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    スペシャルなシーズンを目指して

    10月20日のジョン・スミス・スタジアムで、Liverpoolはハダースフィールドに1-0と勝って、チェルシー(試合結果は1-1)、マンチェスターシティ(試合結果は0-0)と2試合続いた無勝をストップした。同時に、プレミアリーグ開幕から9試合で合計わずか3失点というクラブ記録を塗り替えた。

    「アリソンとフィルジル・ファン・ダイク効果」と題して、地元紙リバプール・エコーは、126年のクラブ史上で最高のディフェンスを誇る現チームを分析した。ファン・ダイクが入る前の、昨季前半は、プレミアリーグ24試合の失点28と、1試合平均1.17だったのに対して、ファン・ダイクが入ってから現在までの23試合では、合計13失点で1試合平均0.56という顕著な差が出ていた。

    「ファン・ダイクがいかなるクロスをもブロックする。まれにセンターバックを突破しても、ゴール前にはアリソンが控えている。£75mと£65mの移籍金が『効果的な投資』だったことは誰も疑わない」。

    ファン・ダイクの移籍金について、かつては「サウサンプトンが雪辱を込めてLiverpoolからぼったくった」と笑ったアナリストが、今では競ってファン・ダイク称賛を唱えていた。中でも、マッチ・オブ・ザ・デイのレギュラー解説者の一人であるクリス・サットンは、「ファン・ダイクは、現役選手の中ではリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドに続く世界No.3」と主張するに至った。

    「サットンの誉め言葉は言い過ぎかもしれないが」と前置きした上で、エコー紙は、「対戦相手の正直な告白」を紹介した。スカイ・スポーツの実況にゲスト出演したワトフォードのストライカー、トロイ・ディーニーが、「何度も言うが、僕はファン・ダイクが大嫌いだ」と言ったものだった。

    「彼と対戦するのは、ひとえに悪夢だ。彼は体格も良すぎるし、強すぎるし、スピードがあり過ぎる。その上、ボール・スキルがあり過ぎて、強烈な闘志を持っている」と、ディーニーは顔をしかめた後で、ニヤッと笑って言った。「そして、彼は全身にスプレーをかけまくって試合に臨むようだ。彼が僕を抜いて走って行く時に、スプレーのいい匂いが漂う。思わず弱音が出てしまう」。

    Liverpoolファンは、爆笑しながらディーニーのユーモアセンスに拍手を送った。「プレミアリーグの対戦相手のチームはみな、ファン・ダイクにはかなわないことを知っているから、ファン・ダイクを避けてもう一人のセンターバックに集中攻撃を仕掛けているように見えるが、このディーニーの証言から、それは真相だと確認できた」。

    ファンのファン・ダイクに対する信頼は厚かった。「ファン・ダイクが来てからは、コーナーを与えても爪を噛むことなく安心して見ていられるようになった」と、誰もが頷いた。そして、ファンの間で「ファン・ダイクの真価は、プレイだけでなくリーダーシップにある」という見解でも一致していた。

    「主将と副主将が二人ともミッドフィールドから全体を見ている。フロントの中ではボビー(フィルミーノ)がリーダー格。そして守りではフィルジルがしっかり締めている」と、パートナーのジョー・ゴメスがファン・ダイクへの信頼を語った。

    この夏以来、折に付けファーストチームのトレーニングに参加するようになったアンダー21のセンターバック、ナット・フィリップスは、「ファン・ダイクのようなワールドクラスの大先輩と一緒にトレーニングする中で、得られるものは莫大」と、頬を染めた。

    若手から憧れのスターとして崇拝され、チームメートから信頼され、ファンから熱烈な支持を受け、中立のアナリストから過分なまでの誉め言葉を貰い、対戦相手の選手から恐れられているファン・ダイクは、常に冷静でしっかりと足を地に付けていた。

    「フロントも含め、チーム全員で協力し合って守るからこそ、クリーンシートができている」と、ファン・ダイクはクラブ記録達成の背景を説明した。「ハダースフィールド戦では反省点もたくさんある。向上すべきことは多いと認識している」。

    「今のチームは、全員が同じ目標に向かって前進している。スペシャルなシーズンにしたい、という意欲に燃えている。ずっと先のことを見るのではなく、1試合1試合ピッチの上でやるべき責任を果たすことが重要だということは承知の上で、今のみんなで力を合わせて歴史を作りたいと思っている」。

    ユルゲン・クロップ監督就任3周年

    今季2度目のインターナショナル・ウィークに突入した10月8日に、Liverpoolは重要なマイルストーンを通過した。まる3年前のこの日、ユルゲン・クロップが監督として正式に発表されたのだった。地元紙リバプール・エコーのクロップ3周年記念特集記事は、クロップの就任挨拶の風景で始まった。

    「ユルゲン・クロップは、代表チームから帰還してくる選手が全員揃うまで待って、メルウッドで就任の初顔合わせを行った。そのミーティングには、食堂のスタッフから警備員まで、文字通り全スタッフが出席した。選手たちにクラブのスタッフ一人一人を紹介し、クロップは言った。『全員の名前を知ってるかい?君たちが試合で頑張れるために、日々支えてくれている人たちだ』と」。

    クロップが重要視した「チーム」には、選手はもちろん、クラブのスタッフに加えて、ファンも含まれていたことは誰もが知るところだった。

    「私が来た時のLiverpoolは、大きな問題を抱えていた。誰もが自信を失くして暗い表情だった。自分たちが勝てるとは思っていなかった。それは違うのだ、と私は思った。まず最初にやるべきことは、懐疑心を信頼に変えることだった」。

    クロップの言葉は瞬時にファンに浸透した。それまでチームやクラブに対する意見が分裂していたファンは、誰もが懐疑心を捨ててクロップに対する信頼で一致した。「どこを見ても誰もが笑顔を浮かべている。ファンの分断を解消しただけで、既にクロップは大きな業績を達成した」と、ファンは頷き合った。

