チームのゴール

    4月14日、サディオ・マネ、モー・サラー、ボビー・フィルミーノのゴールでLiverpoolがボーンマスに3-0と勝った試合後のインタビューで、ジョーダン・ヘンダーソンが、「モーが3点とも自分のゴールだと主張した」と、ニヤッと笑ってジョークを言った。見ていたファンは、「選手も我々ファンと同じジョークを言っていることが分かった」と爆笑した。

    これは前週4月7日のトットナム対ストーク(試合結果は1-2でトットナムの勝利)で、決勝ゴールとなったクリスティアン・エリクセンのフリーキックが、試合後にハリー・ケインのゴールとして記録が修正された出来事をネタにしたものだった。4月9日付けで、トットナムのクラブがプレミアリーグに対して正式に申請したというニュースが報道された時、イングランド中が蜂をつついたような騒ぎになった。

    今季のプレミアリーグの得点ランキングで、その時点で29のサラーと4差で2位に付けていたケインが首位奪還宣言をした直後のことで、ストーク戦の得点記録申請の意図は、誰の目にも明らかだった。「ゴールが決まった直後にハリーがガッツポーズをしたから、彼が触ったのだろうと思う。僕は全く問題ない」と、エリクセンは笑顔で語った。

    Liverpoolファンの間ではさっそくジョークが流行した。CL準々決勝のマンチェスターシティ戦(試合結果は1-2でLiverpoolの勝利)でサラーが同点ゴールを決めた直後に、「明日になったら、ケインが『ネットに入る前に僕がヘッドを当てた』と修正申請をするだろう」と笑った。

    「自分の個人記録達成のために、チームメートからゴールを奪う行為の是非はさておいても、クラブが後押しする意図が分からない」と、第三者のファンが驚いて目を丸くする中で、マウリシオ・ボチェティーノは、「本人たちが話し合って決めたことで、クラブに直接掛け合って申請した。私は何も絡んでない」と冷静だった。「私にとってはチームが3ポイントを取ったことが重要で、誰が得点したかはどうでも良いことだから」。

    そして、4月14日のマンチェスターシティ戦(試合結果は1-3でトットナムが敗北)で、得点がなかったケインに対して、今季プレミアリーグ通算30ゴール目で差を5と広げたサラーへの温かい拍手が、イングランド中から沸き上がった。

    BTスポーツのインタビューで、「あなたを得点王にしようと、チームメートが一生懸命パスを出していますね」と聞かれて、サラーはにっこり笑った。「チームメートが得点チャンスをたくさん作りだすことは良いこと。それはチームが勝つためにやっていること。僕は毎試合でも得点したい。チームが勝つために」。

    得点王を意識しているか、との誘導尋問に対して、「意識してないと言えば嘘になる」と、サラーは笑顔で答えた。「でも、チームが勝つために得点を目指している。好調に得点を重ねているのは僕だけでない。ボビー・フィルミーノも昨季より記録を伸ばしている。全員が勝つために頑張っている」。

    Liverpoolで活躍するサラーの雄姿を歓喜で見守る母国エジプトで、名士として知られる元コーチのハッサン・シェハタが、サラーについて語った。「サラーはこれだけ成功した今でも、母国に忠実で、浮ついたことは一切せず、地に足を付けてプロとしてフットボールに全力を捧げている。アルコールも飲まず、信仰深く、そして家族や友人知人に対する感謝を忘れない」。

    サラーが母国や故郷の様々な施設や団体に財政的な貢献をしている実話は数多く、3月にも、難病に苦しむ少年(お父さんの知人の息子さん)の治療費を寄贈した上に、激励のメッセージを送り続けているというエピソードが伝わった。

    「息子にとってサラーはