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    希望とハート

    昨2018-19季前半の10月末に、マンチェスターシティ監督のペップ・グアルディオーラが、BBCラジオ5の特別番組で「人生の岐路となった5曲」を明かした。No.1に選んだのは、オアシスのドント・ルックバック・イン・アンガーだった。「私がいかにこの曲が好きか、とても言葉では表現できない」と、グアルディオーラは語った。「マンチェスター・アリーナの爆弾事件(※)以来、この曲はマンチェスター市民の曲になった。犠牲者を偲んで1分間の黙とうが行われた時、参列者の女性が歌い始めて合唱となった」。
    ※2017年5月に、アリアナ・グランデのコンサートで自殺爆弾が仕掛けられ、22人の死者を出したテロ事件。

    「あの日、私は息子と一緒に自宅にいて、妻と2人の娘はあのコンサートに行っていた。爆発の直後に妻が電話をかけてきた。『何かが起こってみんな走っている。でも何が起こったのか分からない』そこで電話が切れた。その後、何度電話してもつながらないので、私はアリーナまで迎えに行った。暫くして、妻から電話かかってきた。3人とも無事で帰途に向かっている、と」。

    「私は運に恵まれていた。でも、運に見放された多数の人が苦しむことになった」と、グアルディオーラは目を伏せた。

    その言葉の節々から、グアルディオーラがマンチェスター市に対して特別な感情を抱いている様子が伺えた、と番組のナレーターが付け加えた。

    グアルディオーラが2016年夏にマンチェスターシティの監督に就任した時に、最初にやった「改善」は、選手全員に、毎試合の後でスタンドのファンにお礼の挨拶に行くよう命じたことだった。「それまでも、殆どの選手がスタンドに来ていたが、試合の内容などによって何人かはまっすぐ去っていた。ペップのお蔭で、ファンと選手の間でつながりが出来たような気がする」と、シティ・ファンは歓迎した。

    マンチェスターシティがプレミアリーグ連覇を賭けて、Liverpoolとの間で前代未聞の激烈な優勝争いを繰り広げていた2019年5月3日に、ガーディアン紙が「希望とハート」という見出しで、ヒルズバラの法廷闘争グループの一人であり、秘匿文書の発掘に尽力を注いだ犯罪学者、フィル・スクレイトンのインタビュー記事を掲げた。ヒルズバラ30周忌を控えた4月中旬に、スクレイトンは、Liverpool FCからの依頼を受けて、ヒルズバラ遺族グループのマーガレット・アスピナルと共にメルウッドを訪問し、現役選手全員に悲劇の真相を伝えるレクチャーを行った。

    「行く前は、果たして選手たちがどんな反応をするか、自信が持てなかった」と、スクレイトンは静かに語った。今年70歳になったスクレイトンは、60年超のLiverpoolファン歴の中で、学者として「プレミアリーグの選手たち」の変遷を見てきただけに、事件当時は生まれてすらいなかった選手たちに対して幻想は抱かなかったという。

    「ところが、私の杞憂は全く的外れだった。彼らは、いわゆる『億万長者のエゴイスト』とは正反対だった。マーガレットと私が喋っている間、Liverpoolの選手たちは誰一人として、携帯を見たりせず、全員が真剣な表情で聞いていた。そして、明らかにヒルズバラ悲劇について強い衝撃を感じた様子だった。自分の家族を思い浮かべながら、人生について考えたように見えた」と、スクレイトンは目を潤ませながら語った。「彼らは、まず第一に人間的な側面があり、次にフットボールがあるということを理解している」。

    その「人間的な側面」とは、フットボールが地元社会の中で担っている責任を認識し、実践することにある、とスクレイトンは強調した。「そこに気づかないクラブは次第に取り残されて行く」。

    「ユルゲン・クロップはそれが出来る人物だ。ペップ・グアルディオーラもしかり。この二人が監督を勤めている2チームが、他を大きく引き離してプレミアリーグのトップを争っている事実は偶然ではない」。

    ユルゲン・クロップが、2015年にLiverpool監督が内定した後で、赴任までの間に最初にやったことは、ヒルズバラ悲劇のドキュメンタリーを見ることだったという。それは、Liverpool FCのクラブだけでなく、地元コミュニティを理解するために不可欠だったから、とのことだった。

    Liverpool FCが、2018-19季に掲げ始めた、クロップが語る「We are Liverpool. This means more.(我々はLiverpool。それはもっと深いもの)」のスローガンは、日常的に動画としてスクリーンに映り、ファンの注目を集めるようになった。2018年12月には、グラフィティ・アーティストによる「ユルゲン・クロップ壁画」が、市街地の壁に登場するに至った。

    「この表現は、まさにリバプール市にふさわしい。何度も倒されながら、みんなで力を合わせて立ち上がり、再びチャレンジに挑んできたこの市を象徴している」と、スクレイトンは深く頷いた。

    壊れたクラブに再び夢を与えた人

    イングランドのシーズンが正式に幕を閉じ、全4部リーグの顔ぶれが揃って2019-20季のリーグ日程発表を待っていた6月8日、レイトン・オリエント監督のジャスティン・エジンバラ(49歳)が亡くなったという悲報がイングランド・フットボール界を襲った。3年ぶりにプロ・リーグ(4部)に復帰が決まり、全92チームの中で最も開幕を楽しみにしていたはずのレイトン・オリエントにとっては青天のへきれきだった。

    プレミアリーグのファンの間では、トットナムのレジェンドとしての印象が強い人物だった。

    「攻撃的なフルバックとして、わがクラブでの1990-2000年で、通算276出場を記録し、1991年FAカップ優勝と1999年リーグカップ優勝を勝ち取ったレジェンドだった。その後もトットナム一筋で、わがクラブのレジェンドのイベントは欠かさず出席してくれた。6月1日のマドリードにも来てくれて、後輩選手たちが立派に戦う姿を見てくれたばかりだった」と、トットナムは悲痛なメッセージを出した。

