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    3冠を掲げて去る真のリーダー

    マンチェスターシティがFAカップ決勝でワトフォードを6-0と破って、国内3冠に輝いた翌日の5月19日、主将のバンサン・カンパニが今季末でシティを去り、古巣である母国ベルギーのアンデルレヒトのプレイヤーマネジャーに就任するというニュースが正式に発表された。まだ33歳ながら、負傷に見舞われることが多かったことから、ベルギー代表チームでは主将職をエデン・アザールに明け渡し、シティでは11年間の在籍でプレミアリーグ通算わずか265出場でピリオドを打つことになった。

    シティのチェアマンが「このクラブの魂であり、心臓のような存在」とカンパニの多大な業績を称賛した言葉に続き、チームメートから一斉に感謝と新天地での成功を祈るメッセージが出た。中でも、地元出身の若手であるフィル・フォーデンの言葉は、イングランド・フットボール界の感想を代弁していた。「最初の日からずっとお世話になった。チーム全員に対して、真のリーダーとしての姿を教えてくれた人。心を込めてシャツを着て、クラブのために全てを尽くした人」。

    2008年夏に、オーナー交代の直前に£6mの移籍金でハンブルクからシティ入りしたカンパニは、現オーナーの「際限のない戦力投資」が始まる前の、「マンチェスターのもう一つのクラブ」でしかなかったシティを、44年ぶりのリーグ優勝に導き、在籍11年間でリーグ優勝4、リーグカップ4、FAカップ2という輝かしい業績を作った、まさにクラブの魂であり、心臓という存在となった。

    その44年ぶりのリーグ優勝は、引き分ければユナイテッドが連覇に王手をかけたはずの4月30日のダービーが突破口になった、と多くの人は指摘する。その試合で決勝ゴールを決めたのがカンパニだった(試合結果は1-0でシティの勝利)。そして、カンパニの4回目で最後のリーグ優勝となった今季の、2位Liverpoolの望みを遮断したレスター戦の70分の弾丸シュートは、人々の記憶に深く焼き付いた(試合結果は1-0でシティの勝利)。

    「ビニーのことを語る時、誰もが2012年のダービーでのゴールと今季のレスター戦のゴールを上げるが、ビニーの真の偉大さは、マンチェスター市のことを心から大切に思い、地元のために多大な仕事をしてくれていること」と、あるシティ・ファンは目を潤ませた。

    ピッチの上だけでなく、奥さんがマンチェスター出身のシティ・ファンという縁もあって、チャリティなどを通じて地元社会に積極的に貢献するカンパニは、即座にシティ・ファンの心を掴み、「ビニー」というニックネームで慕われるようになった。

    それは、昨年の在籍10年功労試合の収益金を、マンチェスター市のホームレス基金に全額寄付するなど、社会問題に広く取り組んでいる人間としての姿を称えたものだった。お父さんはコンゴからベルギーに政治亡命した人で、ベルギー人(白人)のお母さんとの間に生まれたカンパニは、子供の頃から人種差別の犠牲に合うことが日常茶飯事という生活を送る中で、必然的に社会問題に目を向けるようになったという。

    「アンデルレヒトのユースチームでフットボールを始めた頃には、£300の週給でテスコで働きながら生計を立てられれば良い、と思っていた。プロになって、プレミアリーグでこれほど多くのトロフィーを取ることは夢にも見なかった」と笑うカンパニは、冷静な表情で語った。「困難に直面して、それを乗り越えた後は、何も怖いものはないと確信できるようになる」。

    そして、今季の激烈なタイトル争いが大詰めを迎えた時に、「2012年は我々にとって最初のタイトル争いだったので、プレッシャーを感じた。その突破口を克服した今回は、どんなに苦しくても戦い抜くことが出来る自信がある」と、カンパニは宣言した。

    「Liverpoolの激しい追い上げに、シティは14連勝が必須だと覚悟を固めた時、ペップ・グアルディオーラはカンパニの経験に託した」と、BBCは3冠を掲げて去るカンパニにエールを送った。

    「いつもダービーでゴールを決めたライバル選手が、とうとういなくなる。ライバルチームの選手でも人間として尊敬せざるを得ない、人格者で真のリーダー。シティに初めて本物のレジェンドが出来ることになる」と、ユナイテッド・ファンはつぶやいた。

    ジェイミー・キャラガーの、「プレミアリーグ史上に残るベスト・センターバックの一人であり、マンチェスターシティのクラブ史上に残る偉大な選手」というメッセージに、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「優勝を決める重要なゴールをねん出してきた選手がシティからいなくなる」と、Liverpoolファンは、カンパニに拍手を送りながら、最初のプレッシャーを経験し、突破口を目指して2度目に臨む選手たちへの期待を再燃した。

    ユルゲン・クロップの(嬉しい)誤算

    5月12日、マンチェスターシティが14連勝の98ポイントで連覇を決めたプレミアリーグ最終日に、Liverpoolの地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップの大きな誤算」という見出しで、2015年10月の監督就任初記者会見での言葉を振り返った。「3-4年後に私がこの場にいるとしたら、それはタイトルを取っているということ。そうでなければ私はスイスにいるだろう」。つまり、クロップは、3-4年以内に優勝できなければクビになって、プレミアリーグよりはプレッシャーの少ない外国リーグで職探しをすることになるだろう、と予測していたのだった。

    「その公約の期限が訪れた今、クロップは自分の誤算を認めた」と、同紙は明るい文面で続けた。「Liverpool以外の人々が皆、口をそろえて『即成功が必須』と脅かすし、私もこんなに時間を与えてもらえるとは思わなかった」とクロップは苦笑したという。「それは、Liverpoolのトップ陣がクロップを全面的に信頼し、就任4年足らずの間で達成した業績を高く評価し、長期計画の実現をバックアップするという態度の証明」と、同紙は説明した。

