50としたミルナーは、いまだにプレミアリーグでは『ミルナーが得点した試合では負けがない』記録を維持している。しかもバーンリー戦の同点ゴールは、ミルナーがLiverpoolのタイトル争いのカギを握る存在であることを、再確認させられた」と、デイリー・ミラー紙はミルナーの偉大な記録を称賛した。

    地元紙リバプール・エコーが、ミルナーのユーモア精神を込めて、「その重要なゴールの報酬は、レフトバックだった」と続けた。ミルナーの同点ゴールをきっかけに攻撃増強を仕掛けたユルゲン・クロップは、レフトバックのアルベルト・モレノに代えてストライカーを投入した。そのため、ミルナーがレフトバックに回ったものだった。

    「ミルナーが、500試合のキャリアの中で、自分が最も得意とするミッドフィールドでプレイしたのは約半分と、様々なポジションで使われてきたが、ミッドフィールドに固執するためにLiverpool入りを選んだことは有名な話だった。2016-17季はレフトバックでシーズンを終えたことに対して、ミルナーがクロップに『率直な意見』を表明したことも誰もが知るところ。そして、バーンリー戦の次は、負傷のためライトバックでスタートという、二重の『報酬』が待っていた」。

    「これまでアウトフィールドではセンターバック以外全てのポジションを経験しているミルナーにとっても、ライトバックは僅か2度目だった」と、ミルナーの「ミスター・リライアブル」ぶり(※どのポジションをもこなす選手、という意味)を強調した上で、エコー紙はクロップの言葉を引用した。

    「500試合目にGKで出すと言っても、きっとミリーならできたと思う」と、ジョークを言った後で、クロップは真面目な口調で締めくくった。「ともあれ、ミリーのプレミアリーグ500試合という記念すべき場面を、共にできるのは光栄」。

    2002年に16歳でデビューして16年間、複数のビッグクラブで主力としてプレイし、プレミアリーグ優勝2回を含む多くのメダルを勝ち取ってきたミルナーは、シーズンチケット・ホルダーでありユース・チームで育ったクラブでもある、地元で熱烈なファンとして心に抱き続けているリーズユナイテッドについて、今年10月の創立99周年に際して本音を語った。

    「デビューできた時は夢の実現だと思った。唯一、残念だったのはもっと長くリーズでプレイしたかったこと」。2004年に、実質的に倒産に直面していたリーズは、クラブの財政を立て直すためにスター選手を売りに出し、その移籍金を赤字補填に回さざるを得なくなった。ミルナーもその一人としてニューカッスルに移籍させられたのだった。「クラブのために仕方なかった」。

    「リーズは今でも毎週、試合結果をフォローしている。99歳おめでとう。100歳の誕生日はプレミアリーグで迎えられることを祈っている」。

    エコー紙は締めくくった。「ミルナーのLiverpoolでの契約は2020年6月まで。その後はリーズに戻って『やり残した仕事』を完了させるのか、それともLiverpoolで契約更新するのか、現時点ではわからない。ただ、来月33歳となるミルナーが、500試合という数字を暫くは増加し続けること、Liverpoolにいる間はクロップにとっての『ミスター・リライアブル』であり続けることは間違いない」。

    マージーサイド・ダービーの意外なヒーロー

    12月2日、イングランド・フットボール史上最多の通算232回目、アンフィールドでのリーグ戦では100回目のマージーサイド・ダービーは、劇的な96分の決勝ゴールで1-0とLiverpoolが勝ち、1999年以来アンフィールドで勝ちがないエバトンの失意の記録を持続することになった。

    どこでもダービーと言えば、地元のファンにとって勝てば天国、負ければ隣人のからかいに耐える地獄の日々が待っている致命的に重要な試合であり、そのプレッシャーを背負って戦う両チームは、その時の順位や戦績に関わらず、常に行方がわからない対戦だ。そしてマージーサイドでは、気合が入り過ぎて相手を蹴りまくり、カード多発の「ダーティー・ダービー」の不名誉なニックネームを授かっていた。

    しかし今回は、Liverpoolは今季プレミアリーグ13試合に無敗で2位、エバトンはここ7試合5勝で6位と、面白いフットボールを展開する好調同士の対戦とあり、全国メディアでも好意的な記事が圧倒的だった。