    Liverpoolファンの間でも、このショッキングなニュースに際して、エジンバラへの追悼が飛んだ。「マドリードに来ている姿を見た。まさか数日後にこんなことになるとは想像もできなかった」。

    もともと、Liverpoolとトットナムとは常にお互いに敬意を抱いていた。ファン同士も、例えばLiverpoolファンにとってのエバトンや隣町のマンチェスターの2チーム、トットナムにとってのアーセナルや同じロンドン市内のチェルシーに対する「身近なための宿敵意識」はなく、伝統的に良い関係を保っていた。CL決勝戦のマドリード市内でも、Liverpoolファンとトットナム・ファンが仲良く肩を並べて乾杯する姿がいたるところで見られた。

    「90年代のトットナムを代表するレジェンドだった」と、Liverpoolファンは衝撃を隠せなかった。

    「マドリードでは一緒にスタンドで会話を交わした。その時の彼は元気がみなぎっていたのに」と、トットナム時代のチームメートであるレドリー・キングが語った。

    マドリードから帰国した直後の6月3日に、ジムに行った時に心臓発作に見舞われ、入院から5日後に亡くなったという。

    かくして、トットナム陣営が一斉にショックで言葉を失う中、レイトン・オリエントのクラブやファンは、ノン・リーグ(ナショナル・リーグ)優勝とイングランド・リーグ復帰の天国から一気に墜落する悲嘆を味わった。

    「2017年11月にエジンバラが監督として来た時のレイトン・オリエントは、前オーナーの悪政の末に財政破綻し、プロ・リーグから降格して半年のことだった。ファン・グループが買い取り、クラブの経営立て直しを図る過程で、チーム再建を成し遂げたのがエジンバラだった」と、BBCのロンドン地区が掲載した。「ビッグ・クラブで栄誉を勝ち取った経験に基づくフィロソフィーでチームを底上げし、わずか1年半でプロ・リーグ復帰を達成したエジンバラが、選手たちを率いて臨むはずだった開幕戦は、最も重要な人物がいない試合になってしまった」。

    レイトン・オリエントの主将であるジョビ・マクナフの追悼の言葉は、地元メディアの感傷を裏付けていた。「監督は、壊れたクラブを立て直した人だった。素晴らしいリーダーで偉大な人格者だった」。

    翌週に2019-20季のリーグ日程が発表され、監督を失ったレイトン・オリエントは開幕戦でチェルトナム・タウンと対戦することになった。その直後の6月24日に、チェルトナム・タウンのファン・グループが、開幕戦にジャスティン・エジンバラ追悼のバナーを掲げる計画を発表した。

    「辛い日々を過ごしているレイトン・オリエント・ファンのために、少しでも慰めになるようにと、バナーを制作することになった。オンラインでカンパを募ったところ、資金の£500はすぐに集まった」と、主催者のファン・グループは説明した。費用を上回った分は、エジンバラのご遺族が協賛しているチャリティに寄贈するということだった。

    エジンバラのイメージに「He Made You Dream Again(あなた方に再び夢を与えた人)」と記された7.3m×3.65m大のバナーは、チームを問わず、フットボール・ファンから盛大な拍手が注がれた。

    去って行った選手たち

    6月21日、フェルナンド・トーレスの引退声明がLiverpoolファンの間でも話題となった。トーレスが2011年1月の期限日ぎりぎりに移籍リクエストを出し、ライバルのチェルシーへと去って行ったことで、ファンに衝撃を与えたことは周知の通りだった。その後、トーレスが悪名高き前オーナーが残した負の遺産の犠牲になったこと、具体的には、W杯前の微妙な時期に負傷状況を偽られたなど、クラブに対する不信感を募らせたことがきっかけだったと判明し、ファンの反感は鎮静化した。さらに、トーレス本人が、折に付けLiverpoolへの愛情を表現したこともあり、ファンの反応はほぼ正常化していた。

    「Liverpool時代(2007–2011)の、特に最初の2年間のトーレスは、ワールドクラスのストライカーだった。振り返ると、本人のキャリアのピークをLiverpoolで過ごしたことになる。ファンとしては、数えきれない程の思い出を残してくれたトーレスに心から感謝したい」と、Liverpoolファンは、異口同音に引退するトーレスへのメッセージを捧げた。

    折しも、そのトーレスと入れ替えで入ってきて、3年半後に去っていったルイス・スアレスが、ESPNが選出した「スポーツ界の悪者」ランキングで首位を取ったニュースが伝わったばかりのことだった。2位はジョーイ・バートン、3位はマイク・タイソン、4位はジョゼ・モウリーニョ、5位はディエゴ・コスタと、そうそうたるランキングだった。

    「スアレスが、プレミアリーグの他チームのファンから総すかんを受けていたことは否定できない」と、Liverpoolファンは苦笑を浮かべた。「Liverpoolの選手だった時には(2011–2014)、そのワールドクラスのプレイを堪能させてもらったが、同時に、在籍中にクラブの名誉を傷つけるような大きな問題を、重ねて起こしたことも事実(※)」。
    ※2013年夏に、CL出場を求めてアーセナルへの移籍をごり押ししようとしたこと、その準備として噛みつき事件を起こしたこと。2011年のマンチェスターユナイテッド戦で、相手パトリス・エブラに対して人種差別的言葉を発して処分されたこと。2014年W杯で噛みつき事件を起こし、バルセロナへの移籍をごり押ししたこと。

    「スアレスが、試合に勝つためなら手段を択ばないことは知っていた。でも、過去の経緯を考えると、CL準決勝では、Liverpoolに対してもう少し敬意を示すことを期待していた」と、ファンは肩をすくめた。

    それは、5月1日のカンプノウでの1戦目の前に、「息子はマージーサイド生まれだし、僕にとってLiverpoolは特別なクラブ」と言った、その唇が渇かないうちに、試合では「勝つためなら手段を択ばない」本能を出していた。スアレスの執拗な「ダイブ」に一言付けたアンディ・ロバートソンに対して、ハーフタイムにトンネルの中で暴言を吐いた場面が、BTスポーツのカメラに映った。更に、3点目が決まった時に、スアレスがロバートソンを上から見下ろして、挑発的な笑いを浴びせた姿も、ファンの目に止まった。