    エコー紙が突っ込みを入れたクロップの言葉は、Liverpoolファンの間でも折に付け話題になっていた。「昨季はシティより25ポイント差の4位だったチームが、最後までタイトル争いを続けた末に97ポイントを達成した。しかも、CL決勝という大きなチャレンジが残っている状態でプレミアリーグのシーズンを終えることが出来るとは、誰も夢にも見なかったような偉業。クビどころか契約更新すべき」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    「Liverpoolのお蔭で我々はここまで勝ち続けることが出来た」と、ペップ・グアルディオーラはライバルチームの健闘を讃えた。

    中立のアナリストは、優勝チームへの祝福と同時に、Liverpoolへのねぎらいを唱えた。その多くは、「97ポイント取りながら優勝できないとは」という同情が込められていた。

    そんな中で、1990年代からクロップを密接に取材してきた、友人でもあるドイツ人ジャーナリストが、「ユルゲン・クロップがLiverpoolを再建の道へと導いた」と、前向きな見解を語った。

    「バルセロナ戦の大逆転勝利(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが決勝進出決定)の後のクロップは、私がこれまで見たことがない程に大きな満足を浮かべていた。その中には、2012年にドルトムントがバイエルンを抑えてリーグとカップの二冠に輝いたシーズンも含んでいる。もちろん、あの大勝利がトロフィーを勝ち取ったわけではなかった。ただ、クロップの目標が実現したからこそできたものだった」。

    2015年10月に、Liverpoolのオーナーが監督候補者に「Liverpoolを再建させるためには何が必要か?」と質問を投げかけた。カルロ・アンチェロッティは3人のワールドクラスの選手のリストを提示したのに対して、クロップは「ファンを呼び起こすこと」と答えたという。

    バルセロナ戦では、アンフィールドのスタンドとピッチの上の選手たちが文字通り一体となって、ミラクルを起こした。「アンフィールドのヨーロピアン・ナイトは有名だが、今回はこれまでにも増して強力な声援だった」と、中立のアナリストが口をそろえた。

    「クロップは、Liverpoolで本当にスペシャルなものを築き上げた。選手たちとスタンドとの強力な一体感を作った張本人はクロップだった。それは、最後のリーグ優勝以来30年足らずの年月の中で、最も顕著な信頼関係と言えるもの」と、エコー紙は断言した。

    「その間、数回のタイトル争いの後で、たがが外れたかのように不調に落ち込み、スター選手が沈む船から逃げ出すかのように出て行った末に、元の木阿弥となった、その暗雲のサイクルを見てきたファンは、クロップが作り上げた強力な団結は、これから更に実を結ぶことを確信している」。

    成功のバロメータ

    5月1日のカンプノウで、Liverpoolが3-0と大敗を食らったCL準決勝1戦目の後で、歓喜に沸いたエバトン・ファンの間でバルセロナ人気が急上昇した。喜びのあまり、自分たちの次のプレミアリーグ戦となった5月3日のバーンリー戦(試合結果は2-0でエバトンの勝利)では、グッディソン・パーク周辺で、リオネル・メッシのスカーフを売るワゴン車まで登場した。

    Liverpoolファンは、「エバトン・ファンにとって『成功』は自分たちのチームが勝つことよりもLiverpoolの敗戦、とは今に始まったことではない」と苦笑し、隣人の揶揄を背に真顔で語り合った。「メッシのワールドクラスのフリーキックは鮮やかだった。ただ、試合そのものは3-0の内容ではなかった。我がチームは良くやったし、あれだけ優位に立ちながら3-0の負債を背負って帰還することになった選手たちが気の毒だ」。

    ただ、イングランドの世論は圧倒的に、Liverpoolファンの見解とは完全に平行線を辿っていた。少なくないアナリストが「ユルゲン・クロップの戦略ミス」を唱え、Liverpoolが今季はCLで「惨めな敗退で終わることになった」と主張した。

    そんな中で、ロビー・サベージの「仮にトロフィーなしに終わったとしても、Liverpoolのシーズンは大成功だと言える」という意見に、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「プレミアリーグで97ポイント(※最大)を取り、カンプノウでバルセロナにフォーメーション変更を強いる程の優位を占めたLiverpoolが、トロフィーなしで終わるのは非情。ただ、空手でシーズンを終えたとしても、それを失敗と言うのはフットボールを知らない人だけ」と、サベージは断言した。

    これは、バルセロナ戦の後のBBCのアンケートで、67%が「トロフィーなしで終わればLiverpoolのシーズンは失敗だったと思う」と答えたことを指していた。「サー・アレックス・ファーガソンは13回プレミアリーグ優勝を達成したが、91ポイントを超えたことは一度もなかった。私は今季CLで、トットナム、マンチェスターユナイテッドと、イングランドの3チームがカンプノウでバルセロナと対戦した試合を見たが、その中で、パフォーマンスでは今回のLiverpoolが圧倒的にベストだった」。

    「クロップの戦略を批判する人々は、'アナリスト'という人も含め、4-4-2だと訳の分からないことを言っているが、あれは明らかに4-3-3。彼らは試合を本当に見たのか?と言いたい。もちろん、アンフィールドでLiverpoolが絶対に逆転勝ち抜きを達成する、と言い切るつもりはない。バルセロナが先制すれば、厳しさは急増するだろう」。

    「ただ、Liverpoolはこれまでシーズンを通して積み上げてきたものを最後まで発揮することは確か。無知な人々が何のたわごとを言おうとも、Liverpoolは今季の業績を大成功だと大いに誇るべきだ」。

    サベージの強い言葉は、Liverpoolファンの圧倒的多数を代弁していた。もちろん、フットボールではトロフィーを勝ち取ることが最大の目標であることは議論の余地はなかった。ただ、97ポイント(※最大)を取ってもリーグ優勝できなかったとしたら、それは「失敗」か?という自問自答のような議論が、ファンの間で交わされていた。