    「私はマジシャンではない。一気にプレイを飛躍的に上昇させることはあり得ない。私のやり方は、1歩1歩努力して固めて行くこと。それは時間がかかるが、必ず良くなるのだと忍耐力を持って欲しい」と、クロップは語った。

    その言葉が実現されたことは、誰もが確信していた。「クロップのLiverpoolは、プレミアリーグで最も面白いフットボールをするチーム。それは、一時はダメだと見られていた選手の潜在能力を引き出し、若手を育て、加えて効果的な戦力補強でクロップが達成したこと」と、ファンの意見は一致していた。

    それは、Liverpoolファンのひいき目ではなかった。このインターナショナル・ウィーク中に、チェルシー監督のマウリツィオ・サリが母国イタリアのメディアのインタビューで語った言葉でも同期を取っていた。

    9月29日のスタンフォードブリッジでのプレミアリーグ戦で、ファイナル・ホイッスルの直後に、サリがクロップと交わした会話の内容について明かしたものだった(試合結果は1-1)。

    「10分前に、タッチラインでクロップと言葉を交わした。我がチームが1-0で勝っていたのだが、クロップは笑顔で言った。『いい試合だと思いませんか?』と。私は『まったくそう思う!』と言った。だから、同点で終わった後で、クロップとはまるで旧友のように抱き合った。たとえ同点ゴールが出てなかったとしてもクロップは同じことをしただろうと確信している」。そして、サリは締めくくった。「プレミアリーグにはこのような、フットボールの魅力がある」。

    試合後の記者会見で、サリがLiverpoolとクロップを絶賛し、今季のプレミアリーグの優勝候補だと断言したのに対して、イングランドのジャーナリストが「あなたはLiverpoolが29年間リーグ優勝していないことを知っていますか?」と質問した。「知っている。何故そんな長いこと優勝してないのか、私には理由はわからない。ただ、それは過去のことで、今のLiverpoolは勝てるチームだと思う」と、サリは真顔で答えた。

    最後のリーグ優勝が29年前であるだけでなく、最後のトロフィー(2012年のリーグカップ優勝)が、既に7年前のことだった。トロフィー無しで終わった監督はロイ・ホジソン(2010年)が最初だったことからも、Liverpoolのクラブ史が栄光と同音異義語であることは明らかだった。

    それだけに、全国メディアや中立のアナリストの中では、「今季、もしLiverpoolがまたもトロフィー無しで終わったら、クロップのプレッシャーは非常に大きくなるだろう」という声は少なくなかった。

    Liverpoolファンは、9月26日にリーグカップ敗退し、まず最初のトロフィーの可能性を早々に失ったことに内心がっかりしながらも、「トロフィーの有無に関わらず、クロップの下でのチームの向上は明らか」と、クロップ支持は揺るがないものだった。

    「10-20年後に振り返って、トロフィー無しで終わった監督の中ではユルゲン・クロップが最も良いフットボールをした、と言われたくない。Liverpoolは、トロフィーは必ず取れると確信している。ただ、それはいつかは分からないが」。クロップはメディアのプレッシャーを認識していた。

    「正直、3年前にはここが自分のクラブだと瞬時に思ったわけではなかった。それまで14年間ドイツで監督をやってきて、ドイツのフットボールは隅から隅まで知っていたが、イングランドでは何もかも新たな発見だった。ただ、それは私が望んだ新たなチャレンジだった。このビッグ・クラブでチャンスを貰えたことに感謝しているし、光栄だと思っている」。

    「3年経って、私は監督として遥かに成長したし、今は心からここが自分のクラブだと思っている」。

    前進するために後退して達成した成功

    10月7日のプレミアリーグの首位攻防戦、Liverpool対マンチェスターシティは、世間の予想を大きく外し、無得点引き分けで終わった。得点力で定評がある両チームの対決は、プレミアリーグの超目玉戦となっていただけに、興奮もののエンターテインメントを期待していた第三者のファンは、「この90分、ペンキが乾くのをじっと見ていた方がワクワクしただろうに(※つまらない試合だったという意味の、イングランドの典型的な慣用表現)」と、一斉に顔をしかめた。

    BBCのハイライト番組では、この試合唯一の話題だったリヤド・マレスのPK失敗についてお座なりに取り上げた後で、次の議題に進んだ。

    「昇格チームのウルブスが、クリスタルパレスに1-0と勝って、8試合で15ポイントと好調を維持しています」という司会者の言葉を皮切りに、ウルブスの健闘ぶりで盛り上がった。

    オーナー交代をきっかけに、昨2017-18季にはポルトでCLを経験している注目のポルトガル人監督ヌノ・エスピリート・サントを任命し、2位に9ポイント差で2部優勝してプレミアリーグに復帰・昇格したウルブスは、ジョアン・モウティーニョ、ルベン・ネベスらを始め、ヨーロッパのビッグクラブから狙われているという噂が絶えないスター選手を抱える、今季の注目チームの一つだった。攻撃的で面白いフットボールが売り物のウルブスは、開幕早々の4戦目で、チャンピオンのマンチェスターシティに1-1と引き分けるなど、チームを問わずプレミアリーグのファンやアナリストから温かい拍手が送られる「好感度の高いチーム」となっていた。

    その中で、Liverpoolファンの視線は主将のコナー・コーディに注がれた。地元でLiverpoolファンとして生まれ育ったコーディは、Liverpoolのアカデミーチームで頭角を現し、イングランドの各年代のユース代表チームで主将を務めるに至った。ミッドフィールダーだったことと、濃厚なスカウス・アクセントで、ファンの間で「ミニ・ジェラード」というニックネームがささやかれたことがあった。しかし、Liverpoolでは1試合(89分のサブ)のファーストチーム経験に留まり、2014年夏に、21歳で当時2部のハダースフィールドへと去って行った。

    そのコーディが、昇格を決めた2017-18季のウルブスのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝き、ファンの絶大な支持を受ける主将としてプレミアリーグに戻ってきたのだった。

