FC2ブログ

    帰ってきた戦力

    12月16日、Liverpoolはアンフィールドでマンチェスターユナイテッドに3-1と勝って、今季プレミアリーグの無敗を維持した。5日前にナポリに1-0と勝ってCLラスト16進出を達成したことで、選手は自信を強めたところでの宿敵ユナイテッド戦は、事前予測を裏付けるかのような一方的な内容となった。

    「恥ずかしい程にレベルの差を見せつけられた」と、ユナイテッド陣営のアナリストは一斉に酷評し、「ジョゼ・モウリーニョが来季もユナイテッドの監督を続けるとは到底思えない」と、全国メディアも同調した。ユナイテッドの地元紙は、試合終幕にコップ・スタンドから盛大に沸き起こった「モウリーニョをクビにしないで!」チャントについて、自嘲的な文面で取り上げた。

    「ユナイテッドがモウリーニョをクビにするわけがない」と、ユナイテッド・ファンが冷ややかな口調で引き取った。グローバル・クラブであるユナイテッドの成績不振に際して、いわゆる「キーボード・ウォリアー」と呼ばれているファンが「モウリーニョのクビ」を求める声をインターネット上で張り上げる中で、地元のファンは、モウリーニョに対する拍手を毎試合続けていた。

    「スタンドでは監督と選手を全面的に支持するのがファンの務めだから、我々は無条件に拍手を送る。ただ、それは意見の反映ではない。意欲が感じられないプレイに、根本的な対処が必要だと誰もが感じている。ただ、クラブはお金本位でチームの成績は二の次。CL出場が数字上不可能になった時に、その方が解約金が安くなるからという理由で、手遅れになるまで待って監督をクビにする。クラブのトップが変わらない限りはサーカス状態が続くだけ」と、毎試合応援に駆け付ける忠誠なファンは嘆いた。

    「今のLiverpoolは何もかも正反対。最初はくびをかしげたような選手でも、ユルゲン・クロップの下で数か月鍛えられた結果、一流のスターになった例は数えきれず、チーム全体がやる気と自信に満ちている。何より、選手が全面的に監督を信頼し、監督のフィロソフィーを実現しようと必死になっているところが、我々ユナイテッド・ファンにとっては羨ましくて仕方ない」。

    いみじくも、プリシーズンの合衆国ツアーで、Liverpoolがユナイテッドに4-1と快勝した試合の後で、地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップとジョゼ・モウリーニョの大きな違い」について書いた記事が、ユナイテッド・ファンの嘆きを裏付けていた。

    それは、ナサニエル・クラインとアントニー・マーシャルが同時期に息子さんが誕生し、両選手が出産のためツアーを出て帰国したことに対する両監督の対極的な反応だった。

    「モウリーニョが、『マーシャルは、無事、健康な息子さんが生まれたことが分かったので、本来はツアーに戻ってきて試合に出ているべきなのに、休んでいる』と、不満を隠さなかったのに対して、クロップはニコニコ笑って言った。『リトル・クライニーの写真を見せてもらったが、元気な息子さんで私も嬉しい。暫くクライニーは忙しいだろう。人生にはフットボールよりも重要なことはあるが、出産は間違いなくその一つ』。その後、マーシャルが出て行くことを考えているという噂が飛んだことは、Liverpoolの選手からは明るいやる気の言葉しか聞こえない実態と同じく、誰もが予測できたこと」。

    そしてクラインは、昨季は腰の負傷のためほぼシーズンを棒に振った後で、ライトバックのポジションをこなす若手が急成長したこともあり、今季はリーグカップ戦(対チェルシー、試合結果は1-2でLiverpoolの敗退)のみの出場に留まっていた。負傷者続出のため、急遽ユナイテッド戦でプレミアリーグ初試合となったクラインは、まるでコンスタントに出場していたかのような安定したプレイで90分をこなしたのだった。

    「クライニーは今季初のプレミアリーグ戦だったし、90分持たないだろうと思っていた。でも、私の予測は間違いだったというくらいに、素晴らしいプレイをした」と、クロップは目を細めた。「選手層が厚いということは、全員が順番制で試合に出られる仕組みではなく、選手全員が、チャンスが来れば実力を発揮すべく日々備えること。その意味では、クライニーはまさにお手本」。

    クロップの称賛に、ファンは深く頷いた。「クラインは1月にカーディフに行くのでは?という噂が飛び交っていたところで、クリスタルパレス時代にデビューさせてもらった監督のニール・ウォーノックに引っ張られて行くことは本人にとっても良いことかと思っていた。でも、そんな噂を吹き飛ばすかのように、Liverpoolの負傷の危機を救うために立ち上がってくれた」。

    「負傷前にはレギュラーとして活躍していた選手が、回復後にチャンスを待つ立場に置かされるのは、内心穏やかではないだろう。それが、必要が出た時にはいつでも高いレベルを発揮してくれるのは、文字通り選手全員が監督の方針に賛同して一丸となっているから」。

    「ミスター・リライアブル」のプレミアリーグ500試合

    12月8日のランチタイム・キックオフ戦で、Liverpoolはボーンマスに4-0と快勝し、その前のバーンリー戦(試合結果は3-1でLiverpoolの勝利)に続きアウェイの連勝を記録した。開幕16試合無敗でクラブ記録を塗り替え、プレミアリーグの首位に立った。

    その試合で、ハットトリックを含み会心のプレイでスカイTVのマン・オブ・ザ・マッチに輝いたモー・サラーが、授賞式で、プレゼンター役のジェームズ・ミルナーに向かって、「僕はこの賞は受け取れない」と拒否したことで、TVを見ていたファンは一斉に目を点にした。

    「この試合は彼(ミルナー)の500試合という記念すべきものだから、彼が受賞すべき」と、サラーはスカイTVのアナウンサーに真顔で主張した。「彼のキャリアは輝かしいもの。僕は、自分のキャリアの中で、これから頑張っていいプレイをしたい。でも、今日はもらうわけにはいかない」。