    「シーズン開幕前に、プレミアリーグで90ポイントを超えることを真面目に期待した人はいないと思う。それだけでも成功であることは確か。トロフィーなしで終われば悲しいが、それは失敗ではなく『成功だが悲しい結末』と言う方が近い」と、誰かが言った。いっぽうで、別のファンが「成功だ」と断言した。

    「成功のバロメータは、トロフィーだけではない。成功のバロメータは、まずは前進。昨季と比べて、勝つべき相手には確実に勝てるようになり、苦境に陥っても最後まで勝ちを目指して戦うことが恒常化した結果、試合終幕に決勝ゴールが出せるようになった。昨季はCLで勝ち進むにつれてリーグでは集中力の欠如がやや見えたが、今季は両方でここまで勝ち進んだのだから、明らかな前進」。

    「成功のバロメータは、第二にエンターテインメント。チームが自信と決意をむき出しで勝ち続ける試合を見て、ファンは心底楽しめている。チームへの誇りでファンは笑顔が絶えない日々が続いている。Liverpoolファン生活の中で、こんなに良い思いが出来たシーズンはないくらいに」。

    「そして、成功のバロメータは、自分たちの目標に対する達成度。プレミアリーグ優勝できるのは1チームだけ。でも、残りの19チームは全て失敗か?というと、それは違う。残留が目標だったチームは17位で終われば大成功だ。その意味で、開幕前の目標を上回った今季は成功だった」。


    スペシャルなチーム

    4月28日、2018-19季のPFA優秀賞の表彰式が行われ、事前のオッズでも圧倒的だったフィルジル・ファン・ダイクが最優秀選手賞に輝いた。1日前に発表されたチーム・オブ・ザ・イヤーには、ファン・ダイクを始めLiverpoolからトレント・アレクサンダー・アーノルド、アンディ・ロバートソン、サディオ・マネの4人が入り、マンチェスターシティから6人(GKのエデルソン、アイメリク・ラポルテ、フェルナンジーニョ、ベルナルド・シウバ、ラヒーム・スターリング、セルヒオ・アグエロ)、残る1枠はマンチェスターユナイテッドのポール・ポグバが占めた。

    各アナリストの見解では、唯一、ポグバの代わりにエデン・アザールを上げる声がやや大きかったことを除くと、トップ2からの10人に関しては、ほぼ一致していた。

    「トップ2が強すぎて、それ以外のチームはみんなダメダメに感じる」と、ガリー・ネビルはぼやいた。「でも、現在トップ4争いをしているトットナム(70)、チェルシー(68)、アーセナル(66)、マンチェスターユナイテッド(65)は、獲得ポイントを見ると決して悪いとは言えない。シティとLiverpoolが異常に良いせいで、他のチームが間抜けに見えるだけ」。

    これに大きく頷いたLiverpoolファンは、「ノース・ウエスト(マンチェスター市とリバプール市を含む地区)で表彰式を開催すれば、受賞者全員がわざわざロンドンまで遠出しなくても済むのに」とジョークを言いながら、PFA最優秀賞に輝いた選手たちに暖かい拍手を送った。

    この授賞式から戻って来た選手たちは、水曜日のCL準決勝に向けて、忙しくバルセロナへと向かうことになっていた。

    「シティとLiverpoolのどちらかが、プレミアリーグもCLも取れずに終わるとしたら、それは不条理な気がする」と、Liverpoolファンは頷き合った。「シーズン前半には、Liverpoolファンの多数派が、二者択一だとしたらプレミアリーグを選んだ。シティの方は逆に、圧倒的多数がCLの方がより欲しかっただろう。皮肉なことに逆になったが」。

    「CLを掲揚して欲しいと心から願っている。我々ファンの願望というよりは、今季のLiverpoolの選手たちの、全力を尽くす働きぶりに対する報酬として」。

    ファンの気持ちを裏付けるかのように、アレックス・オクスレイド・チェンバレンが、今季のチーム全体の意気込みについて語った。折しも、4月26日のハダースフィールド戦(試合結果は5-0でLiverpoolの勝利)で18分出場し、367日ぶりに復帰を遂げたばかりのことだった。

    「僕がリハビリ中で試合から離れていた時に、例えばボーンマスでの試合から帰ってきて、すぐに次の試合でイタリアなりに出かける選手たちを見て、このチームがいかにスペシャルかということを実感した」と、オクスレイド・チェンバレンは語った。

    「誰一人として1日たりとも気を抜くことなく、常に勝つことだけを考えている。一人の例外もなく全員が、Liverpoolでプレイすることの意味をしっかり理解している」。

    「それは、監督が植え付けたもの。監督は、5-0で快勝した試合の後でも全く態度を変えず、常に次に向けて集中力を欠かさないし、選手に隙を与えない」。

    ユルゲン・クロップのフィロソフィーを実現するために、ベテラン選手から若手まで、バランスの取れた年齢層の選手たちが、それぞれの役割に応じた責任をしっかり果たしている、と、オクスレイド・チェンバレンは語った。

    「主将のジョーダン・ヘンダーソンは、一瞬たりとも気を抜かずリーダーであり模範的なプロとして振舞っている。33歳のジェームズ・ミルナーは、これまで多くの優勝メダルを取った経歴を持つのに、引退に向けてウォームダウンするどころか、日々闘志を燃やしている。ワールドクラスの攻撃陣あり、アンディ・ロバートソンのような、努力と意欲でどん底からワールドクラスに上ってきた選手もいる」。

    「負傷欠場中に、彼らを見送りながら、僕はしみじみ思った。このチームにいられてラッキーだと。このスペシャルなチームは、必ずスペシャルな業績を作るに違いない、と確信した」。

    PFAチーム・オブ・ザ・イヤーが発表された直後に、Liverpoolから4人が受賞したことについての感想を問われて、ユルゲン・クロップは答えた。「良くやったと思う。日頃の努力の成果が評価されたのだから、大いに誇るべきこと。ただ、私にとっては今のLiverpoolがチーム・オブ・ザ・イヤー」。