    「ウルブスの快進撃の立役者として、常に名が上がるのはモウティーニョやネベス。もちろんこの2人は素晴らしい。しかし、なかなか脚光を浴びないながら、主将のコナー・コーディの重要さは一筋縄ではない。試合を読む力は素晴らしく、タイトな場面でも常に冷静を保つ。パレス戦でもコーディの安定した活躍が目立った」と、BBCのレギュラー解説者であるアラン・シーラーが熱弁を振るった。

    折しも、イングランド代表チームが発表になったばかりだった。「コーディが代表入りしないのはおかしい」と、BBCのアナリストが一斉に紛糾した。

    9月のインターナショナル・ウィークが明けた頃に、デイリー・ミラー紙が「前進するために後退し、ボール・スキルの高いセンターバックとして評価されるに至った」というタイトルで、コーディの成功への道に焦点を当てた。

    「Liverpoolファンの家庭で生まれ、大好きなLiverpoolのアカデミーチームで育った僕にとって、Liverpoolを出るという決断は辛かった。でも、プロとして身を立てるためには試合に出られるクラブに行くことが必要だと思った」と、コーディは語った。

    ジェイミー・キャラガーを憧れのヒーローとしていたコーディは、2014年夏にLiverpoolを出て、翌2015年にウルブスに移籍した時には暫くライトバックでプレイしていた。本格的にセンターバックとして開花したのは、ヌノが監督となった2017-18季のことだった。「Liverpool時代に、キャラガーと一緒にトレーニングする機会に恵まれたお蔭で、試合を読むことを学んだ。その時の貴重な経験と、現監督から日々自信を貰っていることで、大きく成長できたと思う」。

    かくしてLiverpoolを出たコーディは、いったん下位ディビジョンに下がり、そこで成長を遂げてからプレミアリーグへと上った。

    「夏にウルブスが昇格した時、コーディの成長ぶりには感銘を受けた」と、Liverpoolファンは目を細めた。「Liverpoolのユースチームでミッドフィールダーとしてプレイしていた頃には、特にスペシャルなテクニックを持っていたとは思わなかったが、常に前向きで努力家でしっかりした考え方を持つ選手だった。ウルブスの主将として成功している姿はひとえに嬉しい」

    チームのためにポイントを稼ぐGK

    9月29日のスタンフォードブリッジで、Liverpoolはチェルシーと1-1で引き分けて、今季プレミアリーグ7試合目にして100%記録をストップした。しかし、ワールドクラスの超スーパースターで現在絶好調のエデン・アザールが前半早々に1-0とした後で、Liverpoolは得点チャンスを作りながらも実を結ばず、敗戦が見えてきた89分に、サブで出場したダニエル・スタリッジがゴール・オブ・ザ・シーズン候補の同点ゴールを決めた試合内容は、全国メディアの「優勝候補同士の対決にふさわしい白熱した試合」という絶賛を引き出した。

    選手の評点でスタリッジに10点満点の10点を付けたリバプール・エコー紙は、「85分のサブは通常は評価不能と避けるのだが、今日のスタリッジに対して満点以外を付けることはできない」と前置きした後で、マン・オブ・ザ・マッチにGKのアリソンを選出した。「1対1の場面で2セーブと、アリソンが単独でLiverpoolの望みを繋いだ」。

    BBCのチーム・オブ・ザ・ウィークを選出しているガース・クルックスが、エコー紙に同意した。「ゴードン・バンクス、ピーター・シルトン、レイ・クレメンスというフットボール史上最高の3大GKと共にプレイした経歴を持つ人間として、偉大なGKとは何か知っているつもり。ゴールの前に立ったら氷のように冷静であること。そしてアリソンにはそれが伺える」。

    これに対して大きく頷いたLiverpoolファンは、「ワールドクラスのGKは1シーズンに10-15ポイントを稼ぐ」と、さっそくトップ6の各GKが「稼いだポイント」の集計を開始した。「ひいき目はあるが」と笑いながら、アリソンの通算ポイントをブライトン戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)の2とチェルシー戦の1で合計3とした。「ダビド・デヘアがワトフォード戦(試合結果は2-1でマンチェスターユナイテッドの勝利)で2ポイント稼いだので2位、それ以外の4人はまだ0ポイント」。

    期せずして、ユナイテッド・ファンの間でもLiverpoolファンのアリソンびいきを裏付ける議論が交わされていた。「現在のGKの中では、デヘアが世界一と言われているし、ショット・ストッパーとしては議論の余地はないと思う。ただ最近はGKにも11人目の選手としての役割が求められるようになって、デリバリーの正確さで秀でているアリソンやシティのエデルソンが次第に上がってきている」。

    アリソンのデリバリーについては、シーズン開幕早々にアンディ・ロバートソンが語った。「アリソンのゴールキックから攻撃が開始するというのが一つのパターンとなった。ディフェンダーとしては、常に安定した守りをするアリソンが後ろにいるのでありがたい。プリシーズンの途中から入ってきたアリソンは、最初から英語で話してきたし、すぐにチームに溶け込んだ」。

    これは、チェルシー戦の直後に報道された、アリソン本人のインタビューとも同期を取っていた。「W杯の大会前から既に、Liverpoolがローマと交渉していたので、ブラジル代表チームで一緒だったフィリペ・コウチーニョにLiverpoolのことをいろいろ質問した」と、アリソンは明かした。「コウチーニョは、Liverpoolのことをあらゆる面で評価していた。監督は素晴らしい人で、選手はみな気さくでいい人ばかり。それでいてビッグ・クラブの誇りと意欲を持っている選手ばかりだ。クラブは構造がしっかりしていて安定しているし、地元は住みやすく家族もすぐに馴染んだ、と」。

    「それは、僕自身がLiverpoolと対戦した機会などから抱いていた印象と全く一致するものだったし、Liverpoolに入る決意をしたきっかけの一つとなった」。

    他の要素としてファンの熱心な応援を上げた。「CL準決勝でアンフィールドでプレイした時に、スタンドの熱い声援に感銘を受けた。ローマの方が優勢だった時にもファンの声は絶えなかった。ファンがチームを後押しして勝たせている、という印象を受けた」。