    首を横に振り続けたサラーと、困惑しながらも嬉しそうに微笑んでいたミルナーの姿に、ファンの拍手は絶えなかった。「いい場面を見せてもらった。サラーの行動は寛大だし、何よりミルナーがベテランの副主将として、チームメートに心から尊敬されている実態が伺えた。ミルナーは、若手から慕われて敬意を抱かれるにふさわしい業績の持ち主」。

    「今日の試合では、正直、サラーが秀でていたのは確かだが、他の全員が10点満点の7点を超えるくらいの良いプレイを見せた。特にミルナーは、負傷のため急遽入ることになったライトバックで、あたかもこのポジションで何年もやってるベテランのような安定した試合をした」と、ファンは頷き合った。

    ミルナーのプレミアリーグ500出場は、ボーンマス戦の前に全国メディアも一斉に報道した。史上僅か13人目という500試合のマイルストーンに到達することになったミルナーは、現役選手の中では最多だった。

    「バーンリー戦で通算ゴール数を50としたミルナーは、いまだにプレミアリーグでは『ミルナーが得点した試合では負けがない』記録を維持している。しかもバーンリー戦の同点ゴールは、ミルナーがLiverpoolのタイトル争いのカギを握る存在であることを、再確認させられた」と、デイリー・ミラー紙はミルナーの偉大な記録を称賛した。

    地元紙リバプール・エコーが、ミルナーのユーモア精神を込めて、「その重要なゴールの報酬は、レフトバックだった」と続けた。ミルナーの同点ゴールをきっかけに攻撃増強を仕掛けたユルゲン・クロップは、レフトバックのアルベルト・モレノに代えてストライカーを投入した。そのため、ミルナーがレフトバックに回ったものだった。

    「ミルナーが、500試合のキャリアの中で、自分が最も得意とするミッドフィールドでプレイしたのは約半分と、様々なポジションで使われてきたが、ミッドフィールドに固執するためにLiverpool入りを選んだことは有名な話だった。2016-17季はレフトバックでシーズンを終えたことに対して、ミルナーがクロップに『率直な意見』を表明したことも誰もが知るところ。そして、バーンリー戦の次は、負傷のためライトバックでスタートという、二重の『報酬』が待っていた」。

    「これまでアウトフィールドではセンターバック以外全てのポジションを経験しているミルナーにとっても、ライトバックは僅か2度目だった」と、ミルナーの「ミスター・リライアブル」ぶり(※どのポジションをもこなす選手、という意味)を強調した上で、エコー紙はクロップの言葉を引用した。

    「500試合目にGKで出すと言っても、きっとミリーならできたと思う」と、ジョークを言った後で、クロップは真面目な口調で締めくくった。「ともあれ、ミリーのプレミアリーグ500試合という記念すべき場面を、共にできるのは光栄」。

    2002年に16歳でデビューして16年間、複数のビッグクラブで主力としてプレイし、プレミアリーグ優勝2回を含む多くのメダルを勝ち取ってきたミルナーは、シーズンチケット・ホルダーでありユース・チームで育ったクラブでもある、地元で熱烈なファンとして心に抱き続けているリーズユナイテッドについて、今年10月の創立99周年に際して本音を語った。

    「デビューできた時は夢の実現だと思った。唯一、残念だったのはもっと長くリーズでプレイしたかったこと」。2004年に、実質的に倒産に直面していたリーズは、クラブの財政を立て直すためにスター選手を売りに出し、その移籍金を赤字補填に回さざるを得なくなった。ミルナーもその一人としてニューカッスルに移籍させられたのだった。「クラブのために仕方なかった」。

    「リーズは今でも毎週、試合結果をフォローしている。99歳おめでとう。100歳の誕生日はプレミアリーグで迎えられることを祈っている」。

    エコー紙は締めくくった。「ミルナーのLiverpoolでの契約は2020年6月まで。その後はリーズに戻って『やり残した仕事』を完了させるのか、それともLiverpoolで契約更新するのか、現時点ではわからない。ただ、来月33歳となるミルナーが、500試合という数字を暫くは増加し続けること、Liverpoolにいる間はクロップにとっての『ミスター・リライアブル』であり続けることは間違いない」。

    マージーサイド・ダービーの意外なヒーロー

    12月2日、イングランド・フットボール史上最多の通算232回目、アンフィールドでのリーグ戦では100回目のマージーサイド・ダービーは、劇的な96分の決勝ゴールで1-0とLiverpoolが勝ち、1999年以来アンフィールドで勝ちがないエバトンの失意の記録を持続することになった。

    どこでもダービーと言えば、地元のファンにとって勝てば天国、負ければ隣人のからかいに耐える地獄の日々が待っている致命的に重要な試合であり、そのプレッシャーを背負って戦う両チームは、その時の順位や戦績に関わらず、常に行方がわからない対戦だ。そしてマージーサイドでは、気合が入り過ぎて相手を蹴りまくり、カード多発の「ダーティー・ダービー」の不名誉なニックネームを授かっていた。

    しかし今回は、Liverpoolは今季プレミアリーグ13試合に無敗で2位、エバトンはここ7試合5勝で6位と、面白いフットボールを展開する好調同士の対戦とあり、全国メディアでも好意的な記事が圧倒的だった。

    その背景には、ピッチ外の両陣営の団結を象徴するいくつかの実話があった。

    2016年にエバトン・ファン・グループが発端となり、今ではイングランド中のフットボール・スタジアムの風物詩となったフードバンク(※困っている人に食材を提供するためのチャリティ)は、アンフィールドでも毎試合で展開されていたが、今回のダービーでは、特に多数のファンの協力を呼びかけるべく事前準備が行われていた。その一環として、アンディ・ロバートソンがフードバンクの事務所を訪れ、エバトン・ファンのスタッフと一緒に食料の配送作業を分担するという心温まる出来事もあった。