    苦しい日々を乗り越えて晴れて復帰したオクスレイド・チェンバレンは、新たに現在の「願い」を明かした。

    「自分のことより何より、今のLiverpoolが、チームとしてスペシャルな栄誉を達成することが第一」。


    一緒に戦う最初のタイトル争い

    3月に再日程が発表された頃から、4月24日水曜日の、カップ戦のため延期となったマンチェスター・ダービーについて、ユナイテッド・ファンの間で熱い議論が交わされてきた。しのぎ合いが続くプレミアリーグの優勝争いで、「どっちが勝った方が我慢できるか?」の議論は、圧倒的多数のユナイテッド・ファンがシティに軍配を上げていたが、自分たちのトップ4争いが絡んできたことから話は複雑になった。それでも、大多数のユナイテッド・ファンが「Liverpoolの優勝を阻止するためなら、1シーズンのEL落ちを受け止める」と宣言していた。

    ところがその「心の中で自分のチームの負けを望む苦しいダービー」を直前に控えた4月21日、CL敗退に続いてエバトンに4-0と屈辱的大敗を喫したことで、ユナイテッド・ファンは一斉に頭を抱えた。「ダービーでは、2桁失点で叩き潰されるか、もしくは、こちらの方があり得るが、選手が名誉挽回のために決死の覚悟で頑張って、ラッキーな引き分けを得てしまい、Liverpoolにプレミアリーグ優勝を献上し自分たちは(1ポイントでは不足のため)EL落ちという、どっちに転んでも最悪な行方しか見えない」と、悲痛な叫びを上げた。

    ユナイテッド・ファンの涙声を背景に、世間のメディアは「このユナイテッドのチームがシティからポイントを奪えるはずがない」とダメ出しし、リーグ優勝の行く先はシティに決まったと断言する中で、カーディフ対Liverpoolの直前情報を伝える番組で、カーディフ・シティ担当のジャーナリストがぽつりと語った。「今季のプレミアリーグは、通常ならばラクラク優勝の90ポイント超でも2位に終わるだろうという、非常に酷なタイトル争いなっている」。

    「今日の4-0を見た後でも、残り試合を考えると、シティがポイントを落とす可能性がある試合はダービーだけだと思う」と締めくくったその表情には、Liverpoolに対する同情が浮かんでいた。

    Liverpoolが2-0とカーディフに勝って、再び首位を奪還した試合後の記者会見でも、ユルゲン・クロップへの最初の質問が「水曜日のマンチェスター・ダービーは見ますか?」というものだった。「他に何もすることがなかったら見るだろうけど、自分たちがコントロールできないものは仕方ない」と、クロップは苦笑した。

    「我々は、タイトル争いのために戦っているのではなく、一緒に頑張ってくれているファンのために勝つことを目指している」と、クロップは断言した。

    記者団の質問が、やっとカーディフ戦の試合内容へと方向転換した時に、クロップは先制ゴールの背景を明かした。カーディフの堅い守りに苦戦を強いられた末に、56分にコーナーからジニ・ワイナルドゥムが決めたものだった。「ハーフタイムに選手たちが自主的に作戦を立てた結果、出たゴール。私は、そのように試合を見て相手を分析し、臨機応変に動いた選手たちを誇りに思う」。

    カーディフのセットピースの守りの隙に気付いたジニが、ジョーダン・ヘンダーソン経由でトレント・アレクサンダー・アーノルドに伝えてもらい、低いボールを出させたという。かくして、ほぼフリー状態だったジニが、自らのプレミアリーグ通算2点目のアウェイ・ゴールを決めた。

    「いかにもジニらしい話だ」と、ファンは一斉に頷いた。「Liverpoolでの初ゴールとなった、2016-17季最終日のミドルスブラ戦(試合結果は3-0でLiverpoolが勝利)は、トップ4を勝ち取った重要なゴール。あのジニのゴールがあったからこそ、Liverpoolは翌季のCL決勝進出、続く今季のプレミアリーグ優勝争いと、着実な向上の道を進むことが出来た」。

    今季、ミッドフィールドの要として安定したプレイを続けているジニは、その明るい人柄も手伝って、ファンの強い人気を集めていた。3月末にBBCのプレミアリーグ・ショーに出演したジニが、「試合前にかけたい音楽リスト」の筆頭にYou'll Never Walk Aloneを上げたことも、ファンの笑顔を深めた。

    「今でも、アンフィールドでファンが歌うYou'll Never Walk Aloneを聞くと鳥肌が立つ」と、ジニは語った。

    「Liverpoolに来てから、負傷状況によってはセンターバックに入ったこともある。ローテーションでベンチに入ることすらあるが、常にチーム優先で文句ひとつ言わず、試合に出れば確実に期待に応えてくれるジニは、貴重な存在」と、ファンは熱く語った。

    「そもそも、ジニを始め、クロップが獲得した選手は誰もが人格者で、文字通りチーム一丸となって同じゴールに向かって進んでいる。ファンとしては、何があってもこのチームを応援したいと心から思う」。

    29年間の悲願であるリーグ優勝争いは、世間の予測を引用するまでもなく、シティが行方を握っていることは誰もが認識していた。その前提で、Liverpoolファンの間では笑顔が絶えなかった。

    「クロップが言った、『これは、我々がファンと一緒に戦う最初のタイトル争い。最後ではない』という言葉は、真実だと信頼しているから」。

    感情的な週

    Liverpoolのクラブとファンにとって、4月は感情が深まるが、ヒルズバラ30周年の今年はいつもに増して揺れ動くことになった。その発端は、4月3日にヒルズバラ公判の判決が下ったことだった。隣町であるプレストン市の裁判所で40日に及ぶ公聴の末に、陪審員が8日に渡って協議した結果、2人の被告のうち1人(シェフィールド・ウェンズディFCの事件当時の責任者であるグレアム・マクレル)は有罪となり、1人(スタジアム警察の責任者だったデビッド・ダックンフィールド)は合意に達することが出来ずに終わった。