    アリソンがLiverpoolで初の失点を記録したレスター戦(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)の、相手ケレチ・イヘアナチョをドリブルで抜こうとしてボールを奪われたミスの後で、Liverpoolファンは異口同音に唱えた。「アリソンは優れたフットボール頭脳を持っている選手。このミスから学ぶだろうことは間違いないし、ミスの直後にも冷静さを失わず、落ち着いてセーブする強い精神力を持っている。ミスを絶対にしない選手などいない。毎試合で出しているデリバリーと安定したセーブで、そのごくまれなミスの分は十分に補える」。

    ファンの信頼を、アリソンは裏付けた。「レスター戦のミスから僕は2つ学んだ。状況を適切に判断し、危なそうなときは絶対にドリブルせず、スタンドに蹴り上げること、そして、プレミアリーグのレフリーは他リーグとは違うということ。あの程度のコンタクトではファウルは取らないのだから、今後は必ずレフリーの笛を待たずに起き上がること」。

    アリソンがその言葉を実行していることは明らかだった。ライバル・ファンですらレスター戦のミスを話題にしなくなった頃に、プレミアリーグでの最大のテストとなったチェルシー戦で、£65mの移籍金は正当だったと言われるに至った。

    「Liverpoolに来て、何もかも順調。家族は既にここの生活に順応して幸せな生活を送っている。お蔭で僕はフットボールに専念できている」と、アリソンは笑顔を浮かべた。

    「でもプロとして成功だと言えるためには、チームが多くのトロフィーを取ること」。

    ここはアンフィールド(This is Anfield)

    9月18日、「今季のCL優勝候補同士の対決」と注目を集めたPSG戦で、Liverpoolは内容的には終始優位に立った末に、インジャリータイムの決勝ゴールで3-2と勝利を収めた。

    翌日のレキップ紙は、両チームの選手の評点を掲げた記事で、83分の同点ゴールを出したキリアン・エムバペと、同アシストのネイマールに10点満点の4点を付けるなど、「完敗を喫した」地元フランスのPSGを酷評し、Liverpoolとアンフィールドのヨーロピアン・ナイトを称えた。

    「You'll Never Walk Aloneが威圧的に流れる中で、アンフィールドのスタンドは、チームと一体になってCL初戦を圧勝で飾った」。

    リバプール・エコー紙は、試合前にネイマールが「アンフィールドが有名なスタジアムであることは、もちろん知っている。でも僕は既に6月にブラジル代表チームの試合で経験している(親善試合のクロアチア戦、試合結果は2-0でブラジルの勝利)」と、軽く語った言葉を引用し、「アンフィールドのヨーロピアン・ナイトを知らないネイマールは、後から激しく後悔することになるだろう」と、冷ややかだった。

    「昨季のCL準々決勝の前に、マンチェスターシティのレロイ・サネが『アンフィールドのファンが熱心だということは知っている。プレミアリーグで既に経験しているから(試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)。でも、それに威圧されることはない。僕は大声援の中でプレイする方が好きだから』と言った。ふたを開けると、アンフィールドのヨーロピアン・ナイトに圧倒されたシティは3-0と屈服し、サネはトレント・アレクサンダー・アーノルドに手玉に取られて終わった。ネイマールも同じ運命をたどるだろう」。

    予測が的中し、シーズン第一回目のヨーロピアン・ナイトとなったアンフィールドを、リバプール・エコー紙は、「ユルゲン・クロップ時代の通算でトップ5に入るパフォーマンス」と評点を付けた。1位は2016年4月のドルトムント戦(EL準々決勝、試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)、2位は2016年5月のビヤレアル戦(EL準決勝、試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)、3位は2018年4月のマンチェスターシティ戦、4位は2018年4月のローマ戦(CL準決勝、試合結果は5-2でLiverpoolの勝利)だった。

    「マンチェスターユナイテッド戦(2016年ELラスト16、試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)もトップ5入りしないくらい、数多くのヨーロピアン・ナイトを実現してきたアンフィールドは、通常は後半のノックアウト・ステージにより盛り上がるが、今季は第一戦目からピークに達した」と、現在の好調ぶりを表現した。

    かくして、リバプール・エコー紙が強調し、敗れた側のレキップ紙が脱帽し、イングランドの全国紙が一斉に持ち上げたアンフィールドのヨーロピアン・ナイトについて、筋金入りのエバトン・ファンで現在はアナリストとして活躍しているジョーイ・バートン(現フリートウット・タウン監督)が、「確かに、ヨーロッパのカップ戦のアンフィールドは凄い。でも、それを何故プレミアリーグの試合で出せないのか?」と水を差した。

    これに対して、Liverpool陣営が反論を保留にしていたところで、ユルゲン・クロップが間接的に回答を出した。9月22日のアンフィールドで、Liverpoolがサウサンプトンに3-0と勝ってプレミアリーグ開幕6戦6勝とした試合の後だった。

    「チームが全力で勝ちを目指して頑張って、良いプレイをすれば、スタンドは一層沸き上がる。スタンドが沸けばチームはより良いプレイができるようになる。それはピッチの上とスタンドとの相乗効果。例えばサウサンプトン戦では、前半はチームの攻撃もスタンドもハイピッチだったが、後半はやや硬くなった」。

    「PSG戦とサウサンプトン戦とでスタンドの声援が違う、と言われれば、それは違う試合だから当然としか言えない。ピッチの上が低調な時にもスタンドには最高の盛り上がりを求めるのは勝手だと思う。私は全く問題ない。逆に、良くないプレイをしてしまった時にもブーイングしたりというネガティブな反応がないことを嬉しく思っている」

    「今のLiverpoolは、ピッチの上のパフォーマンスと、試合結果と、スタンドの声援が全てタイアップして良い状態にある。私が対戦相手のチームの監督だとしたら、アンフィールドに来るのは気が重いと感じるだろう」と、クロップは真顔で語った。