    スアレスの「勝つためなら手段を択ばない」行動は、6日後のアンフィールドでも続行した。コップの目の前で、後ろにいたロバートソンを蹴り上げ、それが原因でロバートソンは傷の手当てが必要となった時、ファンの堪忍袋の緒が切れた。「F***Off(この野郎、という感じの叫び)、スアレス」のチャントがコップ・スタンドから沸き起こった。

    「スアレスは、Liverpoolファンとの感情的なつながりを完全に焼き落とした」と、リバプール・エコー紙は指摘した。

    それから5週間以上経った6月15日に、コパ・アメリカを控えてスアレスが、アンフィールドでの大逆転CL敗退(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが勝ち抜き)を「人生最悪の出来事」と告白した。「姿をくらませたかった。子供を学校に送って行くのも気が引けた」。前季にもローマに似たような大逆転を食らった後で、同じことが起こるとは思わなかった?との質問に、スアレスは首を横に振った。「我々はバルセロナだから、そんなことには絶対にならないと自信があった」。

    その言葉を引用したリバプール・エコー紙は痛烈だった。「スアレスは、アンフィールドのマジックを知らないはずはなかった。バルセロナだから、と名前にあぐらをかいて、舐めてかかったのが敗因」。

    Liverpoolファンは、地元紙の記事に頷きながら、「スアレスはアンフィールドのヨーロピアン・ナイトを経験しなかったから、予測できなかったのは仕方ない」とつぶやいた。「トーレスはCLで活躍した思い出を作ったがトロフィーには縁がなかった。スアレスはリーグカップ優勝(2012年)があったがCLには出られなかった。ワールドクラスの選手が野心を実現するプラットフォームではなかったことは確かだ」。

    通算6回目のCL(ヨーロピアン・カップ)優勝祝いの宴の後で、ユルゲン・クロップが言った、「6月1日のマドリードは我々にとって最終節ではない。次の章のイントロを書き始めたところだ」という言葉に胸を熱くしながら、ファンは語り合った。

    「去っていった選手たちが過去の記憶に収まった後で、今のLiverpoolは新たなチャプターに進んだ」。

    その名はフィルジル・ファン・ダイク

    3月のインターナショナル・ウィーク中に、スペインとの対戦を控えていたノルウェー代表のジョシュア・キングが、ワールドクラスのディフェンダーと定評あるセルヒオ・ラモスとの対決について、「心配など感じない。もっと凄い強敵を知っているから」と、冷静に言った(試合結果は2-1でスペインの勝利)。プレミアリーグ通のジャーナリストから、「それは、Liverpoolのフィルジル・ファン・ダイクのことですか?」と質問されて、ボーンマスのエース・ストライカーであるキングは頷いた。「僕が避けたいと思うセンターバックは彼一人だけ。彼は僕がこれまでに対戦した中で最強のベスト・ディフェンダー」。

    ファン・ダイクを「避けたがる」ストライカーはキングだけではなかった。ワトフォードのトロイ・ディーニーは、持ち前のユーモア・センスで、「僕はファン・ダイクが大嫌い!」と笑った。「彼はストライカーにとって悪夢のようなディフェンダー。背が高過ぎるし、強過ぎるし、ボール・テクニックも凄過ぎるし、闘志が強過ぎるから、到底かなわない。しかもスピードもある。シャツの上からオーデコロンを吹きかけて試合に出るような選手で、おっいい匂いだと思った瞬間に、僕は追い抜かれて間抜け役をやらされている」。

    プレミアリーグのストライカーたちが次々に発する「ファン・ダイク嫌い」宣言を、地元紙リバプール・エコーは誇らしげに引用しながら、ファン・ダイクがLiverpoolのディフェンスにもたらした効果を数字で表現した。2018年1月にファン・ダイクが入ってくる前には、23試合で28失点とザルのような守りが目立ったLiverpoolは、ファン・ダイクが来てからというもの、2018-19季までの通算で52試合32失点と、失点ランキング首位に立った。

    実際に、ファン・ダイクに対する高い評価は、イングランドのフットボール界では既成事実化していた。例えば、EL決勝戦でチェルシーに4-1とぼろ負けしたアーセナルに対して、「1-0アーセナル」の異名をとった名ディフェンダーであるリー・ディクソン(アーセナル在籍は1988–2002)は、「今のアーセナルは、たとえフィルジル・ファン・ダイクが来ても修復不可能なくらいにひどい」と叫んだ。いっぽうで、ファンが良いプレイをしたディフェンダーを誉める時に、「今日のクリス・スモーリングなら、ファン・ダイクの隣に入っても恥ずかしくないだろう」などと言うようになった。

    ところが、そのファン・ダイクが、6月7日のネーションズ・リーグ準優勝の試合中に、対戦相手のイングランドの「ファン」から集中的なブーイングを受けたことで、イングランドのメディアやアナリスト、良心的なファンの間で物議をかもした(試合結果はオランダが3-1で勝利)。

    「PFA最優秀選手に輝き、CL優勝を達成し、ピッチ内外で広く尊敬されているファン・ダイクに対して、いったい何の目的でブーイングをするのか?」と、BBCのジャーナリストが強い文面で批判を唱えた。「ファン・ダイクが私生活で赤十字を熱心にサポートし、クリスマスに120人の病気に苦しむ子供たちをアンフィールドに招待するなど、人目に付かないところでチャリティに従事していることを、これらブーイング軍団は知っているのだろうか?」

    Liverpoolファンは、「こういう奴らがいるから、スカウサーはイングランド人ではない、という態度に固執したくなるのだ」と、怒りに震えながらBBCの批判に深く同意した。