    判決を受けて、リバプール市長のジョー・アンダーソンが、「ヒルズバラ遺族グループ、および生存者を始めとする関係者一同にとって、肯定と失意の感情が入り混じった判決だった。30年前の事件に対して、初めて有罪者が出たのは大きなことだったが、試合の警備の責任者に関しては陪審員が一致できなかった」と声明を出した。

    ダックンフィールドに対しては、検察側が上告を計画しているという情報が続いたが、遺族グループの中には「これ以上続けることは体力的に無理」と、うつむく声もあった。実際に、事件当時に例えば40歳だった遺族は、今では70歳になっている。文字通り、「体力的に無理」なものがあった。

    毎年4月15日に行われているヒルズバラ式典は、30周年となる今年は再びアンフィールドで開催する計画が1年前に決まったが、この公判のため、非公開で行うことになった(※裁判に影響を及ぼす恐れがある言動は違法となるため)。それだけに、ダックンフィールドの有罪が決められなかった判決は、関係者の目には「失意」の感情の方が重たくのしかかっていた。

    そのような背景も手伝って、Liverpoolファンの話題は、毎年4月15日に最も近い日にホームで行われる公式戦での96人への追悼に向けられた。これまで29回の試合では、アウェイ・スタンドからの100%の協力を得て、試合前に1分間の黙とうとモザイクでの追悼が行われてきた。

    今年は4月14日のチェルシー戦と日程が確定した時に、少なくないファンが心配の声を上げた。それは、ヒルズバラ事件の秘匿文書が明るみに出た2012年に、イングランド中がヒルズバラ遺族グループに対する敬意の声を上げ、4月15日近辺の全試合で1分間の黙とうが行われた時のことだった。チームを問わず、全てのファンが自分たちの悲劇として96人を偲んだ中で、1試合だけ、4月15日にウェンブリー・スタジアムで行われたFAカップ準決勝、チェルシー対トットナムで、心ない言動が行われた。

    レフリーの笛と同時にチェルシー側のスタンドから騒音が起こり、しばし続いた。実況放送のTV局は、急遽アンフィールドで行われていた式典の映像に切り替えた。レフリーは予定を切り上げて「黙とう」終了の笛を吹いた。トットナム側のスタンドから、チェルシーのスタンドに対して批判のブーイングが出たのを背景に、実況のアナウンサーは「スタンドの外にいたチェルシー・ファンが、黙とうが行われていることに気付かず、騒いでいたようです」と、苦しい「説明」をした。直後に、その件に関してチェルシーFCから謝罪の声明が出た。

    その時の生々しい記憶があるだけに、Liverpoolファンは祈るような気持ちで今年の30周年の追悼を迎えたのだった。

    折しも、その3日前に、プラハでのEL準々決勝の試合前にチェルシー・ファン6人のグループが、モー・サラーに対する差別的チャントをする動画が流れたところだった。チェルシーFCは容疑者をゲートで取り押さえ、直ちにチケットをはく奪するという対策を取ったことも同時に伝えられた。

    「プラハで事件を起こしたグループが、4月14日にアンフィールドで、1分間の黙とうの最中にモー・サラーに対する差別的チャントを企てている」という情報がインターネットを飛び交う中で、チェルシーFCは、差別的チャントを厳しく批判し、「アンフィールドでは、試合前にヒルズバラの96人を偲ぶ1分間の黙とうが行われます。試合に行く人は、チェルシー・ファンとしてふさわしい行動を取るようお願いします」と呼びかけた。

    ふたを開けると、これまでの29回同様に、針の落ちる音も聞こえるくらいの静寂の中で96人への追悼が行われた。

    どのクラブにも「心ない少数派の愚か者」がいる。事件が起こってから対処するのではなく、事件が起こらないように対策を講じることで、相手を傷つけることなく、クラブと圧倒的多数の普通のファンの名誉を守ることが出来る。

    そして試合では、アウェイ・スタンドからの「滑って転んでデンバ・バにゴールを献上した」替え歌(※2014年4月に、Liverpoolが11連勝中で首位だった時に、アンフィールドでチェルシーに0-2と破れた試合で先制失点を招いたミスを嘲笑する替え歌)を遮るかのように、モー・サラーが会心の弾丸シュートを出し、2-0とLiverpoolが勝利を収めた。Liverpoolにとっては、アンフィールドのチェルシー戦勝利は2012年以来のことだった。

    「2014年を経験しているのは、今ではジョーダン・ヘンダーソン、ダニエル・スタリッジ、シモン・ミニョレの3人だけになった。チームも監督もほぼ刷新し、過去のしがらみを意識する必要はなくなっている。しかし、ファンにとっては、いろんな意味で『長年の悪夢を振り払えた』試合となった」と書いたリバプール・エコー紙の記事に、多くのファンがうなずいた。

    オー・キャプテン、我がキャプテン

    4月5日、Liverpoolはサウサンプトンに3-1と逆転勝利を収め、5試合を残して82ポイントとプレミアリーグの首位に浮上した。これは今季26回目の首位交代で、FAカップ戦のため試合がなかったマンチェスターシティが残り6試合で2ポイント差の80と、「90ポイントを超えても優勝できない高レベルのタイトル争奪戦」の行方に、世間は興奮の目を輝かせた。

    昨季のシティ(100ポイント、2位は81)は異例として、それまでの最高ポイントは2005年のチェルシー(95、2位は83)、インビンシブルのアーセナル(2004)が90(2位は79)と、優勝チームが高ポイントのシーズンは2位との差は比較的大きいことが一般的だっただけに、今季のタイトル・レースは「面白い」ものになっていた。

    Liverpoolのクラブ記録である、前回2位で終わった2014年の84ポイントにあと2となり、来季のCL出場が数字の上で確定したサウサンプトン戦の勝利は、Liverpoolファンに特別な感情を与えた。