    それは、今季第一回目であり通算5位のヨーロピアン・ナイトを食らったPSG監督のトーマス・トゥヘルが、試合後のインタビューで漏らした一言が裏付けていた。通算1位の試合で既にインジャリータイムの決勝ゴールを経験していたトゥヘルは、トンネルに掲げてある標識を読み上げて、つぶやいた。「ここはアンフィールド(This is Anfield)。まさに、ここの人たちが得意としていることをやられてしまった」。


    古風な考え方で最新のテクニックを持つ選手

    今季が開幕したばかりの頃に、LFCTVが特別番組として放映した、ジェームズ・ミルナーとアンディ・ロバートソンの人生相談Q&A(ジョーク)が、ファンの爆笑を買った。現在のLiverpoolで、チームメートから「面白い奴」と言われているミルナーとロバートソンが、ファンからのジョークの質問にジョークで答えるという企画だった。

    その中で、ロバートソンが妙に真面目な反応をしたものがあった。「彼女との初デートですが、どこに行けば良いかアドバイスください」という質問に対して、ロバートソンが「まだデートしてないのだから、『彼女』とは言えないんじゃないの?」とムキになったのだった。ミルナーが絶句しているうちに、ロバートソンが「僕は映画に行ったのだが、£20札(※約3,000円)しか持ってなくて小銭がなかったので困った」と続けた。

    これを見たファンは、「いかにもロバートソンらしい」とほほ笑んだ。それは、昨季CL決勝出場が決定した直後に、ロバートソンがFourFourTwoのインタビューで、奥さん(彼女)とのなれそめを語ったものだった。中学校の1年下だった奥さんと、長年の友達付き合いの末に、ロバートソンがダンディーユナイテッドでプロのフットボーラーとして身を立てることになった時に晴れて「彼女」になったという。

    ちょうどその頃、アマチュアのクラブでフットボーラーの道を目指していた18歳のロバートソンが、「この年齢でお金がない生活とは、つまらないもの」とTwitterでつぶやいた、6年前のポストが飛び交った逸話があった。そして、幸せな家庭を築いた今になって、奥さんから「まだ友達だった頃、あなたは早朝の0時に『誕生日おめでとう』のメッセージを送ってくれた。待ち構えていたんだな、と思った」と言われて、「バレていたのか」と赤面したとのこと。

    「フットボール界の底辺とも言えるクイーンズパークから、努力で成功を勝ち取った真面目なロバートソンは、その古風な考え方で私生活をしっかり固めている」と、ファンはほほ笑んだ。£20札のエピソードも、象牙の塔にいる現在のプレミアリーグのスター選手とは対極にあった。

    「ロバートソンが大好きじゃないLiverpoolファンなど存在しない」と、誰もが頷いた。「古風な考え方で、同時に、プレミアリーグでもトップを争うレフトバックとして、最新のテクニックを持つ選手」。

    そのファンからの応援に対して、ロバートソンは、常に感謝を抱いていると語った。最も気に入っているファンのジョークとして、ロバートソンが高速道路を走ってシティのチームバスを追っかける合成写真を上げた。これは、プレミアリーグのマンチェスターシティ戦で(試合結果は4-3でLiverpoolの勝利)、ロバートソンが走って相手ゴールを襲った場面を元にしたものだった。

    「全力疾走でチームの勝利をもたらしたロバートソンは、その後CLでもシティの目標を奪った。それは、5年前にハムデン・パークのスタッフとして働いていたロバートソンが、大スター選手のバンサン・カンパニをお世話した時には予想すらできない事態だった」と、FourFourTwoは説明した。

    「2013年にベルギーがスコットランドとの親善試合に来た時に(試合結果は2-0でベルギーの勝利)、負傷欠場していたカンパニをスタンドに案内して、マッチプログラムを渡した。もっとも、カンパニは覚えてないと思うけど」と、ロバートソンは笑った。

    そして、2018年9月7日にスコットランド代表主将としてハムデン・パークのピッチに立ったロバートソンと対戦したカンパニは(試合結果は4-0でベルギーの勝利)、「プレミアリーグに来る前からロバートソンを知っていた」と証言した。「2013年にハムデン・パークで彼と会ったという話は聞いたが、もちろん、覚えていた」と反論し、「彼のことを知っていたから、僕はゲームでは彼を自分のチームに入れていた。優秀なレフトバックは希少だから」と、ロバートソンを称賛した。「少年時代にボールボーイをやっていた経歴を持つ選手は少なくないし、ロバートソンもスタジアムで働きながら、Liverpoolのレギュラーの座を勝ち取るに至った成功談の一つ」。

    カンパニが本当に、5年前のスタジアム・スタッフを覚えていたかどうかはさておき、ロバートソンの成功談に関しては、誰も疑う人はいなかった。

    戦力としてロバートソンを見初め、セルチックで挫折してからプレミアリーグのハル・シティの主戦力になるまでのジャーニーに感銘を受け、Liverpoolのレギュラーに育て上げたユルゲン・クロップは、代表チームの主将に抜擢されたロバートソに対して、改めて信頼と期待を語った。

    「アンディは人格的にも優れていて、今後長いことリーダーとして勤める選手であることは間違いない。フットボール界でのキャリアを開始してから、4-5年の間で達成したステップアップは素晴らしい実話だ。まだ24歳という若さで、既にリーダーシップを身に付けた。これから更に伸びて行くことは間違いない」。

    最初のトロフィーの壁

    9月8日の週末はインターナショナル・ウィークで、多くの選手たちはそれぞれの代表チームへと出かけて行く。そして、既に代表引退しているジェームズ・ミルナーは、その週末を利用してスコットランドのセルチックに行き、アストンビラ時代のチームメートだったスティリアン・ペトロフと共同のチャリティ・マッチを主催する。