    更に、昨季4月のCL準決勝戦で、試合前にローマの暴徒に凶器で襲われ、頭に致命傷を負ったLiverpoolファン、ショーン・コックスの莫大なリハビリ費用を援助するための基金に、エバトンのシーマス・コールマンが5,000ユーロを寄付した実話があった。それに対して、ダービーのマッチ・プログラムでユルゲン・クロップが、コールマンに対する感謝を表明した。「シーマスは、ピッチの上ではエバトン精神の象徴だが、ピッチ外でのコックス家に対する思いやりに満ちた行動は、まさにマージーサイドのライバル意識の真相」。

    試合後の記者会見では、クロップとエバトン監督のマルコ・シルバが揃って緑のバッジを付けていた。それは、昨年5月にマンチェスター・アリーナでの爆弾テロで殺害された被害者の遺族が創立した「メガン・ハーリー基金」のバッジだった。

    それらピッチ外での両陣営の団結は、ピッチ上での意外な結末の後でも、お互いに対する尊重という形で残った。

    試合後に、アウェイ・サポーターに謝りに行ったジョーダン・ピックフォードと選手一行に対して、エバトン・ファンは温かい拍手を送った。「試合終了の直前に相手にとっては超ラッキーなゴールを与えて負けを食らった。でも、昨季までの『ボールを蹴る前から負けていた』状況とは違う。試合結果には目の前が真っ暗になるが、チームに対しては誇りと希望しか浮かばない」。

    いっぽうLiverpoolファンは、「ラッキーなゴール」という見解はエバトン・ファンと一致していたが、得点したオリジに対する誇りを語り合った。「殆どのストライカーならば、ボールがクロスバーをヒットした時には諦めて次のプレイに入っていただろう。最後までゴール・チャンスを求めて粘ったオリジの、勝ちに対する執念が運を呼んだ」。

    同時に、「ラミロ・フネス・モリ事件(※2016年4月のマージーサイド・ダービーで、フネス・モリの危険なタックルを受けてオリジが担架で運ばれて交代した事件。フネス・モリはダイレクトの退場)の雪辱を、オリジはやっと果たすことが出来た」と、多くのLiverpoolファンが異口同音に言った。「あの負傷を負う前のオリジは、Liverpoolの将来を担うストライカーと期待されていた程だったのに、あの負傷のせいで、復帰してからも以前の調子に戻れないまま今に至っている」。

    ファンの思いをクロップが引き取った。「私はあの事件のことは絶対に忘れられない。ファウルとか厳しいタックルというのはフットボールに付き物だが、しかし、あれはオリジの選手としての成長を中断させるほどの大きなものだった」。

    昨季はドイツのVfLボルフスブルクにローンに出てキャリア立て直しを図ったオリジは、うまく行かずにローン期間が満了し、行き先がないままLiverpoolに戻って来たものだった。

    「今は怪我の痛みは完全になくなったディボックが、毎日のトレーニングで全力を尽くしている姿を見ているだけに、試合に出してあげられず申し訳ないと思っていた」。

    試合後のヒーローインタビューで、クロップの言葉を伝えられて、感想を問われたオリジは、さわやかな笑顔で答えた。「監督が支えてくれるから、意欲を燃やし続けている」。

    「今日の試合では、全員が最後まで勝ちを目指して頑張った。その結果、出たゴールだから最高の気分だ。ましてやダービーだから、スペシャル」。

    笑顔を放射する選手の契約更新

    インターナショナル・ウィーク明けの11月22日、サディオ・マネが契約更新にサインしたという正式発表が流れた。Liverpoolのクラブが、昨季のフロント3の大活躍を受けて、大幅昇給を伴う新たな長期契約を提示した話は誰もが知るところだった。それに対してボビー・フィルミーノとモー・サラーが今季開始前に立て続けにサインした後で、残ったマネの朗報がなかなか聞けない状況が続いていた。

    今回のインターナショナル・ウィークに入る直前に、マネが「契約の話はエージェントに任せている。僕はフットボールに専念している」と宣言した話が伝わり、ファンの杞憂を刺激した。というのも、全国メディアが「レアルマドリードがマネを狙っている」など、ファンの神経を逆なでする憶測記事を書き続けていたところで、更に、その11月22日の朝方に、ESPNが「マネのエージェントが『トロフィーを取れるクラブ』を探している」という不穏な記事を出したばかりのことだった。

    そんな時に、晴天のへきれきのように出てきた発表に、ファンは一斉に歓喜の声を上げた。「このタイミングがたまらない。Liverpoolもなかなかやってくれるじゃないか、という感じだ」。

    同時に、クラブが契約更新のニュースに際して流したマネのインタビューが、ファンの支持を一層高めた。「Liverpoolファンに対して一言」という質問に、にっこり笑って、「ハーイ、Liverpoolファンの皆さん!」と手を振ったマネの自然なしぐさが、ファンの心を直撃したのだった。

    2016年夏に、移籍金£30mでLiverpoolの(当時)歴代3番目に高い選手となったマネは、89試合で40ゴール18アシストと、堂々たる数字を上げていた。「フロント3の全員が、欠かすことのできない重要さを持っている。中でもサディオは、プレイだけでなく人好きのする性格も手伝って、ファンの圧倒的な人気を誇っている。これまでの言動から、Liverpoolに不満を抱いている要素は微塵も感じられなかったので、何故サインが遅れているのか理解できなかった」と、誰もが笑顔で頷き合った。

    つい先日の11月18日に、セネガル代表チームが赤道ギニアに1-0と勝った試合の後で、マネがピッチを去る時に涙を流したという事件が伝えられた。その試合をTVで見ていたLiverpoolファンが、「信じられないことに、セネガル代表チームの『ファン』が、90分を通じてマネにブーイングを飛ばし続けた」と、怒りに震えながら証言した。「セネガル人のファンから聞いた話だが、このような行動はしばらく前からとのこと。ブーイングをする側の言い分は、『マネはLiverpoolに移籍してからというもの、代表チームでのパフォーマンスは低下した。サウサンプトン時代はこんなにミスはなかったのに』というものらしい」。