    同時に、オランダのファンが、ファン・ダイクの歌を歌ってそれらブーイングに対抗した様子は、Liverpoolファンの心を温めた。2018年10月29日のカーディフ戦(試合結果は4-1でLiverpoolの勝利)で開始し、以来Liverpoolファンの定番になった歌だった。

    「ファン・ダイクが来る前は、コーナーを与える度に爪を噛んでいたが、ファン・ダイクが来てからは安心して見ていられるようになった」と、Liverpoolファンは笑顔で語り合った。ダーティ・オールド・タウンのメロディーに、「わがチームのセンターハーフ わがチームのNo.4 彼の守りを見て、彼の得点も見る 冷静にパスを出す その名はフィルジル・ファン・ダイク」という詞を乗せたその歌は、文字通り、Liverpoolがコーナーを得る度にスタンドから合唱が出るようになった。

    そして、イングランド代表ファンのブーイング騒動がひと段落した6月14日に、ファン・ダイクがLiverpoolファンへの心のこもったメッセージを出した。

    「僕がLiverpoolに来たかった理由の一つは、熱心で素晴らしいファンがいたから。真のファンという人々がいたから。このクラブに捧げている人々は、何があってもチームをサポートしてくれる。勝敗に関わらず常に応援してくれるファンがいるから、我々選手たちはもっと頑張ろうという勇気が湧きます。そして、我々選手はチームとして団結して一緒に目標を達成すべく前進し続けます。僕は、このような選手たちと共に、このファンのために働けることを光栄に感じています」

    「4-0で勝つ」自信の根拠

    5月7日、Liverpoolがカンプノウでの3-0の負債を背負ってCL準決勝2戦目を迎えていた試合前に、マンチェスター・イブニング・ニュース紙がイルカイ・ギュンドアンの、「Liverpoolが勝ち抜くチャンスは十分にあると思う」という予測を掲載した。

    「理由はうまく説明できないが、Liverpoolが4-0で勝つ場面が目に浮かぶような気がしている。アンフィールドだし、ユルゲン・クロップがどんな風に選手に意欲を注ぐ監督かを考えると、そして、そのクロップの言葉を忠実に実現できる選手たちだから。僕の感触では、Liverpoolは、バルセロナ程の強豪でも叩き潰せるチームだと思う」。

    そのギュンドアンの予測が的中した試合の後で、Liverpoolの選手たちは異口同音に、「世間は我々の敗退を決め着けていたが、チーム内の全員が4-0で勝つ自信を持っていた」と語った。

    イングランドの全国紙は、いつも通りの一貫性のなさで、非難に聞こえる程に悲観的だった事前予測から一変して、劇的な大逆転勝利を収めたLiverpoolを絶賛した。

    そして、対戦相手が同じくイングランドの、しかもCL決勝初出場のトットナムと決まった後は、再び手のひらを返してLiverpoolに対するプレッシャー攻撃を開始した。「今季プレミアリーグで、Liverpoolはトットナムより26ポイント差を付け、しかも直接対決で2勝と圧倒的に有利」と決めつけた。

    同時に、多くのメディアがLiverpoolの不利な要素をこぞって書き立てた。「対戦相手を良く知っているという点ではイーブン。決勝進出そのものが立派な業績というトットナムの方がプレッシャーが少ない分、有利」という指摘に並行して、クロップの近年の決勝戦績が議題に上った。

    「クロップは、ドルトムント時代から通算で決勝戦で6連敗中(※)。そのネガティブな記録をストップすることが出来るか?」。
    ※2012年のドイツ・カップ優勝の後、2013年CL、2014年ドイツ・カップ、2015年ドイツ・カップ、Liverpoolでは2016年リーグ・カップ、2016年EL、2018年CLと6連続で決勝で敗れていた。

    メディアの雑音がピークに達した6月1日、Liverpoolはトットナムを2-0と敗ってCL優勝を達成した。「決勝戦6連敗」と書き続けたメディアが、90度転換してクロップ絶賛の速報を飛ばす中、Liverpoolのチーム一行は、スタンドの前に立ち、外部の騒音をシャットアウトする大声援を送り続けたファンと一緒にYou'll Never Walk Aloneを合唱した。

    そして、ファンとの祝勝がひとしきりした時に、おもむろに選手たちが走って行き、ピッチの中央に立っていたクロップを捕まえた。あっという間に選手全員が手分けしてクロップを担いでスタンド前に戻り、大歓声のファンの前でクロップを胴上げしたのだった。

    「選手全員が、監督にどれだけ恩を感じているかと思うと、胴上げは当然のことだった」と、控室に戻った後でジョー・ゴメスが語った。「僕は個人的に、辛い時に監督からどれだけ助けてもらったか、言葉に尽くせない。監督のお蔭でここまで来れた、とは過言でも何でもない。そして、そう感じているのは僕だけでなく、全員が同じ気持ちでいると思う」。

    試合後の記者会見で、いつもに増して明るい笑顔を浮かべていたクロップに、あるジャーナリストが、「あなたはいつも、負ければ監督である自分の責任、勝てば選手たちの業績、と言ってきました。今の気持ちはどうですか?」と質問した。それに対して、クロップはやや真剣な表情で語った。

    「これまでの夏休みは、決勝に負けた後だったので、家族にすまない思いをさせた。今年は家族に迷惑をかけることがないと思うと嬉しい」。

    無責任なメディアの「決勝戦6連敗」という非難を背に、身を張って選手を守ってきたクロップの言葉だった。

    ライバル・ファンは、「バルセロナに4-0と勝った瞬間に、LiverpoolはCL優勝杯に王手をかけたと覚悟した」とため息をついた。

    「ひとえに監督のお蔭」と、アンディ・ロバートソンは主張した。「カンプノウでの試合後の控室は暗かった。誰もがうなだれて沈み込んでいた。その時に監督が飛び込んできた。満面に笑みを浮かべて、飛び跳ねながら明るい声で叫んだ。『君たち、凄いぞ!たぶん、バルセロナは世界一。でも君たちはその世界一のチームを倒すことが出来るんだから!』と。その言葉が浸透するまでに一晩かかったが、でも、間違いなくそれが転機だった。マージーサイドに戻った時には、選手全員が『絶対に勝てる』と真剣に自信を抱いていた」。