    そのチャリティ・マッチのプロモーションの一環で、9月1日の注目戦だったオールドファーム(※グラスゴーのセルチックとレンジャーズのダービーの呼称。試合結果は1-0でセルチックの勝利)に関して意見を問われたミルナーが、「熱烈なセルチック・ファンとして生まれ育ったアンディ・ロバートソンから毎日、セルチックのことを聞かされているうちに、レンジャーズひいきになった」と、持ち前のユーモア精神で語り、Liverpoolファンの間で爆笑が沸き起こった。

    これは、2016年のリーグカップ準々決勝でアンフィールドにリーズ・ユナイテッドを迎えた試合のマッチ・プログラムで、ユルゲン・クロップが、熱烈なリーズ・ファンとして有名なミルナーをネタにして書いた言葉だった(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)。

    「リーズ・ユナイテッドのことはドイツにいた頃から知っていたが、Liverpoolに来てからというもの、ミルナーから毎日聞かされているのでより詳しくなった。ミルナーは毎日、リーズがいかに素晴らしいかを教えてくれる。質問したわけでもないのに、ノン・ストップで喋り続けるというのが真相だが」。

    Liverpoolファンは、ミルナーのパロディに笑いながら、同時にチーム内の明るい雰囲気を再確認した。「ロバートソンとミルナーが仲が良いことは有名だが、クロップも巻き込んでジョークを散らす様子は、今のLiverpoolのチーム・スピリットを象徴している」。

    セルチックでのチャリティ・マッチで、ミルナーのチームの監督として一役担うことになっているクロップが、ファンの予測を裏付けた。「ミルナーは根っからのリーダー。その経験と実績は、若手が多い選手たちの指針になっているだけでなく、監督に対しても堂々と自分の意見を表明する程」。

    折しも、9月1日のレスター戦で(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)、ミルナーはLiverpoolでのリーグ通算100出場を記録し、プレミアリーグの3クラブで100出場の偉業を達成した。更に、ボビー・フィルミーノのゴールでリーグ通算アシスト数を80とし、プレミアリーグの歴代記録ではデビッド・ベッカムと並ぶ7位となった。

    「ミルナーのことは、ドルトムント時代にマンチェスターシティと対戦したことがあったので、もちろん知っていた。ただ、シティでは主としてウィンガーだった。私がLiverpoolに来た時に、ミルナーがセントラル・ミッドフィールダーのポジションを求めて入ったということは聞いた。ただ、シティでの記憶もあり、本人の意思にそぐえなかった。レフトバックで使うことになった時、本人からはっきり希望を伝えられながらも、チームにとって必要だったから敢えて続行した」。

    そして、ミルナーが最も希望していたセントラル・ミッドフィールダーに戻ってからというもの、特に今季は開幕4試合で4スタートと、クロップにとって不可欠な戦力となった。

    「ミルナーは今、32歳?フットボール界では36-37歳まで第一戦でプレイし続ける選手がいるが、ミルナーは間違いなくその一人。他のポジションでプレイした経験も含め、日々良くなるよう努力し続ける、模範的なプロ」。

    クロップの言葉にファンは大きく頷き、「ミルナーは試合の度に良くなって行く。リベナ(※)がドーピングで禁止されても驚かない」と、ジョークを言って笑った。
    ※リベナ:英国の人気ソフトドリンク。昨季ローマでCL決勝進出を決めた時に、BTスポーツのアナウンサーから「イタリアの赤ワインで祝杯を上げる?」と聞かれて、アルコールは飲まないミルナーが、「いや僕はリベナの瓶の上で大の字になる方がいい」と笑って答え、イングランド中で大流行したネタだった。

    ミルナーが2015年にフリーエージェントとしてLiverpool入りした時、「キング・ケニーの背番号7をミルナーが着る」と、心配を唱えたファンも少なくはなかった。それから3年経った今、誰もがミルナーを重要な選手として語るようになった。

    「たぶん、最後はリーズ・ユナイテッドに帰るだろう。その時は盛大に送り出したい。そして、引退後にコーチとして戻ってきて欲しい」。

    ファンの絶対的な支持と監督の信頼を受け、若手選手から尊敬されているミルナーは、「トロフィーを取ることが必須」と、今シーズンの目標を語った。Liverpoolに来て以来、リーグカップ、EL、CLと決勝で敗れる失意を経験し、全員が意欲に燃えている上に£170mの戦力補強で更に自信を付けている現在、狙いは一つ上ることだと、ミルナーは宣言した。

    「最初のトロフィーの壁を破ることは最も難しい。しかし、それを突破すればその後はどんどんより良いものが続くようになる」。

    ブライトン戦の後で

    8月25日、Liverpoolがアンフィールドでブライトンに苦戦を強いられ、1-0と勝った戦の後で、ブライトンの地元紙ブライトン・インディペンデントが、「アルビオンは、超一流GKアリソンの、投資額に見合うスーパーセーブがなければ、首位Liverpoolに同点ゴールという堂々たる試合をした」と、チームを絶賛する記事を掲げた。

    「昨季はアウェイでわずか11ポイントしか取れなかったが、アンフィールドで見せたようなプレイを続ければ、今季はその成績を飛躍的に向上させるだろう」と、同紙は誇らしげに結論した。

    実際に、Liverpoolは昨季ブライトンには12月のアウェイで5-1、5月のホームで4-0と楽勝だったが、ブライトン監督のクリス・ヒュートンは、ノリッジ時代(2012–2014)にも3試合で15失点と大差の連勝を記録していた。

    そして、昨季の初対戦で5-1と世間の予測を裏付けた試合後に、ヒュートンがユルゲン・クロップとの握手を拒否した事件がしばしヘッドラインを飾った。「クロップが必要以上に派手な喜び方をして、大敗を喫し続けているヒュートンに対して傷に塩を塗った」と、全国メディアはクロップ非難に沸いたものだった。

    ほとぼりが冷めた頃に、クロップは「ヒュートンの握手拒否事件」の真相を明かした。ファイナルホイッスルの直後にクロップがヒュートンに挨拶に行った時に、たまたま目の前をサディオ・マネが通ったので、クロップはマネを止めて肩を抱いた。するとヒュートンが、「相手チームの監督との握手を最初にやるべきなのに、これ見よがしに自分の選手と勝利を祝うとは失礼だ」と、怒って行ってしまったという。