    「ここ数試合は絶好調とは言えないし、楽勝を重ねるシティの方が総合的な戦力は上かもしれない。でも、29年ぶりの優勝を狙うプレッシャーを背負って、チームが疲労や相手の時間つぶし戦略に苦戦しながらも、どんなに不利になっても最後まで闘志を抱いて進む姿を見ていると、ファンとしては誇り以外にない」。

    一時は「ファンの緊張がチームにプレッシャーを与えている」とすら言われたが、今では誰もが「足をしっかり地に着けて、チームの快挙を心から楽しめるようになった」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    数字のプレッシャーに関して言うと、モー・サラーの勝ち越しゴールは、プレミアリーグ通算50点目だった。Liverpoolでの69試合目で達成した50ゴールは、フェルナンド・トーレス(84試合)を抜いてクラブ史上最短となった。プレミアリーグ全体でも、アラン・シーラー(ブラックバーン、66試合)とルート・ファン・ニステルローイ(マンチェスターユナイテッド、68試合)に次ぐ3位だった。その記録が話題に上ってから、8試合無得点を経過した後で出たゴールだった。

    しかしサラーは、試合後のインタビューで「記録のプレッシャー」について質問されて、「9試合ぶりのゴールだからね。でも、ヘンド(ジョーダン・ヘンダーソン)は20試合ぶりなのだから、感慨はひとしおだと思う」と、爽やかな笑顔で語った。

    正確には、昨季9月のレスター戦(試合結果は3-2でLiverpoolの勝利)以来の48試合ぶりで、その「感慨」は、ヘンダーソンのジェスチャーからも明らかだった。そして、それを見てあるファンがポツリと言った。

    「ヘンドはこのゴールで、10年連続でプレミアリーグで毎シーズン得点を記録しているという、現役選手の中では僅か4人の一人になった(※他3人は、アーロン・ラムゼイ、セオ・ウォルコット、ダニエル・スタリッジ)。来季、得点すればダビド・シルバが5人目になる」。

    「サラーの記録と違って殆ど話題にならないが、プレミアリーグで10年間プレイし続ける選手だけが達成できるという、地味だが重要な業績。まさにヘンドにふさわしい記録」という言葉に、誰もが深く頷いた。

    しかもこれは、相手のペースに苦戦を強いられていた60分にサブで出場したヘンダーソンが、経験とリーダシップで試合を変えた末に出たゴールだった。

    「オー・キャプテン、我がキャプテン(※)」と、ファンは一斉に歓喜の声を上げた。「世間の不当な批判に対して、ピッチの上で反論したヘンドは、主将として立派な働きを見せた」。
    ※詩人ウォルト・ホイットマンの1865年の作

    少なくないファンが、この日のヘンダーソンのポジションについて賛意を表明した。「先日のイングランド代表チーム(対モンテネグロ、試合結果は5-1でイングランドの勝利)で、ヘンドはアタッキング・ミッドフィールダーとして出て非常に良いプレイをした。Liverpoolではディフェンシブ・ミッドフィールダーとして使われているが、ファビーニョが入って来たので、ヘンドはまた攻撃の方にシフトされることを期待していた。サウサンプトン戦では良い証明になった」。

    ファンの会話が聞こえたかのように、ユルゲン・クロップは、ヘンダーソン本人とポジションについて会話したという真相を明かした。「私が来た時には、ヘンドはボックス・トゥ・ボックスのミッドフィールダーとしてプレイしていた。それを、ディフェンシブなポジションにシフトした。今後も戦略上変動するが、ヘンドはどのポジションでもしっかりこなす選手」。

    「何故なら、ヘンドは我がキャプテンだから」。

    「彼は人間としても素晴らしい奴。ヘンドについて本を書けと言われたら、500ページくらい書くことがある程に、私は高く評価している。ヘンドは、スティーブン・ジェラードの後を継ぐという、フットボール史上最も困難な任務を背負ってきた。世間の不当な批判を受けながら、立派に責任を果たしているヘンドを、私は心から誇りに思う」。

    意志と決意と態度のたまもの

    3月31日のアンフィールドでのトットナム戦のプレビューとして、ガーディアン紙が「17年前の悪夢」という見出しで、2002年4月のホワイトハート・レーンでの対戦を振り返る記事を掲げた。CLでは準々決勝進出を達成し、プレミアリーグでは12試合中11勝の勢いで、12年ぶりの優勝を目指して盛り上がっていたLiverpoolは、トットナムに1-0と敗れて実質的にタイトル争いから脱落し、続いてレバークーゼンに敗れてCL敗退という、当時物心ついていた年代のLiverpoolファンにとっては胸が痛む記憶だった。

    「最終的に、優勝したアーセナルに7ポイント差の2位で終わったLiverpoolは、当時と酷似した状況で迎えるトットナム戦で、17年前の失意を払拭することが出来るか?」と、同紙は疑問を投げかけた。

    折しも、サディオ・マネがミラー紙の独占インタビューで、ガーディアン紙の「17年前の悪夢」に対して正面から反論するような決意を表明していた。

    「このクラブの歴史を見れば、これまで何度も困難を克服してきた実績は明らか。Liverpoolはチャンピオンの精神力を持っているクラブ」と、マネは宣言した。

    セネガルの小さな村で生まれ育ったマネは、アフリカの多くの少年たち同様に、家族を財政的に支えるためにフットボーラーを目指した。決して高望みはしなかったご両親に代わって、マネにフットボールを奨励したのはおじさんだったという。かくして首都ダカールの少年チームでプロをへの道を歩み始めたマネは、「ダカールからLiverpoolまでの長い道のり」を振り返った。

    「その頃の僕は、ヨーロッパの一流クラブを目指すなど大それたことは考えたこともなく、セネガルのビッグ・クラブの選手になることを目標に抱いていた。ましてや、Liverpoolのような超名門クラブでビッグなタイトルを狙うなんて、夢にも見なかった。でも現実は、僕はここまで到達したのだから、それを実現するために助けてくれた人々のためにも、トロフィーを取らねばならないのだと感じている」。