    いみじくも、クロップに支えられた経験を持つギュンドアンが「4-0で勝つ」と唱えた、その根拠は同じところにあった。

    「クロップが来た時のLiverpoolは、リーグ10位、ELでは初戦2試合に引き分け、リーグカップでは4部のカーライルにPK戦で辛うじて勝つようなチームで、ファンは冷え切っていた。それから4年足らずでCL優勝まで引き上げてくれた。クロップの最大の業績は、クラブを団結させたこと」と、ファンは紅潮した。

    「クロップのお蔭で、今は、チームはもちろん、オーナーからファンまで全員が同じ方向に向いて進んでいると確信できるようになった」。

    CL優勝チームの主将

    2017年4月、スタジアム・オブ・ライトでサンダーランド対マンチェスターユナイテッドの試合(試合結果は3-0でマンチェスターユナイテッドの勝利)から帰途に着く途中、メイン・スタンド前で、出てくる選手たちを見ようとサンダーランド・ファンが群れを成していた。5-10歳くらいの多数の少年たちが、お父さんの背中に肩車をして、正門を食い入るように見つめていた。家族連れが目立つファン層で、地元の少年たちは、こうしてお父さんに連れられて、地元のチームの熱心なファンになって行くのだろうと、20年前のジョーダン・ヘンダーソンを見たような気がしたものだった。

    そして2019年6月1日、マドリードで、トットナムを2-0と破ってCL優勝を達成したヘンダーソンは、スタンドの前に立っていたお父さんの胸に顔をうずめ、子供のように泣きじゃくった。

    「息子が12歳の時、CL決勝戦を見にマンチェスターまで連れて行った。イタリアのチーム同士の決勝だった(※2003年、オールド・トラッフォードで、ACミランが延長の末0-0、PK戦3-2でユベントスを破って優勝)。試合前にCL曲が流れた時に、『お父さん、僕はCL決勝に出るからね』と、息子は目を輝かせて言った」と、2013年にがんと診断されながら、病気に勝って、とうとう息子が16年前の「約束」を果たした雄姿を見ることが出来たお父さんは、BTスポーツのマイクの前で目を拭った。「今の私は世界一幸せな人間」。

    この一連の様子を見ていたLiverpoolファンは、「ヘンドはCL優勝チームの主将として、正式にLiverpoolのレジェンドになった」と、目を潤ませながら叫んだ。

    「ヘンドがお父さんの胸の中で涙を流した姿は、ヘンドがこれまでどれほど重たい責任を担いできたか、この優勝がヘンドにとってどれほど重要な意味を持っていたかを物語っていた。長いこと不当な批判を受けながら、歯を食いしばって全力を注いできたヘンドは、文字通り『模範的なプロ』だし、Liverpoolはヘンドがいてくれて本当に良かったと感謝すべき」。

    ヘンダーソンが長年に渡って耐えてきた「不当な批判」とは、例に事欠かなかった。例えば、LiverpoolがプレミアリーグとCLで勝ち続けていた時に、「ヘンダーソンが優勝杯を掲揚する姿を想像すると、プレミアリーグとCLはここまで落ちぶれたかと憂いを感じる」と吐くライバル・ファンは後を絶たなかった。「フィル(コウチーニョ)は、Liverpoolに来た時にはスティーブン・ジェラードとルイス・スアレスがいた。でも今は、ヘンダーソンがチームメートだと思うと、逃げ出したくなる気持ちは理解できる」などと、「Liverpoolファン」と名乗る人物が言うことすらあった。

    それらは氷山の一角だった。

    そのような言いがかりを受けながら、黙々とチームのために働きいてきたヘンダーソンを、ユルゲン・クロップは真っ先に称えた。「不当な批判をしてきた人々に言いたい。ヘンドはCL優勝チームの主将だ」。

    「この選手たちは、燃料が尽きても戦い続けた選手たちだ」。

    そして、CL優勝チームの主将としてインタビューを受けたヘンダーソンは、クロップの影響を語った。「監督がいなかったら絶対に達成できなかった。監督が来て、控室にスペシャルな団結心を植え付けた。優勝は監督のおかげ。僕は、このクラブの一員としてスペシャルな栄誉を実現できたことを光栄に思っている」。

    「僕自身は、辛い時期もあったが常に全力を尽くしてきた。でも、僕個人はどうでも良いこと。僕が主将として優勝杯を掲げたことは重要ではない。重要なのはこのクラブ」。

    この試合の実況放送にアナリストとして出演していたバーンリー監督のショーン・ダイシュは、「ヘンダーソンが縁の下の力持ちとして働いたからこそ、Liverpoolは優勝を達成できた」と断言した。

    「CL決勝戦の試合内容はさておき、素晴らしいシーズンをCL優勝で締めくくったLiverpoolは、その栄誉を取るにふさわしいチームだった。そして、そのLiverpoolの中で最も重要な役割を果たしたのはヘンダーソンだった。クオリティの高いチームメートに囲まれていることをしっかり理解しているヘンダーソンは、そのクオリティを結び付ける接着剤のような働きをした」。

    かくして、Liverpoolのクラブ史上に刻まれている、エムリン・ヒューズ(1977年、1978年)、フィル・トンプソン(1981年)、グレアム・スーネス(1984年)、スティーブン・ジェラード(2005年)に続く5人目のCL優勝主将となったヘンダーソンに対して、Liverpoolファンは、「永遠に語り継がれるべき歴代名主将リスト入りした」と、誰もが真顔で頷いた。

    「このクラブのために、ヘンドが常に意欲と熱意を注いできたことは誰も否定できない。ジェラードの陰から抜け出したヘンドは、CL優勝チームの主将としてふさわしい人物であることは間違いない」。