    「私が悪かった。すぐにブライトンのアシスタントに事情を説明して、謝罪を伝えて欲しいとお願いした。最後は許してくれたと思う」と、クロップはしょんぼりした表情で語った。

    この話を読んで、Liverpoolファンは一斉に納得した。2016-17季にLiverpoolのプレイヤー・オブ・ザ・シーズンに輝いたマネは、サラーが来て右ウィングから左にポジションが変わった影響もあり、ややスタートに苦戦した。9月のマンチェスターシティ戦(試合結果は5-0でシティの勝利)で退場を食らって以来、調子が低下していた時のことだった。

    「全国メディアは、マネの不調の原因は『モー・サラーに人気を奪われたのでねたんでいる』などと悪意に満ちた憶測を書き立てている。そんな時に、ブライトン戦では試合に出られなかったことで気落ちしていたマネに対して、クロップは心配していたに違いない。相手監督に対する無礼を失念するくらい」。

    そして、マネの不調はその次のエバトン戦(試合結果は1-1)で、ゴール前でチームメートがフリーだったのに自分でシュートに行き、外したことでどん底を突いた。

    その後、レフトバックのアンディ・ロバートソンとの連携が徐々に磨きがかかり、1月のバーンリー戦(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)でマン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せたマネは、一気に本来の調子を取り戻すに至った。

    「サディオとは何度か1対1で会話した」と、クロップは明かした。「エバトン戦では、パスを出さなかったことで世の中から相当批判が出た。パスすべきだったか?という点ではその通り。ただ、私はそれについては何も言わなかった。ハーフタイムのチーム・トークでも、試合後も。何故なら、サディオの目を見た瞬間に、本人の気持ちが分かったから」。

    「人間ならば必ずミスは犯す。ミスは何も悪いことではない。同じ間違いを20回も犯し続けない限りは。1つ2つ良くないことがあっても、他は全て『良い』のだから、良い面を伸ばせばいいプレイが出来るようになる」。

    今季のブライトン戦の前に、クロップは、すっかり自信を取り戻したマネについて語った。「サディオは安定して、常に良い動きをしている。自分でもこんなに素晴らしい選手だったのだ、と驚いているに違いないくらいに冴えているし、どんどん良くなっている」。

    しかし、その攻撃陣が後半はガス抜きしたかのように収束し、1-0で終わった試合の後で、ブライトン・インディペンデント紙は、Liverpoolの今季の予測で締めくくった。

    「ベストとは言えない内容の試合で3ポイントを確保するチームが、本当に『勝てるチーム』というのは真相。昨年のLiverpoolならば、恐らくアルビオンは1ポイントを奪取しただろう。つまり、Liverpoolは引き分けを勝利に変えるアップグレードに成功したということ。今季のプレミアリーグで、マンチェスターシティの独占を破る最有力候補としてLiverpoolを上げる人は多いが、その予測が的を得ていることは誰も否定できない」。

    カルト・ヒーローとして去った'ラッギー'

    プレミアリーグは、この夏の移籍ウィンドウを開幕前にクローズするという措置を採用した。それは、移籍交渉が続いている選手を抱えるクラブが「試合に集中できない」デメリットを訴え、賛成多数で決定したものだった。

    ふたを開けると、プレミアリーグは8月9日17:00に期限を迎えたが、ヨーロッパの他のリーグはまだオープンしていたため、「外国のクラブに選手を取られても、その代わりの戦力を補強できない」別のジレンマに陥ることになった。下位ディビジョンのクラブがローンで獲得する期限は今回の変更対象から外れたが、プレミアリーグに関しては、取る方に関してはローンも規制を受ける。

    そのため、来季は再び8月31日に戻すという案が浮上し、現時点では、昨年は開幕前のクローズに賛成だったうち2クラブが既に「元に戻す」派に鞍替えしたという。

    ともあれ、この夏の戦力移動の可能性はまだ残っているという状況は現実だった。

    Livepoolでは、8月17日のイタリア・リーグの移籍期限日にラグナル・クラバンのカリャリ入りが決定し、早速そのデメリットを受けることになった。

    昨季終幕の負傷者続出状況の記憶が生々しいファンは、一斉に頭を抱えた。しかし、この決定の背景には、クラバン本人が「試合に出られるクラブ」を求めて希望したものだったことが判明し、誰もが納得せざるを得なかった。

    「2016年夏に、£4.2mの移籍金でアウクスブルクから来たクラバンは、2年間の在籍中に53出場を記録した。比較的短い期間の滞在で、華々しい活躍の思い出をいくつも作ったとは言えないが、Livepoolファンにとってはガリー・マッカリスター(2000–2002)、ジミ・トラオレ(1999–2006)、イゴール・ビスチャン(2000–2005)らと並ぶ『カルト・ヒーロー』となった」という地元紙リバプール・エコーの記事に、圧倒的多数のファンが深く頷いた。

    ファンの間で'ラッギー'のニックネームで親しまれていたクラバンは、常に真っ先にチームシートに乗る存在とは言えなかったが、必要とされた時には必ず期待に応える堅実なベテラン選手だった。

    「試合に出られなくても文句ひとつ言わず、試合に出れば常に安定したプレイを見せてくれた模範的なプロ。ラッギーのような選手は貴重な存在。でも、確かにLiverpoolではレギュラーではないとしても、ベンチで出番を待つだけというのはもったいない実力と経験を持つ選手。32歳という年齢を考えると、試合に出られるクラブに行くという決断はもっともだと思う。残念だが、気持ちよく送り出したい。新天地での成功を祈っている」。

    ファンがクラバンについて語る時、必ず話題に出るのが、昨季のアウェイのバーンリー戦の94分の決勝ヘッダーだった(試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)。それは、クラバンにとってLiverpoolでの唯一のゴールとなった。