    その背景には、ピッチ外の両陣営の団結を象徴するいくつかの実話があった。

    2016年にエバトン・ファン・グループが発端となり、今ではイングランド中のフットボール・スタジアムの風物詩となったフードバンク(※困っている人に食材を提供するためのチャリティ)は、アンフィールドでも毎試合で展開されていたが、今回のダービーでは、特に多数のファンの協力を呼びかけるべく事前準備が行われていた。その一環として、アンディ・ロバートソンがフードバンクの事務所を訪れ、エバトン・ファンのスタッフと一緒に食料の配送作業を分担するという心温まる出来事もあった。

    更に、昨季4月のCL準決勝戦で、試合前にローマの暴徒に凶器で襲われ、頭に致命傷を負ったLiverpoolファン、ショーン・コックスの莫大なリハビリ費用を援助するための基金に、エバトンのシーマス・コールマンが5,000ユーロを寄付した実話があった。それに対して、ダービーのマッチ・プログラムでユルゲン・クロップが、コールマンに対する感謝を表明した。「シーマスは、ピッチの上ではエバトン精神の象徴だが、ピッチ外でのコックス家に対する思いやりに満ちた行動は、まさにマージーサイドのライバル意識の真相」。

    試合後の記者会見では、クロップとエバトン監督のマルコ・シルバが揃って緑のバッジを付けていた。それは、昨年5月にマンチェスター・アリーナでの爆弾テロで殺害された被害者の遺族が創立した「メガン・ハーリー基金」のバッジだった。

    それらピッチ外での両陣営の団結は、ピッチ上での意外な結末の後でも、お互いに対する尊重という形で残った。

    試合後に、アウェイ・サポーターに謝りに行ったジョーダン・ピックフォードと選手一行に対して、エバトン・ファンは温かい拍手を送った。「試合終了の直前に相手にとっては超ラッキーなゴールを与えて負けを食らった。でも、昨季までの『ボールを蹴る前から負けていた』状況とは違う。試合結果には目の前が真っ暗になるが、チームに対しては誇りと希望しか浮かばない」。

    いっぽうLiverpoolファンは、「ラッキーなゴール」という見解はエバトン・ファンと一致していたが、得点したオリジに対する誇りを語り合った。「殆どのストライカーならば、ボールがクロスバーをヒットした時には諦めて次のプレイに入っていただろう。最後までゴール・チャンスを求めて粘ったオリジの、勝ちに対する執念が運を呼んだ」。

    同時に、「ラミロ・フネス・モリ事件(※2016年4月のマージーサイド・ダービーで、フネス・モリの危険なタックルを受けてオリジが担架で運ばれて交代した事件。フネス・モリはダイレクトの退場)の雪辱を、オリジはやっと果たすことが出来た」と、多くのLiverpoolファンが異口同音に言った。「あの負傷を負う前のオリジは、Liverpoolの将来を担うストライカーと期待されていた程だったのに、あの負傷のせいで、復帰してからも以前の調子に戻れないまま今に至っている」。

    ファンの思いをクロップが引き取った。「私はあの事件のことは絶対に忘れられない。ファウルとか厳しいタックルというのはフットボールに付き物だが、しかし、あれはオリジの選手としての成長を中断させるほどの大きなものだった」。

    昨季はドイツのVfLボルフスブルクにローンに出てキャリア立て直しを図ったオリジは、うまく行かずにローン期間が満了し、行き先がないままLiverpoolに戻って来たものだった。

    「今は怪我の痛みは完全になくなったディボックが、毎日のトレーニングで全力を尽くしている姿を見ているだけに、試合に出してあげられず申し訳ないと思っていた」。

    試合後のヒーローインタビューで、クロップの言葉を伝えられて、感想を問われたオリジは、さわやかな笑顔で答えた。「監督が支えてくれるから、意欲を燃やし続けている」。

    「今日の試合では、全員が最後まで勝ちを目指して頑張った。その結果、出たゴールだから最高の気分だ。ましてやダービーだから、スペシャル」。

    笑顔を放射する選手の契約更新

    インターナショナル・ウィーク明けの11月22日、サディオ・マネが契約更新にサインしたという正式発表が流れた。Liverpoolのクラブが、昨季のフロント3の大活躍を受けて、大幅昇給を伴う新たな長期契約を提示した話は誰もが知るところだった。それに対してボビー・フィルミーノとモー・サラーが今季開始前に立て続けにサインした後で、残ったマネの朗報がなかなか聞けない状況が続いていた。