    これに対してLiverpoolファンは、「サディオがLiverpoolに戻ってきたら、これまで以上に大きな拍手とチャントで迎えて上げよう」と、強く宣言した。代表チームの「ファン」からブーイングされた選手に対して、Liverpoolファンが雪辱とばかりに応援を強めてきた事例は、80年代のジョン・バーンズ(イングランド代表)の頃から続いていた。

    「試合中に、不調を理由に自分のチームの選手に対してブーイングするような行動は、ファンとして許せないもの。Liverpoolの選手がその立場に立たされた時は、『本物のファンが温かく応援してくれるクラブ』に戻りたくなるように、我々としては一層気合を入れよう」。

    そのファンの決意が聞こえたかのように、マネは語った。「Liverpoolファンは、どんな時でも熱心に応援してくれる。良い時だけでなく悪い時にも、常にサポートしてくれる。そのファンのために、絶対にトロフィーを取りたい」。

    「マネは繊細な神経の持ち主で、自分に厳し過ぎるきらいがある。だから、ミスをした時には特に、我々ファンが大声で励まして自信を取り戻してもらおう」と、マネのチャントはどんな時でもスタンドから鳴り響いていた。

    マネに対する激励を、ユルゲン・クロップが引き取った。「サディオに対する批判は、私が知る限り、本人だけが言っているもの。サディオは、自分がいかにワールドクラスの選手であるか気づいていないように思える」。

    そして、今回のマネの契約更新は、クラブの野望の証明であると同時に、ワールドクラスの選手がプロとしてのピークという年代を捧げる価値のある、トロフィーを狙えるクラブであるという表明だと宣言した後で、にっこり笑って締めくくった。

    「サディオは笑顔を放射する選手」。

    クロップの言葉に、「僕の監督に対する信頼は、これまで何度も言って来た通り」と、マネは笑顔を放射して語った。「ファンや監督、そしてみんなで力を合わせてスペシャルなものを達成したい」。

    新ファブ4の誕生?

    インターナショナル・ウィーク前の11月10日の週末は、マンチェスターシティがダービーで隣人ユナイテッドに3-1と圧勝して首位奪還し、2位のLiverpoolはフラムに2-0と勝ち、3位のチェルシーはエバトンに0-0と引き分けて、12戦終えた時点でトップ3が無敗と、プレミアリーグ記録を塗り替えた。BBCスポーツは、トップ5チームの最下位5チームとの対戦成績は合計20試合でトップ5が19勝(※例外はアーセナルがクリスタルパレスに2-2と引き分けた試合)と、上位と下位とのこの上なく大きい差を指摘した。

    「マンチェスターシティは、異例だった昨季のこの時点より2ポイント少ないが、例えばLiverpoolは30ポイント取っているのに首位ではないという事実が、今季のプレミアリーグのトップ優位ぶりを象徴している」と、同メディアは結論した。

    そして、圧倒的多数のアナリストがマンチェスターシティの連覇を予想する中、その一人であるガリー・ネビルが真面目な表情で語った。「チェルシーは新監督下で選手たちが自信を取り戻し、良いスタートを切ったが、遅かれ早かれポイントを落とし始めるだろう。シティと競えるチームは唯一、Liverpoolだけ」。

    自分の古巣であるユナイテッドが、チーム力の差を見せつけられて惨敗したダービーの余韻の中で、ガリー・ネビルは冷静な口調で締めくくった。「シティとの競争で、Liverpoolにとって最大の難点は、他のチームからの援護射撃は全く期待できないこと」。

    全国メディアやアナリストがマンチェスターシティの優位を掲げる傍らで、Liverpool陣営は自分たちの足元固めに専念する決意を貫いていた。「自分たちがコントロールできないことだから、シティの勝敗は全く意識していない。自分たちの次の試合に勝つことだけを考えている」というユルゲン・クロップの言葉に、ファンは大きく頷いた。

    「フロント3はまだフル回転とは言えない中で今の成績を維持しているのだから、先行きは明るい。夏の新加入選手たちが着実に戦力になっていることも明るい要素だし、フラム戦では怪しい判定の恩恵を受ける運も向いてきた。シーズンは長い。確実に自分たちのプレイを向上させてポイントを蓄積して、シティにプレッシャーを与え続ければ何が起こるかわからない」。

    フラム戦の「怪しい判定の恩恵」について、「ハル・シティ時代にビッグクラブに痛めつけられた経験が思い出された」と、試合後にアンディ・ロバートソンが同情を込めて語った。「先制ゴールをオフサイドとされて相手がひるんでいる最中に、素早いカウンターでゴールを決めるというのは、ビッグクラブの貫禄。フラムには気の毒だが、我々はビッグクラブがやるべきことをやった」。

    この試合でマン・オブ・ザ・マッチ候補の活躍を見せたロバートソンは、今季通算5とLiverpoolの最多アシストとなったジェルダン・シャチリの2点目について質問されて、「素晴らしいゴールだったと思う」と目を輝かせた。

    「ロバートソンは、降格したクラブから格安の移籍金で入ってきて、ピッチの上で世間の冷たい反応を覆してLiverpoolファンの熱烈な支持を受けるに至った選手。同じ道をシャチリが歩みつつある」と、地元紙リバプール・エコーがLiverpoolの明るい要素に着目した。

    「今季これまでの『Liverpoolの意外な数字』の一つが、フラム戦でも両ゴールに貢献したフルバックのアシスト記録。もう一つは、フロント3(モー・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノ)とシャチリが4人揃って試合に出たのは合計204分だが、その4人は23分ごとに1ゴールという高い得点頻度。昨季前半の『ファブ4(※4人目はフィリペ・コウチーニョ)』は32分ごとに1ゴールだった実績を考えると、『新ファブ4の誕生』と言っても過言ではない」。

    「素晴らしいクロスだった」と、シャチリは、ロバートソンの誉め言葉をそのまま返して、自らの役割について語った。「サブで出て試合を変えることも、スタートして良いプレイをすることも、チームの勝ちにつながるならばどちらも同じ」。