    劇的な新年プレゼントでトラベリング・コップに絶叫をもたらしたクラバンは、試合後のインタビューで、ポツリと語った。「3ポイント取れたことは非常に重要だった。でも、僕はスポットライトを浴びるのは慣れてないので」。

    エコー紙の記事は、「ヒーローになった時でも、バックページを埋めるに十分なネタを与えてくれないような無口な選手だった」と、温かいジョークを込めて、クラバンの控えめな人柄を象徴するエピソードを続けた。「クラバンが最も流ちょうに喋った場面の一つが、Liverpool入りが決まった直後の母国メディアのインタビューだった」。

    「宝くじに当たったような気分」と、クラバンは頬を染めて語ったという。「僕は、生まれ故郷のビリャンディで、墓地でボールを蹴り始めた。そして、選手生活のファイナル・ステージに至って、フットボールの天国というべくクラブでプレイするチャンスを得た」。

    超スター選手が名を連ねるプレミアリーグでは、比較的目立たない移籍として入ってきたクラバンは、誰からも心からの感謝を込めた激励を受けて、胸を張って出て行くカルト・ヒーローになった。

    アレ、アレ、アレ

    8月10日に開幕したプレミアリーグは、昨季のトップ5(※)が揃って3ポイントを確保する順当なスタートを切った。
    ※マンチェスターシティがアーセナルに2-0、マンチェスターユナイテッドがレスターに2-1、トットナムがニューカッスルに2-1、Liverpoolがウエストハムに4-0、チェルシーがハダースフィールドに3-0と勝利。

    得失点差で首位に立ったLiverpoolは、多額の戦力補強投資でプリシーズン戦を好調に終えて、「マンチェスターシティにチャレンジする最有力候補」と騒がれる中で、そのプレッシャーを払いのけての快勝だった。

    さっそく母国ドイツのメディアから「£175mの戦力補強のプレッシャー」について問われたユルゲン・クロップは、「本音を言うと、私はそんな大金は使いたくなかった」と苦笑した。「しかし、1月にフィリペ・コウチーニョを取られた収益金(£146m)を、貯金として寝かせておくべきだったとは思わない。確かに、大金の移籍に関する私の考え方は変化した」。

    「私がやるべきことは、Liverpoolをより強いチームにすることだから」。

    クロップの言葉に、Liverpoolファンは誰もが深く頷いた。クロップが、マインツでもドルトムントでも、少ない予算で獲得したり育成した戦力を、最大限に生かして勝てるチームを作る監督だったことは誰もが知るところだった。しかし、今のプレミアリーグで、しかもクロップの就任時点で既に大きな差を付けられていたチームを追い抜くためには、それなりの投資は必要だった。

    「収益金を差し引いたネット支出では、まだまだマンチェスターの2クラブの足元にも及ばない。そして、クロップが見込んだ選手がクロップを慕って来てくれれば、£175mの投資は必ず実を結ぶ」。

    それは、アリソンが「レアルマドリードを蹴ってLiverpoolを選んだ理由」として、証言した言葉でも裏付けられていた。「監督やチームメートはもちろん、クラブ全体が僕を心から歓迎してくれて、頼りにしてくれていると確信できたから」。

    そして、ファンが今のチーム一行を、やさしい笑顔を浮かべながら見守る背景には、チーム内の良い雰囲気だけでなく、チームとファンとの近さがあった。

    アンフィールドでの唯一の試合となったプリシーズンの最終戦(対トリノ、試合結果は3-1でLiverpoolの勝利)を、「ファミリー・デイ」としてチーム一行とファンとの交流の場としたのは、クロップだった。その日は朝の10:00から市内各地で、試合前にはアンフィールドのファミリー・パークで、コンサートなど様々なイベントを催し、試合後には選手がスタンドのファンにサインや写真のサービスを実施した。2時間もの時間を割いて、ファンと対話を楽しんだ選手たちの姿があった。

    「我々チーム一行は、ファンが応援してくれるからこそ頑張れる。そのファンに対して、感謝を伝えてこれからも一緒にやってくださいとお願いするためのイベントにすることは、昨季のうちに既に計画し始めたこと」と、クロップは語った。

    「地元の人々が、チケットが入手できないなどの理由で試合に来れない、という話を読んだ。そのような人々に楽しんでもらえる場を作りたかった」。

    クロップのファンに対する「感謝」は、言葉だけではないことは誰もが知っていた。クロップが、昨季2月のCLラスト16(対ポルト、試合結果は5-0でLiverpoolの勝利)で生まれ、依頼スタンドの定番になったファンの「アレ、アレ、アレ」を、Youtubeで見るほどに気に入っていると、何度も話題にしていたことは周知の通りだった。

    そして、合衆国ツアーのマンチェスターユナイテッド戦(試合結果は4-1でLiverpoolの勝利)の前に、地元リバプール出身のミュージシャンであるジェイミー・ウェブスターが、現地のサポーターズクラブの集会で生演奏を披露していた時に、クロップが飛び入りして「アレ、アレ、アレ」を合唱した場面は、ファンの間でクロップ人気を更に高めた。

    「ジェイミーとは面識はなかったが、彼が『アレ、アレ、アレ』を歌うのをYoutubeで何度も見て知っていた。ライブをやっている時にいきなり入って行っては失礼じゃないかと心配したが」と、クロップは笑った。

    「私はあの歌が大好きだ。あの歌を演奏するジェイミーを、いつも感激して見ていた。本人が私を見て、あんな風に喜んでくれたことは、ひたすら嬉しい」。

    かくして、クロップがチームに明るく自信に満ちたプレイを引き出し、ファンと一緒に戦って初戦を勝利で飾った翌日に、スイスのメディアが、何の脈絡もなくジェルダン・シャチリの移籍の「裏話」を掲げた。

    「シャチリの違約金がわずか£13mと知って、他のビッグクラブが獲得に動いた。しかし、クロップの動きが早かったことに加えて、監督の『人間としてのマナー』が決め手となった」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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