    少年たちに夢を与える若手フルバック

    5月12日にリーグ最終戦を終えた時、トレント・アレクサンダー・アーノルドがシーズン通算12アシストを決めて、プレミアリーグのディフェンダーによる最多アシスト記録を塗り替えた。直前に、アンディ・ロバートソンが11アシストで、それまで同記録の保持者だったエバトンのレイトン・ベインズとアンディ・ヒンチクリフと並んだことがイングランド中の脚光を浴びたばかりのことだった。

    トレントとロバートソンが今季、二人でアシスト数を競うコンテストをしていたことは有名な話で、折に触れて本人たちやジェームズ・ミルナーらが話題にしていた。「どっちが勝ってもチームの勝利」と、笑顔で見守っていたLiverpoolファンは、その競争がどんどんレベルが上がって行く過程で、称賛の表現がネタを尽きて、シンプルな「フルバック2人」というニックネームに落ち着くことになった。

    「わがチームのウィンガーは2シーズン通算でわずか7アシスト。Liverpoolのフルバックはどっちを取ってもその2倍以上の得点を作り出しているというのに」と、ライバル・ファンが嘆くのに対して、「Liverpoolのフルバックは別格。比較すると自分たちが惨めになるからやめた方が良い」と、別のライバル・ファンが開き直った。

    イングランド中のファンから羨望のまなざしが向けられているLiverpoolのフルバック2人は、フットボーラーを目指す少年たちに夢を与える存在になっていた。

    地元出身で、自らLiverpoolファンとして、そのLiverpoolのアカデミーチームで育ったトレントは、毎年この時期に開催されるアカデミーチームの入団式に立ち会う役割を担っていた。今年も26人のアンダー9チームの新入生の前に立ったトレントは、「数年後のトレント」を夢見る少年たちの熱いまなざしを受けた。

    いっぽうスコットランドでは、代表チームの主将として現役選手から信頼され、新旧代表監督や大先輩から支持されているロバートソンは、トレントとは別の観点でスコットランドの少年たちに夢を与えていた。

    「地元のビッグ・クラブのアカデミーチームに入ったものの、ダメ出しされて夢がはじける少年たちがいかに多いことか。アンディは、そのような数えきれないほどの少年たちに夢を与える存在になった」と、クイーンズパークからダンディー・ユナイテッドでの1年間を、ロバートソンと共に働いた経歴を持つエイダン・コノリーは語った。

    昨年のCL決勝戦に、昔のダンディー・ユナイテッド時代の仲間たちが集まって、地元のパブで旧友ロバートソンのひのき舞台を観戦したという。「世界のトップの試合に出ているのが、我々と一緒にフットボールをやっていた、あのアンディなのだと思うと、非現実的な気がした」と、コノリーはその時の感想を明かした。

    現在はスコットランド2部リーグのダンファームライン・アスレチックでプレイしているコノリーは、スコットランドの全国紙スタンダードの特集記事の中で、ロバートソンが「アマチュアのクラブ」から「世界のトップ」に向かうスタートとなった時のエピソードを明かした。

    「2013年に、たまたま僕はアンディと一緒にクイーンズパークからダンディー・ユナイテッド入りすることになったので、いつも車に乗せてもらっていた。小型のクリオで。そもそも、クイーンズパークの選手が、将来はLiverpoolでレギュラーになるという大それた目標を掲げていたはずはない」と、コノリーは微笑んだ。

    「もちろん、アンディは能力はあったと思う。でも、ダンディー・ユナイテッドに行ってから1年間で急成長した。それは、身長が足りないからダメだと言われたら、絶対にその言葉を撤回させるのだと必死で頑張ったから。それが評価されてスコットランド・リーグの最優秀若手選手賞に輝き、代表入りし、とうとうイングランドのプレミアリーグに引き抜かれた。努力を重ねて、挫折を成長の糧にしたことで、今の地位を勝ち取った」。

    かくして、2年連続で世界のトップの試合に立つロバートソンを見て、1年前の「非現実的な驚き」ではなく、今ではひたすら誇りを感じる、とコノリーは目を輝かせた。

    「スコットランドの少年たちが、アンディの努力とその成果について話題にし、お手本にすべき立派な選手だと尊敬の目で見る様子は、とても嬉しい。一緒に車に乗せてもらっていた頃から、家族や友人を大切にするいい奴だったが、スター選手になった今もその人柄は決して変わっていない」。

    地元ではなく、スコットランド人ではあるものの、Liverpoolファンがロバートソンを自分たちのヒーローとして熱烈に支持している様子を掲げ、「元チームメートがここまで断言する程の人物だから、それは当然と言えるだろう」と、スタンダード紙は締めくくった。

    3冠を掲げて去る真のリーダー

    マンチェスターシティがFAカップ決勝でワトフォードを6-0と破って、国内3冠に輝いた翌日の5月19日、主将のバンサン・カンパニが今季末でシティを去り、古巣である母国ベルギーのアンデルレヒトのプレイヤーマネジャーに就任するというニュースが正式に発表された。まだ33歳ながら、負傷に見舞われることが多かったことから、ベルギー代表チームでは主将職をエデン・アザールに明け渡し、シティでは11年間の在籍でプレミアリーグ通算わずか265出場でピリオドを打つことになった。

    シティのチェアマンが「このクラブの魂であり、心臓のような存在」とカンパニの多大な業績を称賛した言葉に続き、チームメートから一斉に感謝と新天地での成功を祈るメッセージが出た。中でも、地元出身の若手であるフィル・フォーデンの言葉は、イングランド・フットボール界の感想を代弁していた。「最初の日からずっとお世話になった。チーム全員に対して、真のリーダーとしての姿を教えてくれた人。心を込めてシャツを着て、クラブのために全てを尽くした人」。