    そんなシャチリに対して、ファンの間で支持が急上昇しているというのは、エコー紙の記事の通りだった。「ストークでひときわ目立っていたシャチリは、有能なチームメートに囲まれれば更に磨きがかかって一層良いプレイを発揮する選手だと期待していたが、その通りだった」と、ファンは笑顔を見合わせた。

    ファンの声援が着実に高まる中で、シャチリは力強く語った。「週中のCL戦で(対レッドスター)2-0と敗戦を食らった後だったから、フラム戦は、勝って自信を取り戻してインターナショナル・ウィーク入りすることが必須だった。自分たちが勝ち続けることが重要」

    試合に勝つのはストライカー、リーグ優勝を取るのはディフェンス

    11月初旬にLFC TVがバラエティー番組として放映した、フィルジル・ファン・ダイクとジョー・ゴメスのQ&Aが、ファンの間で大きな話題になった。これは、2人にそれぞれ質問し、片方の回答をもう一人の方が当てるという、お馴染みの仕組みだった。自分の容姿で最も自信がある部位はどこか、など爆笑ものの質問の中で、誰もがほろりと来たのが、お互いの第一印象についての証言だった。

    「とても共通点があり、息がぴったり合う」と笑顔で語ったファン・ダイクに対して、「フィルジルが入ってきて、初めて会話した瞬間に波長が合った」とゴメスは頷いた。そして、二人が同時に「僕はクリーンシートが大好きだ」と声を高めたエンディングに、ファンは一斉に拍手を送った。

    「これから何年にも渡ってLiverpoolのセンターバックを固めるだろう二人は、ピッチ内外で絶妙のコンビを発揮している」と、ファンは、事前予想を大きく上回る安定したプレイを見せているゴメスの成長ぶりについて特に、感心を新たにした。

    2015年夏に、18歳で、地元ロンドンの2部のチャールトンからLiverpool入りしたゴメスは、即座に才能が認められてファーストチーム入りしたが、わずか7試合で、イングランド・アンダー21代表チームでの試合中にじん帯を痛めてしまった。その後、復帰直後に再度負傷するという憂き目に合い、ほぼまる2年を棒に振った上に、昨季末にも負傷でシーズンを終えるという失意の連続だった。

    この夏に、ファン・ダイクの長期的なパートナーとなるべくセンターバック補強の話が出た後で立ち消えた時には、ユルゲン・クロップがゴメス起用を計画しているという説が飛び交った。それに対して、ファンの反応は二分していた。「ゴメスの才能は明らかだし、元々センターバックを目指していたことは周知の通り。しかし、長期負傷の後で、しかも、これまでフルバックで出ることが多かった21歳の経験不足の若手が、いきなりワールドクラスのファン・ダイクのパートナーとは、荷が重すぎるのでは?」という、懸念の声は少なくなかった。

    ふたを開けると、ゴメスはファン・ダイクのパートナーとして定着し、シーズンの4分の1が過ぎた時点で、Liverpoolのディフェンスの中で最もスピードがある(時速21.6マイル)という統計すら出ていた。

    10月のインターナショナル・ウィークでは、イングランド代表チームでも(対スペイン、試合結果は3-2でイングランドの勝利)、マン・オブ・ザ・マッチの活躍を披露したゴメスの評価は、全国的に高いレベルに定着していた。

    そんな中で、デイリーメール紙のインタビューでゴメスが明かした「Liverpool入りした時に、初めての一人暮らしで苦労した意外な事実」が、ゴメスに対するイングランド中の好印象を更に後押しすることになった。チャールトン時代は7人家族の自宅から通っていたゴメスは、Liverpool入りして一人暮らしとなり、料理が出来ずレトルト食品に頼っていた。それを聞いたメルウッドのシェフが、毎日お弁当を包んでくれることになった。

    幼なじみのガールフレンドがロンドンの大学に在学中で、週末だけ会いに来る生活だった間は、ゴメスは毎日お弁当を持ってアパートに帰り、一人寂しく暮らす日々だったという。「毎日2食同じものだったけど、すごく美味しかったし、クラブやスタッフがそうやって僕を助けてくれたことがとても嬉しかった」と、ゴメスは笑顔で語った。今は、大学を卒業したガールフレンドと二人暮らしになり、お弁当も不要になった。

    私生活の苦労と同時に、長期にわたった負傷とリハビリの苦悩も断ち切ったゴメスは、「我がチームのフロント3は世界一と言われる程の高いレベルにある。ディフェンスがそのくらい評価を受けるようになれば、どれほど強力なチームになるか」と、力強く語った。

    「試合に勝つのはストライカー、リーグ優勝を取るのはディフェンス」とは、フットボール界の定説にもなっていた。ゴメスの言葉に、ファンは異口同音につぶやいた。「21歳のゴメスからこんな言葉が聞けるとは感激だし、そのような有能な若手を発掘して、指導して一人前の選手に育てる方針を実践する監督がいる限り、このクラブの将来は明るい」。

    アンフィールド要塞の再建

    10月27日の試合前に、カーディフ監督のニール・ウォーノックが、Liverpoolのフロント3は世界のトップであり、アンフィールドで勝つことは不可能に近いとLiverpoolを持ち上げた。折しもカーディフは、その前週に同じく昇格チームのフラムに接戦の末に4-2と勝って、自信を付けていたはずだった。

    これに対してニュートラルなアナリストは、「カーディフは、フラムに勝てなければ心配すべき事態だが、Liverpoolに負けることは危機でも何でもない。むしろ、勝てるはずがないと宣言することで、自分の選手たちのプレッシャーを取り除き、良いプレイができる土壌を作った」と、ウォーノックの発言を支持した。

    いっぽうLiverpoolは、前週にアウェイでハダースフィールドに1-0と勝って、それまでの「降格ゾーンにいるチームとのアウェイの戦績は最近5試合で無勝」の失意の記録を、辛うじてストップしたばかりだった。ユルゲン・クロップ在任中の通算では、下から3位以内のチームには19戦わずか6勝と、「勝てるはずのチームにポイントを落とす」傾向は顕著だった。