    「ダカールの街中でボールを蹴っていた少年の一人だった僕が、ここに至るまでの道は長かった。アフリカの少年たちにとって、ヨーロッパでプロとして身を立てられるようになることは、誰にでもかなうことではない。それを思うと、僕は、何があっても諦めずに前に進み続けることが出来る」。

    ふたを開けると、Liverpoolは、先制しながらも後半はトットナムに優位を奪われ、同点にされた末に、90分に相手GKのミスから出たオウン・ゴールで2-1と勝利を収めた。

    12月のマージーサイドダービーで、ジョーダン・ピックフォードが96分にコップ・スタンドの前でディボック・オリジに「決勝ゴールをプレゼントした」こと(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)、その前は10月にマンチェスターシティが85分に得たPKを、リヤド・マフレズが外したこと(試合結果は0-0)、そして今回のウーゴ・ロリスと、Liverpoolにポイントを献上する相手のミスは、スタンドのファンの大声援だけの成果だろうか?と、試合後の記者会見に詰めかけたジャーナリストたちは、誰もが同じ疑問を心に抱いていた。

    「神様はLiverpoolファンかもしれない」と、ジョークを言いながらファンは、チームに対する誇りを語り合った。「内容はひどかったが、17年前の悪夢の繰り返し?と不安を抱く隙もなかった。ピッチの上の選手を見ていて、絶対に諦めないという気迫が感じられたから」。

    「同点にされた後のスタンドの声援は、私がLiverpoolに来て以来のベストと言える程に素晴らしかった」と、ファンを称賛したユルゲン・クロップは、劣勢の試合で得た勝利について語った。「首位になれるチームは、必ずどこかで運に恵まれていると思う。ラッキーな勝利を得ることは、それはある意味不可避なこと」。

    「ただ、シーズン最終戦を終えた時点で首位にいられるとしたら、それは我々全員の意志と決意と態度のたまもの」。

    マネは、その意志と決意と態度を身に付けるに当たって、クロップの影響が大きかったと断言した。「監督は、僕がLiverpool入りした最初の日から始まって、ずっと変わらずに信頼を注いでくれた。監督に恩返しすることが僕の務め」。

    「食べて行くために、生き残るために、ミラクルを起こすために必死に働く道を歩んできた僕にとって、チャンスが来た時には絶対に逃さない。どんなに小さな望みでも食らいついて、目標を実現させる」。

    その態度が、Liverpoolが残り6回のカップ決勝を克服するために必要と言える。

    我がチームのスカウサー

    インターナショナル・ウィーク入りしたばかりの3月21日に、元エバトン(2006–2009)かつ元マンチェスターシティ(2009–2014)のセンターバック、ジョリオン・レスコットが、今季のプレミアリーグの優勝争いに関して、古巣びいきの発言で話題を集めた。それは、マンチェスターシティのチーム力の優位ぶりを強調する意図で、「Liverpoolからマンチェスターシティのチームに入れる選手は誰もいない」と唱えたものだった。

    レスコットのこの発言は、リバプール・エコー紙では、「元エバトン選手としての偏見に基づく見解」と皮肉交じりで取り上げたのに対して、マンチェスター・イブニング・ニュース紙では、「心は今でもシティにある」と温かい歓迎で、両ファンの笑いを引き出した。

    ただ、シティ・ファンの間では、「レスコットが次にシティに来る時には、レジェンドとして迎えられるべき」と前置きした上で、「でも、本音を言うと、数人の選手はシティのチームに入ると思う」という議論が交わされた。結論として、圧倒的多数のシティ・ファンが、フィルジル・ファン・ダイクとフルバック2人を上げた。

    「Liverpoolのフロント3が超一流であることは確かだ。でも、シティも攻撃陣は超一流の選手が揃っているので、他と取り換える必要性は全く感じない。恐らく、Liverpoolファンも同じ意見だと思う。GKもしかり」と、冷静に唱えた。「ただ、ファン・ダイクと、アンディ・ロバートソンとトレント・アレクサンダー・アーノルドのフルバック2人がシティに来てくれれば、チーム力アップだと思う。この3人は、ペップ・グアルディオーラの戦術にも順応してバリバリ活躍してくれるだろうし」。

    シティ・ファンの見解は、まさにLiverpoolファンの意見と一致していただけでなく、中立のメディアの評価でもあった。特に、Liverpoolが5-0と圧勝したワトフォード戦で、「5つ星(※5得点)」のヘッドラインに交じって、「全5アシストがフルバックから出た」と、ロバートソン(2アシスト)とトレント(3アシスト)を絶賛する記事が相次いだ。

    そしてその試合では、Liverpoolファンによるトレントの歌がスタンド・デビューを飾ったのだった。「アレクサンダー・アーノルド、我がチームのスカウサー」という歌に、トレントは、SNSでファンへの感謝メッセージをポストした。「嬉しかったです。ありがとうございます!僕がこのチームのスカウサーです!」。

    かくしてトレントが、ファンから熱烈に慕われ、世間の高い評価を受け、ライバル・ファンから羨望の視線を集めるまでに成長しつつある様子を、秘かに笑顔で見守っていた人物がいた。それは、3月13日のCLラスト16のバイエルン戦(試合結果はLiverpoolが3-1で勝ち抜き)に際して、BTスポーツの特別番組にゲスト出演した、「1981年のバイエルン戦でヒーローになった元祖スカウサー」、ハワード・ガイルだった。通算わずか4出場という短い選手生活ながら(Liverpool在籍は1977–1983)、主力の負傷のため、いきなりCL準決勝のひのき舞台に立つことになった(試合結果は1-1でLiverpoolが決勝進出)。