    今回のインターナショナル・ウィークに入る直前に、マネが「契約の話はエージェントに任せている。僕はフットボールに専念している」と宣言した話が伝わり、ファンの杞憂を刺激した。というのも、全国メディアが「レアルマドリードがマネを狙っている」など、ファンの神経を逆なでする憶測記事を書き続けていたところで、更に、その11月22日の朝方に、ESPNが「マネのエージェントが『トロフィーを取れるクラブ』を探している」という不穏な記事を出したばかりのことだった。

    そんな時に、晴天のへきれきのように出てきた発表に、ファンは一斉に歓喜の声を上げた。「このタイミングがたまらない。Liverpoolもなかなかやってくれるじゃないか、という感じだ」。

    同時に、クラブが契約更新のニュースに際して流したマネのインタビューが、ファンの支持を一層高めた。「Liverpoolファンに対して一言」という質問に、にっこり笑って、「ハーイ、Liverpoolファンの皆さん!」と手を振ったマネの自然なしぐさが、ファンの心を直撃したのだった。

    2016年夏に、移籍金£30mでLiverpoolの(当時)歴代3番目に高い選手となったマネは、89試合で40ゴール18アシストと、堂々たる数字を上げていた。「フロント3の全員が、欠かすことのできない重要さを持っている。中でもサディオは、プレイだけでなく人好きのする性格も手伝って、ファンの圧倒的な人気を誇っている。これまでの言動から、Liverpoolに不満を抱いている要素は微塵も感じられなかったので、何故サインが遅れているのか理解できなかった」と、誰もが笑顔で頷き合った。

    つい先日の11月18日に、セネガル代表チームが赤道ギニアに1-0と勝った試合の後で、マネがピッチを去る時に涙を流したという事件が伝えられた。その試合をTVで見ていたLiverpoolファンが、「信じられないことに、セネガル代表チームの『ファン』が、90分を通じてマネにブーイングを飛ばし続けた」と、怒りに震えながら証言した。「セネガル人のファンから聞いた話だが、このような行動はしばらく前からとのこと。ブーイングをする側の言い分は、『マネはLiverpoolに移籍してからというもの、代表チームでのパフォーマンスは低下した。サウサンプトン時代はこんなにミスはなかったのに』というものらしい」。

    これに対してLiverpoolファンは、「サディオがLiverpoolに戻ってきたら、これまで以上に大きな拍手とチャントで迎えて上げよう」と、強く宣言した。代表チームの「ファン」からブーイングされた選手に対して、Liverpoolファンが雪辱とばかりに応援を強めてきた事例は、80年代のジョン・バーンズ(イングランド代表)の頃から続いていた。

    「試合中に、不調を理由に自分のチームの選手に対してブーイングするような行動は、ファンとして許せないもの。Liverpoolの選手がその立場に立たされた時は、『本物のファンが温かく応援してくれるクラブ』に戻りたくなるように、我々としては一層気合を入れよう」。

    そのファンの決意が聞こえたかのように、マネは語った。「Liverpoolファンは、どんな時でも熱心に応援してくれる。良い時だけでなく悪い時にも、常にサポートしてくれる。そのファンのために、絶対にトロフィーを取りたい」。

    「マネは繊細な神経の持ち主で、自分に厳し過ぎるきらいがある。だから、ミスをした時には特に、我々ファンが大声で励まして自信を取り戻してもらおう」と、マネのチャントはどんな時でもスタンドから鳴り響いていた。

    マネに対する激励を、ユルゲン・クロップが引き取った。「サディオに対する批判は、私が知る限り、本人だけが言っているもの。サディオは、自分がいかにワールドクラスの選手であるか気づいていないように思える」。

    そして、今回のマネの契約更新は、クラブの野望の証明であると同時に、ワールドクラスの選手がプロとしてのピークという年代を捧げる価値のある、トロフィーを狙えるクラブであるという表明だと宣言した後で、にっこり笑って締めくくった。

    「サディオは笑顔を放射する選手」。

    クロップの言葉に、「僕の監督に対する信頼は、これまで何度も言って来た通り」と、マネは笑顔を放射して語った。「ファンや監督、そしてみんなで力を合わせてスペシャルなものを達成したい」。

    新ファブ4の誕生?