    2008年夏に、オーナー交代の直前に£6mの移籍金でハンブルクからシティ入りしたカンパニは、現オーナーの「際限のない戦力投資」が始まる前の、「マンチェスターのもう一つのクラブ」でしかなかったシティを、44年ぶりのリーグ優勝に導き、在籍11年間でリーグ優勝4、リーグカップ4、FAカップ2という輝かしい業績を作った、まさにクラブの魂であり、心臓という存在となった。

    その44年ぶりのリーグ優勝は、引き分ければユナイテッドが連覇に王手をかけたはずの4月30日のダービーが突破口になった、と多くの人は指摘する。その試合で決勝ゴールを決めたのがカンパニだった(試合結果は1-0でシティの勝利)。そして、カンパニの4回目で最後のリーグ優勝となった今季の、2位Liverpoolの望みを遮断したレスター戦の70分の弾丸シュートは、人々の記憶に深く焼き付いた(試合結果は1-0でシティの勝利)。

    「ビニーのことを語る時、誰もが2012年のダービーでのゴールと今季のレスター戦のゴールを上げるが、ビニーの真の偉大さは、マンチェスター市のことを心から大切に思い、地元のために多大な仕事をしてくれていること」と、あるシティ・ファンは目を潤ませた。

    ピッチの上だけでなく、奥さんがマンチェスター出身のシティ・ファンという縁もあって、チャリティなどを通じて地元社会に積極的に貢献するカンパニは、即座にシティ・ファンの心を掴み、「ビニー」というニックネームで慕われるようになった。

    それは、昨年の在籍10年功労試合の収益金を、マンチェスター市のホームレス基金に全額寄付するなど、社会問題に広く取り組んでいる人間としての姿を称えたものだった。お父さんはコンゴからベルギーに政治亡命した人で、ベルギー人(白人)のお母さんとの間に生まれたカンパニは、子供の頃から人種差別の犠牲に合うことが日常茶飯事という生活を送る中で、必然的に社会問題に目を向けるようになったという。

    「アンデルレヒトのユースチームでフットボールを始めた頃には、£300の週給でテスコで働きながら生計を立てられれば良い、と思っていた。プロになって、プレミアリーグでこれほど多くのトロフィーを取ることは夢にも見なかった」と笑うカンパニは、冷静な表情で語った。「困難に直面して、それを乗り越えた後は、何も怖いものはないと確信できるようになる」。

    そして、今季の激烈なタイトル争いが大詰めを迎えた時に、「2012年は我々にとって最初のタイトル争いだったので、プレッシャーを感じた。その突破口を克服した今回は、どんなに苦しくても戦い抜くことが出来る自信がある」と、カンパニは宣言した。

    「Liverpoolの激しい追い上げに、シティは14連勝が必須だと覚悟を固めた時、ペップ・グアルディオーラはカンパニの経験に託した」と、BBCは3冠を掲げて去るカンパニにエールを送った。

    「いつもダービーでゴールを決めたライバル選手が、とうとういなくなる。ライバルチームの選手でも人間として尊敬せざるを得ない、人格者で真のリーダー。シティに初めて本物のレジェンドが出来ることになる」と、ユナイテッド・ファンはつぶやいた。

    ジェイミー・キャラガーの、「プレミアリーグ史上に残るベスト・センターバックの一人であり、マンチェスターシティのクラブ史上に残る偉大な選手」というメッセージに、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「優勝を決める重要なゴールをねん出してきた選手がシティからいなくなる」と、Liverpoolファンは、カンパニに拍手を送りながら、最初のプレッシャーを経験し、突破口を目指して2度目に臨む選手たちへの期待を再燃した。

    ユルゲン・クロップの(嬉しい)誤算

    5月12日、マンチェスターシティが14連勝の98ポイントで連覇を決めたプレミアリーグ最終日に、Liverpoolの地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップの大きな誤算」という見出しで、2015年10月の監督就任初記者会見での言葉を振り返った。「3-4年後に私がこの場にいるとしたら、それはタイトルを取っているということ。そうでなければ私はスイスにいるだろう」。つまり、クロップは、3-4年以内に優勝できなければクビになって、プレミアリーグよりはプレッシャーの少ない外国リーグで職探しをすることになるだろう、と予測していたのだった。

    「その公約の期限が訪れた今、クロップは自分の誤算を認めた」と、同紙は明るい文面で続けた。「Liverpool以外の人々が皆、口をそろえて『即成功が必須』と脅かすし、私もこんなに時間を与えてもらえるとは思わなかった」とクロップは苦笑したという。「それは、Liverpoolのトップ陣がクロップを全面的に信頼し、就任4年足らずの間で達成した業績を高く評価し、長期計画の実現をバックアップするという態度の証明」と、同紙は説明した。

    エコー紙が突っ込みを入れたクロップの言葉は、Liverpoolファンの間でも折に付け話題になっていた。「昨季はシティより25ポイント差の4位だったチームが、最後までタイトル争いを続けた末に97ポイントを達成した。しかも、CL決勝という大きなチャレンジが残っている状態でプレミアリーグのシーズンを終えることが出来るとは、誰も夢にも見なかったような偉業。クビどころか契約更新すべき」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    「Liverpoolのお蔭で我々はここまで勝ち続けることが出来た」と、ペップ・グアルディオーラはライバルチームの健闘を讃えた。

    中立のアナリストは、優勝チームへの祝福と同時に、Liverpoolへのねぎらいを唱えた。その多くは、「97ポイント取りながら優勝できないとは」という同情が込められていた。

    そんな中で、1990年代からクロップを密接に取材してきた、友人でもあるドイツ人ジャーナリストが、「ユルゲン・クロップがLiverpoolを再建の道へと導いた」と、前向きな見解を語った。

    「バルセロナ戦の大逆転勝利(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが決勝進出決定)の後のクロップは、私がこれまで見たことがない程に大きな満足を浮かべていた。その中には、2012年にドルトムントがバイエルンを抑えてリーグとカップの二冠に輝いたシーズンも含んでいる。もちろん、あの大勝利がトロフィーを勝ち取ったわけではなかった。ただ、クロップの目標が実現したからこそできたものだった」。