    お父さんはシオラレオネから、お母さんはナイジェリアから移住し、マージーサイドで生まれ育ったガイルは、Liverpool FC初の黒人選手として、その後のジョン・バーンズ(1987–1997)らの先陣となった。世界中からスーパースターが集まる今のプレミアリーグとは違い、当時のイングランド・リーグは比較的閉ざされており、人種差別が日常茶飯事だった中で、地元のクラブでプレイできる誇りを表現したガイルは、Liverpoolのクラブ史上に名を残す存在となった。

    「トレントの成長を見て、心から誇りに感じている」と、ガイルは語った。「トレントが出てきてくれたことは本当に嬉しかった。地元出身の黒人選手として、30年以上に渡ってその記録を保持していた私としては、やっとその肩書を引き継ぐ選手が出てきたのだから」。

    「向上心が強く自信に満ちているトレントは、きっと超一流選手になると確信している」と、ガイルは目を細めた。

    大先輩のガイルの願いを背に、トレントは、地元の少年たちが自分のように夢を実現させる土壌を作るべく、スポンサーからの収入を地元コミュニティに還元する計画を立てていた。

    「僕は、自らファンとして育った地元のクラブでプレイできる幸運に恵まれている」と、トレントは目を輝かせて語った。「この町の子供たちが、夢はかなうのものだと思えるようになって欲しい」。

    2度あることは3度?3度目の正直?

    3月17日のフラム戦の前に、地元紙リバプール・エコーが「2度あることは3度、は避けたいクレイブン・コテージでの重要な試合」という見出しでプレビュー記事を掲げた。勝てばLiverpoolは、FAカップ準々決勝のため試合がないマンチェスターシティに2ポイント差の首位に浮上する状況にあった。

    「2009年、2014年ともに、クレイブン・コテージでのインジャリータイムの決勝ゴールをきっかけに、Liverpoolはプレミアリーグ優勝争いを激化させた」と、同紙は直近2回のタイトル争いシーズンを振り返った。

    2014年2月12日には、Liverpoolは前試合でアーセナルに5-1と快勝し、自信を高めて臨んだが、先制されて窮地に追い込まれた。72分に同点、インジャリータイムのPKで3-2と大逆転勝利を収めたフラム戦は、その後の11連勝のスタート台となった。2009年4月5日には、1ポイント差の2位という酷似した状況で臨み、0-0で終わるかと見えたインジャリータイムに、気迫のゴールで1-0と3ポイントを勝ち取った。

    「今回は、プレミアリーグ6連敗で今季2度目の監督クビという状況にある上に、通算失点70のフラムに対して、インジャリータイムまで待たずに決めたいLiverpoolは、シーズン末のタイトル争いの結末も、『3度目の正直』にしたいと願っている」と、同紙は締めくくった。

    ふたを開けるとLiverpoolは、中立のアナリストが「今季のプレミアリーグ最優秀選手賞ほぼ確定」と口をそろえる程に安定した守りを見せているフィルジル・ファン・ダイクが、派手なミスを犯してライアン・バベルに同点ゴールを献上した末に、82分のPKで2-1と勝ちを収めた。

    試合前に、バベルが「オランダ代表チームで一緒にトレーニングしているので、フィルジル・ファン・ダイクの弱点は知っている。プレミアリーグの選手はまだ誰も気づいていないようだが」と豪語した話がイングランド中のヘッドラインを飾った。試合後のインタビューで、「あの同点ゴールの場面が、秘密の弱点?」と問われて、バベルは「いや、違う!」と強固に口を閉ざしたことで、必然的にファン・ダイクに矛先が向かった。

    「ミスはうっかりが原因。ものすごく悔しかったし、自分で自分を激しく怒った」と、開口一番に反省を語ったファン・ダイクは、バベルの「弱点を知ってる」発言について問われて、「あの話を聞いて、ライアンは賢い奴だと思った」と苦笑した。最後はジョークで「この後、代表チームに一緒の飛行機で行くことになっている。その時に、ライアンとはじっくり話をするつもり」と笑った。

    Liverpoolファンの間では、ファン・ダイクのミスよりも、「スポットに立った時の、ミルナーの氷のような冷静さに胸が熱くなった」と、決勝PKを決めたジェームズ・ミルナーへの称賛で盛り上がった。「サブで出てきて最初にやったことが、クリアし損なってファン・ダイクのミスに繋がったとは言え、PKを得た時にはミルナーの存在感の大きさを痛感した」。

    そしてミルナーは、スカイスポーツのインタビューで、「監督から、選手を落ち着かせるようにと指示を受けたばかりで、最初にやったことが、ボールを蹴り上げてフィルジルにプレッシャーを与えたことだった」と、笑いながら語った。それをユルゲン・クロップが引き取った。「ミリーがサブで出てきてインパクトを発揮したかって?もちろん!ミリーが出なかったら1-0のままだったと思う。ミリーが出て2-1になった」。ミルナーもクロップも、ジョークを言いながら、余裕の笑いを浮かべていた。

    「ミルナーが、自分の責任を主張することで、世間の批判がファン・ダイクに集中しないようにブロックした。並行して、ミルナーに対する信頼からクロップがそれに乗った。軽い口調で交わされるジョークの中に、チームの明るい雰囲気が伺えるようだ」と、ファンは笑顔で拍手を送った。

    「クレイブン・コテージのハットトリックは、今回はインジャリータイムまでは待たなくて済んだが、ミスから同点にされたピンチを克服して、Liverpoolは堂々とタイトル争いへの宣言を掲げた」と、エコー紙は続けた。

    プレミアリーグでの「ミルナーが得点すると負けない」記録が51に伸びた、その背景には、常に対戦相手のGKの動きを分析し、PKの時にどちらにジャンプするかを研究しているというミルナーの、日々のハードワークに基づく自信と経験があった。

    「クレイブン・コテージでの前回の苦しい勝利の後で、Liverpoolはマンチェスターシティにタイトルを明け渡して終わった。でも、その2014年との大きな違いは、その時のシティはミルナーの経験と実績に裏付けられた冷静さという武器を持っていたこと」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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