    インターナショナル・ウィーク前の11月10日の週末は、マンチェスターシティがダービーで隣人ユナイテッドに3-1と圧勝して首位奪還し、2位のLiverpoolはフラムに2-0と勝ち、3位のチェルシーはエバトンに0-0と引き分けて、12戦終えた時点でトップ3が無敗と、プレミアリーグ記録を塗り替えた。BBCスポーツは、トップ5チームの最下位5チームとの対戦成績は合計20試合でトップ5が19勝(※例外はアーセナルがクリスタルパレスに2-2と引き分けた試合)と、上位と下位とのこの上なく大きい差を指摘した。

    「マンチェスターシティは、異例だった昨季のこの時点より2ポイント少ないが、例えばLiverpoolは30ポイント取っているのに首位ではないという事実が、今季のプレミアリーグのトップ優位ぶりを象徴している」と、同メディアは結論した。

    そして、圧倒的多数のアナリストがマンチェスターシティの連覇を予想する中、その一人であるガリー・ネビルが真面目な表情で語った。「チェルシーは新監督下で選手たちが自信を取り戻し、良いスタートを切ったが、遅かれ早かれポイントを落とし始めるだろう。シティと競えるチームは唯一、Liverpoolだけ」。

    自分の古巣であるユナイテッドが、チーム力の差を見せつけられて惨敗したダービーの余韻の中で、ガリー・ネビルは冷静な口調で締めくくった。「シティとの競争で、Liverpoolにとって最大の難点は、他のチームからの援護射撃は全く期待できないこと」。

    全国メディアやアナリストがマンチェスターシティの優位を掲げる傍らで、Liverpool陣営は自分たちの足元固めに専念する決意を貫いていた。「自分たちがコントロールできないことだから、シティの勝敗は全く意識していない。自分たちの次の試合に勝つことだけを考えている」というユルゲン・クロップの言葉に、ファンは大きく頷いた。

    「フロント3はまだフル回転とは言えない中で今の成績を維持しているのだから、先行きは明るい。夏の新加入選手たちが着実に戦力になっていることも明るい要素だし、フラム戦では怪しい判定の恩恵を受ける運も向いてきた。シーズンは長い。確実に自分たちのプレイを向上させてポイントを蓄積して、シティにプレッシャーを与え続ければ何が起こるかわからない」。

    フラム戦の「怪しい判定の恩恵」について、「ハル・シティ時代にビッグクラブに痛めつけられた経験が思い出された」と、試合後にアンディ・ロバートソンが同情を込めて語った。「先制ゴールをオフサイドとされて相手がひるんでいる最中に、素早いカウンターでゴールを決めるというのは、ビッグクラブの貫禄。フラムには気の毒だが、我々はビッグクラブがやるべきことをやった」。

    この試合でマン・オブ・ザ・マッチ候補の活躍を見せたロバートソンは、今季通算5とLiverpoolの最多アシストとなったジェルダン・シャチリの2点目について質問されて、「素晴らしいゴールだったと思う」と目を輝かせた。

    「ロバートソンは、降格したクラブから格安の移籍金で入ってきて、ピッチの上で世間の冷たい反応を覆してLiverpoolファンの熱烈な支持を受けるに至った選手。同じ道をシャチリが歩みつつある」と、地元紙リバプール・エコーがLiverpoolの明るい要素に着目した。

    「今季これまでの『Liverpoolの意外な数字』の一つが、フラム戦でも両ゴールに貢献したフルバックのアシスト記録。もう一つは、フロント3(モー・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ)とシャチリが4人揃って試合に出たのは合計204分だが、その4人は23分ごとに1ゴールという高い得点頻度。昨季前半の『ファブ4(※4人目はフィリペ・コウチーニョ)』は32分ごとに1ゴールだった実績を考えると、『新ファブ4の誕生』と言っても過言ではない」。

    「素晴らしいクロスだった」と、シャチリは、ロバートソンの誉め言葉をそのまま返して、自らの役割について語った。「サブで出て試合を変えることも、スタートして良いプレイをすることも、チームの勝ちにつながるならばどちらも同じ」。

    そんなシャチリに対して、ファンの間で支持が急上昇しているというのは、エコー紙の記事の通りだった。「ストークでひときわ目立っていたシャチリは、有能なチームメートに囲まれれば更に磨きがかかって一層良いプレイを発揮する選手だと期待していたが、その通りだった」と、ファンは笑顔を見合わせた。

    ファンの声援が着実に高まる中で、シャチリは力強く語った。「週中のCL戦で(対レッドスター)2-0と敗戦を食らった後だったから、フラム戦は、勝って自信を取り戻してインターナショナル・ウィーク入りすることが必須だった。自分たちが勝ち続けることが重要」

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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