    同時に、アンフィールドでは2017年5月以来、連続31試合で無敗、特に今季は対マンチェスターシティの0-0を含め、無失点記録を貫いていたことで、ウォーノックの白旗宣言もあながち的外れではなかった。

    「ユルゲン・クロップがアンフィールド要塞を再建しつつある」と、Liverpool陣営では、地元紙やファンが異口同音に唱えていた。「昨季は106ゴールで100ポイントと、圧倒的な差でリーグ優勝を遂げたペップ・グアルディオーラが、異例な『ポイント狙い』の戦術で臨まざるを得なかったことが、アンフィールド要塞の再築を物語っている」。

    Liverpoolの黄金時代にメディアの定番だった「アンフィールド要塞」とは、アウェイのチームが「ボールを蹴る前から負けを覚悟していた」ものだった。

    「ニール・ウォーノック程の経験豊富な監督が、3ポイントをプレゼントしに来るはずがない」と、クロップは一笑に付した。

    水曜日のCL戦(対レッドスター、試合結果は4-0でLiverpoolの勝利)にゲストとしてアンフィールドを訪れていたディルク・カイトが、クロップの警戒に同意を示した。「Liverpoolを出て古巣のフェイエノールトに戻った時に、最初のシーズンで優勝を逃した。それは、下位のチームにポイントを落としたためだった。今のLiverpoolは、CLで4-0と快勝するようなチームだが、本当の勝負はカーディフのようなチームとの試合」。

    これに対してLiverpoolファンは、「カイトの言葉はその通り。以前はこのような時にいつも、典型的なバナナ・スキンだと心配が浮かんできた。でも今は、この試合で3ポイント以外の結末は想像できない」と、顔を見合わせた。

    ふたを開けるとLiverpoolは、フロント3がカーディフの堅い守りを突き破り、4-1とウォーノックの危惧を実現した。

    近年で、Liverpoolが本格的にリーグ優勝争いに参戦した2008-09季と2013-14季の「強かったチーム」のうちの一人であるカイトに対するファンの人気は、今でも高かった。「カイトがいた頃の2009-10季は、前シーズンから1位上ることを期待していたが、前オーナーのゴタゴタでチームは崩壊してしまった。2014-15季も、複数の事情が重なって夢が散ってしまった。でも、今のチームは監督と選手の顔ぶれを総合すると、前2回よりも自信が持てる」と、ファンは頷き合った。

    「僕がLiverpoolに入った時には、リーグ優勝というのは『期待』だった。でも、今は『自信』になったという感触を受けている」と、カイトがファンの思いを表現した。「選手たちと言葉を交わしても、ファンの声を聞いても、その印象は強まる一方。今のLiverpoolは、誰もがリーグ優勝は可能だと信じている。優勝を成し遂げるには、みんなが自信を持つことがスタートだから」。

    2016年にメイン・スタンドが新装開店し、収容人数が8,000人増えた時に、「アンフィールドのパワーが8,000人分増強されることになった」と、クロップは力を込めて語った。

    「アンフィールド要塞のために、クロップは常に我々ファンに対して、その一端を担うよう要求する。だから我々も、バナナ・スキンの心配などしている余裕はない」と、ファンは笑顔を浮かべた。「近年の2度の挫折は痛かったが、それを乗り越えて、今のチームを信じて進むことが大切」。

    カーディフ戦の後で、クロップは語った。「シーズンは長い。先のことを見ている余裕はない。ただ、今はクラブ全体にとって絶好調の状態にある。ファンとの連携も抜群だ。これを持続することが必要。選手たちは信頼に値する」。

    スペシャルなシーズンを目指して

    10月20日のジョン・スミス・スタジアムで、Liverpoolはハダースフィールドに1-0と勝って、チェルシー(試合結果は1-1)、マンチェスターシティ(試合結果は0-0)と2試合続いた無勝をストップした。同時に、プレミアリーグ開幕から9試合で合計わずか3失点というクラブ記録を塗り替えた。

    「アリソンとフィルジル・ファン・ダイク効果」と題して、地元紙リバプール・エコーは、126年のクラブ史上で最高のディフェンスを誇る現チームを分析した。ファン・ダイクが入る前の、昨季前半は、プレミアリーグ24試合の失点28と、1試合平均1.17だったのに対して、ファン・ダイクが入ってから現在までの23試合では、合計13失点で1試合平均0.56という顕著な差が出ていた。

    「ファン・ダイクがいかなるクロスをもブロックする。まれにセンターバックを突破しても、ゴール前にはアリソンが控えている。£75mと£65mの移籍金が『効果的な投資』だったことは誰も疑わない」。

    ファン・ダイクの移籍金について、かつては「サウサンプトンが雪辱を込めてLiverpoolからぼったくった」と笑ったアナリストが、今では競ってファン・ダイク称賛を唱えていた。中でも、マッチ・オブ・ザ・デイのレギュラー解説者の一人であるクリス・サットンは、「ファン・ダイクは、現役選手の中ではリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドに続く世界No.3」と主張するに至った。

    「サットンの誉め言葉は言い過ぎかもしれないが」と前置きした上で、エコー紙は、「対戦相手の正直な告白」を紹介した。スカイ・スポーツの実況にゲスト出演したワトフォードのストライカー、トロイ・ディーニーが、「何度も言うが、僕はファン・ダイクが大嫌いだ」と言ったものだった。

    「彼と対戦するのは、ひとえに悪夢だ。彼は体格も良すぎるし、強すぎるし、スピードがあり過ぎる。その上、ボール・スキルがあり過ぎて、強烈な闘志を持っている」と、ディーニーは顔をしかめた後で、ニヤッと笑って言った。「そして、彼は全身にスプレーをかけまくって試合に臨むようだ。彼が僕を抜いて走って行く時に、スプレーのいい匂いが漂う。思わず弱音が出てしまう」。