    2015年10月に、Liverpoolのオーナーが監督候補者に「Liverpoolを再建させるためには何が必要か?」と質問を投げかけた。カルロ・アンチェロッティは3人のワールドクラスの選手のリストを提示したのに対して、クロップは「ファンを呼び起こすこと」と答えたという。

    バルセロナ戦では、アンフィールドのスタンドとピッチの上の選手たちが文字通り一体となって、ミラクルを起こした。「アンフィールドのヨーロピアン・ナイトは有名だが、今回はこれまでにも増して強力な声援だった」と、中立のアナリストが口をそろえた。

    「クロップは、Liverpoolで本当にスペシャルなものを築き上げた。選手たちとスタンドとの強力な一体感を作った張本人はクロップだった。それは、最後のリーグ優勝以来30年足らずの年月の中で、最も顕著な信頼関係と言えるもの」と、エコー紙は断言した。

    「その間、数回のタイトル争いの後で、たがが外れたかのように不調に落ち込み、スター選手が沈む船から逃げ出すかのように出て行った末に、元の木阿弥となった、その暗雲のサイクルを見てきたファンは、クロップが作り上げた強力な団結は、これから更に実を結ぶことを確信している」。

    成功のバロメータ

    5月1日のカンプノウで、Liverpoolが3-0と大敗を食らったCL準決勝1戦目の後で、歓喜に沸いたエバトン・ファンの間でバルセロナ人気が急上昇した。喜びのあまり、自分たちの次のプレミアリーグ戦となった5月3日のバーンリー戦(試合結果は2-0でエバトンの勝利)では、グッディソン・パーク周辺で、リオネル・メッシのスカーフを売るワゴン車まで登場した。

    Liverpoolファンは、「エバトン・ファンにとって『成功』は自分たちのチームが勝つことよりもLiverpoolの敗戦、とは今に始まったことではない」と苦笑し、隣人の揶揄を背に真顔で語り合った。「メッシのワールドクラスのフリーキックは鮮やかだった。ただ、試合そのものは3-0の内容ではなかった。我がチームは良くやったし、あれだけ優位に立ちながら3-0の負債を背負って帰還することになった選手たちが気の毒だ」。

    ただ、イングランドの世論は圧倒的に、Liverpoolファンの見解とは完全に平行線を辿っていた。少なくないアナリストが「ユルゲン・クロップの戦略ミス」を唱え、Liverpoolが今季はCLで「惨めな敗退で終わることになった」と主張した。

    そんな中で、ロビー・サベージの「仮にトロフィーなしに終わったとしても、Liverpoolのシーズンは大成功だと言える」という意見に、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「プレミアリーグで97ポイント(※最大)を取り、カンプノウでバルセロナにフォーメーション変更を強いる程の優位を占めたLiverpoolが、トロフィーなしで終わるのは非情。ただ、空手でシーズンを終えたとしても、それを失敗と言うのはフットボールを知らない人だけ」と、サベージは断言した。

    これは、バルセロナ戦の後のBBCのアンケートで、67%が「トロフィーなしで終わればLiverpoolのシーズンは失敗だったと思う」と答えたことを指していた。「サー・アレックス・ファーガソンは13回プレミアリーグ優勝を達成したが、91ポイントを超えたことは一度もなかった。私は今季CLで、トットナム、マンチェスターユナイテッドと、イングランドの3チームがカンプノウでバルセロナと対戦した試合を見たが、その中で、パフォーマンスでは今回のLiverpoolが圧倒的にベストだった」。

    「クロップの戦略を批判する人々は、'アナリスト'という人も含め、4-4-2だと訳の分からないことを言っているが、あれは明らかに4-3-3。彼らは試合を本当に見たのか?と言いたい。もちろん、アンフィールドでLiverpoolが絶対に逆転勝ち抜きを達成する、と言い切るつもりはない。バルセロナが先制すれば、厳しさは急増するだろう」。

    「ただ、Liverpoolはこれまでシーズンを通して積み上げてきたものを最後まで発揮することは確か。無知な人々が何のたわごとを言おうとも、Liverpoolは今季の業績を大成功だと大いに誇るべきだ」。

    サベージの強い言葉は、Liverpoolファンの圧倒的多数を代弁していた。もちろん、フットボールではトロフィーを勝ち取ることが最大の目標であることは議論の余地はなかった。ただ、97ポイント(※最大)を取ってもリーグ優勝できなかったとしたら、それは「失敗」か?という自問自答のような議論が、ファンの間で交わされていた。

    「シーズン開幕前に、プレミアリーグで90ポイントを超えることを真面目に期待した人はいないと思う。それだけでも成功であることは確か。トロフィーなしで終われば悲しいが、それは失敗ではなく『成功だが悲しい結末』と言う方が近い」と、誰かが言った。いっぽうで、別のファンが「成功だ」と断言した。

    「成功のバロメータは、トロフィーだけではない。成功のバロメータは、まずは前進。昨季と比べて、勝つべき相手には確実に勝てるようになり、苦境に陥っても最後まで勝ちを目指して戦うことが恒常化した結果、試合終幕に決勝ゴールが出せるようになった。昨季はCLで勝ち進むにつれてリーグでは集中力の欠如がやや見えたが、今季は両方でここまで勝ち進んだのだから、明らかな前進」。

    「成功のバロメータは、第二にエンターテインメント。チームが自信と決意をむき出しで勝ち続ける試合を見て、ファンは心底楽しめている。チームへの誇りでファンは笑顔が絶えない日々が続いている。Liverpoolファン生活の中で、こんなに良い思いが出来たシーズンはないくらいに」。

    「そして、成功のバロメータは、自分たちの目標に対する達成度。プレミアリーグ優勝できるのは1チームだけ。でも、残りの19チームは全て失敗か?というと、それは違う。残留が目標だったチームは17位で終われば大成功だ。その意味で、開幕前の目標を上回った今季は成功だった」。


    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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