    Liverpoolファンは、爆笑しながらディーニーのユーモアセンスに拍手を送った。「プレミアリーグの対戦相手のチームはみな、ファン・ダイクにはかなわないことを知っているから、ファン・ダイクを避けてもう一人のセンターバックに集中攻撃を仕掛けているように見えるが、このディーニーの証言から、それは真相だと確認できた」。

    ファンのファン・ダイクに対する信頼は厚かった。「ファン・ダイクが来てからは、コーナーを与えても爪を噛むことなく安心して見ていられるようになった」と、誰もが頷いた。そして、ファンの間で「ファン・ダイクの真価は、プレイだけでなくリーダーシップにある」という見解でも一致していた。

    「主将と副主将が二人ともミッドフィールドから全体を見ている。フロントの中ではボビー(フィルミーノ)がリーダー格。そして守りではフィルジルがしっかり締めている」と、パートナーのジョー・ゴメスがファン・ダイクへの信頼を語った。

    この夏以来、折に付けファーストチームのトレーニングに参加するようになったアンダー21のセンターバック、ナット・フィリップスは、「ファン・ダイクのようなワールドクラスの大先輩と一緒にトレーニングする中で、得られるものは莫大」と、頬を染めた。

    若手から憧れのスターとして崇拝され、チームメートから信頼され、ファンから熱烈な支持を受け、中立のアナリストから過分なまでの誉め言葉を貰い、対戦相手の選手から恐れられているファン・ダイクは、常に冷静でしっかりと足を地に付けていた。

    「フロントも含め、チーム全員で協力し合って守るからこそ、クリーンシートができている」と、ファン・ダイクはクラブ記録達成の背景を説明した。「ハダースフィールド戦では反省点もたくさんある。向上すべきことは多いと認識している」。

    「今のチームは、全員が同じ目標に向かって前進している。スペシャルなシーズンにしたい、という意欲に燃えている。ずっと先のことを見るのではなく、1試合1試合ピッチの上でやるべき責任を果たすことが重要だということは承知の上で、今のみんなで力を合わせて歴史を作りたいと思っている」。

    ユルゲン・クロップ監督就任3周年

    今季2度目のインターナショナル・ウィークに突入した10月8日に、Liverpoolは重要なマイルストーンを通過した。まる3年前のこの日、ユルゲン・クロップが監督として正式に発表されたのだった。地元紙リバプール・エコーのクロップ3周年記念特集記事は、クロップの就任挨拶の風景で始まった。

    「ユルゲン・クロップは、代表チームから帰還してくる選手が全員揃うまで待って、メルウッドで就任の初顔合わせを行った。そのミーティングには、食堂のスタッフから警備員まで、文字通り全スタッフが出席した。選手たちにクラブのスタッフ一人一人を紹介し、クロップは言った。『全員の名前を知ってるかい?君たちが試合で頑張れるために、日々支えてくれている人たちだ』と」。

    クロップが重要視した「チーム」には、選手はもちろん、クラブのスタッフに加えて、ファンも含まれていたことは誰もが知るところだった。

    「私が来た時のLiverpoolは、大きな問題を抱えていた。誰もが自信を失くして暗い表情だった。自分たちが勝てるとは思っていなかった。それは違うのだ、と私は思った。まず最初にやるべきことは、懐疑心を信頼に変えることだった」。

    クロップの言葉は瞬時にファンに浸透した。それまでチームやクラブに対する意見が分裂していたファンは、誰もが懐疑心を捨ててクロップに対する信頼で一致した。「どこを見ても誰もが笑顔を浮かべている。ファンの分断を解消しただけで、既にクロップは大きな業績を達成した」と、ファンは頷き合った。

    「私はマジシャンではない。一気にプレイを飛躍的に上昇させることはあり得ない。私のやり方は、1歩1歩努力して固めて行くこと。それは時間がかかるが、必ず良くなるのだと忍耐力を持って欲しい」と、クロップは語った。

    その言葉が実現されたことは、誰もが確信していた。「クロップのLiverpoolは、プレミアリーグで最も面白いフットボールをするチーム。それは、一時はダメだと見られていた選手の潜在能力を引き出し、若手を育て、加えて効果的な戦力補強でクロップが達成したこと」と、ファンの意見は一致していた。

    それは、Liverpoolファンのひいき目ではなかった。このインターナショナル・ウィーク中に、チェルシー監督のマウリツィオ・サリが母国イタリアのメディアのインタビューで語った言葉でも同期を取っていた。

    9月29日のスタンフォードブリッジでのプレミアリーグ戦で、ファイナル・ホイッスルの直後に、サリがクロップと交わした会話の内容について明かしたものだった(試合結果は1-1)。

    「10分前に、タッチラインでクロップと言葉を交わした。我がチームが1-0で勝っていたのだが、クロップは笑顔で言った。『いい試合だと思いませんか?』と。私は『まったくそう思う!』と言った。だから、同点で終わった後で、クロップとはまるで旧友のように抱き合った。たとえ同点ゴールが出てなかったとしてもクロップは同じことをしただろうと確信している」。そして、サリは締めくくった。「プレミアリーグにはこのような、フットボールの魅力がある」。

    試合後の記者会見で、サリがLiverpoolとクロップを絶賛し、今季のプレミアリーグの優勝候補だと断言したのに対して、イングランドのジャーナリストが「あなたはLiverpoolが29年間リーグ優勝していないことを知っていますか?」と質問した。「知っている。何故そんな長いこと優勝してないのか、私には理由はわからない。ただ、それは過去のことで、今のLiverpoolは勝てるチームだと思う」と、サリは真顔で答えた。

    最後のリーグ優勝が29年前であるだけでなく、最後のトロフィー(2012年のリーグカップ優勝)が、既に7年前のことだった。トロフィー無しで終わった監督はロイ・ホジソン(2010年)が最初だったことからも、Liverpoolのクラブ史が栄光と同音異義語であることは明らかだった。

    それだけに、全国メディアや中立のアナリストの中では、「今季、もしLiverpoolがまたもトロフィー無しで終わったら、クロップのプレッシャーは非常に大きくなるだろう」という声は少なくなかった。

    Liverpoolファンは、9月26日にリーグカップ敗退し、まず最初のトロフィーの可能性を早々に失ったことに内心がっかりしながらも、「トロフィーの有無に関わらず、クロップの下でのチームの向上は明らか」と、クロップ支持は揺るがないものだった。

    「10-20年後に振り返って、トロフィー無しで終わった監督の中ではユルゲン・クロップが最も良いフットボールをした、と言われたくない。Liverpoolは、トロフィーは必ず取れると確信している。ただ、それはいつかは分からないが」。クロップはメディアのプレッシャーを認識していた。

    「正直、3年前にはここが自分のクラブだと瞬時に思ったわけではなかった。それまで14年間ドイツで監督をやってきて、ドイツのフットボールは隅から隅まで知っていたが、イングランドでは何もかも新たな発見だった。ただ、それは私が望んだ新たなチャレンジだった。このビッグ・クラブでチャンスを貰えたことに感謝しているし、光栄だと思っている」。

    「3年経って、私は監督として遥かに成長したし、今は心からここが自分のクラブだと思っている」。

    前進するために後退して達成した成功

    10月7日のプレミアリーグの首位攻防戦、Liverpool対マンチェスターシティは、世間の予想を大きく外し、無得点引き分けで終わった。得点力で定評がある両チームの対決は、プレミアリーグの超目玉戦となっていただけに、興奮もののエンターテインメントを期待していた第三者のファンは、「この90分、ペンキが乾くのをじっと見ていた方がワクワクしただろうに(※つまらない試合だったという意味の、イングランドの典型的な慣用表現)」と、一斉に顔をしかめた。

    BBCのハイライト番組では、この試合唯一の話題だったリヤド・マレスのPK失敗についてお座なりに取り上げた後で、次の議題に進んだ。

    「昇格チームのウルブスが、クリスタルパレスに1-0と勝って、8試合で15ポイントと好調を維持しています」という司会者の言葉を皮切りに、ウルブスの健闘ぶりで盛り上がった。

    オーナー交代をきっかけに、昨2017-18季にはポルトでCLを経験している注目のポルトガル人監督ヌノ・エスピリート・サントを任命し、2位に9ポイント差で2部優勝してプレミアリーグに復帰・昇格したウルブスは、ジョアン・モウティーニョ、ルベン・ネベスらを始め、ヨーロッパのビッグクラブから狙われているという噂が絶えないスター選手を抱える、今季の注目チームの一つだった。攻撃的で面白いフットボールが売り物のウルブスは、開幕早々の4戦目で、チャンピオンのマンチェスターシティに1-1と引き分けるなど、チームを問わずプレミアリーグのファンやアナリストから温かい拍手が送られる「好感度の高いチーム」となっていた。

    その中で、Liverpoolファンの視線は主将のコナー・コーディに注がれた。地元でLiverpoolファンとして生まれ育ったコーディは、Liverpoolのアカデミーチームで頭角を現し、イングランドの各年代のユース代表チームで主将を務めるに至った。ミッドフィールダーだったことと、濃厚なスカウス・アクセントで、ファンの間で「ミニ・ジェラード」というニックネームがささやかれたことがあった。しかし、Liverpoolでは1試合(89分のサブ)のファーストチーム経験に留まり、2014年夏に、21歳で当時2部のハダースフィールドへと去って行った。

    そのコーディが、昇格を決めた2017-18季のウルブスのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝き、ファンの絶大な支持を受ける主将としてプレミアリーグに戻ってきたのだった。

    「ウルブスの快進撃の立役者として、常に名が上がるのはモウティーニョやネベス。もちろんこの2人は素晴らしい。しかし、なかなか脚光を浴びないながら、主将のコナー・コーディの重要さは一筋縄ではない。試合を読む力は素晴らしく、タイトな場面でも常に冷静を保つ。パレス戦でもコーディの安定した活躍が目立った」と、BBCのレギュラー解説者であるアラン・シーラーが熱弁を振るった。

    折しも、イングランド代表チームが発表になったばかりだった。「コーディが代表入りしないのはおかしい」と、BBCのアナリストが一斉に紛糾した。

    9月のインターナショナル・ウィークが明けた頃に、デイリー・ミラー紙が「前進するために後退し、ボール・スキルの高いセンターバックとして評価されるに至った」というタイトルで、コーディの成功への道に焦点を当てた。

    「Liverpoolファンの家庭で生まれ、大好きなLiverpoolのアカデミーチームで育った僕にとって、Liverpoolを出るという決断は辛かった。でも、プロとして身を立てるためには試合に出られるクラブに行くことが必要だと思った」と、コーディは語った。

    ジェイミー・キャラガーを憧れのヒーローとしていたコーディは、2014年夏にLiverpoolを出て、翌2015年にウルブスに移籍した時には暫くライトバックでプレイしていた。本格的にセンターバックとして開花したのは、ヌノが監督となった2017-18季のことだった。「Liverpool時代に、キャラガーと一緒にトレーニングする機会に恵まれたお蔭で、試合を読むことを学んだ。その時の貴重な経験と、現監督から日々自信を貰っていることで、大きく成長できたと思う」。

    かくしてLiverpoolを出たコーディは、いったん下位ディビジョンに下がり、そこで成長を遂げてからプレミアリーグへと上った。

    「夏にウルブスが昇格した時、コーディの成長ぶりには感銘を受けた」と、Liverpoolファンは目を細めた。「Liverpoolのユースチームでミッドフィールダーとしてプレイしていた頃には、特にスペシャルなテクニックを持っていたとは思わなかったが、常に前向きで努力家でしっかりした考え方を持つ選手だった。ウルブスの主将として成功している姿はひとえに嬉しい」

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

    最新記事
    最新コメント
    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    QRコード
    QR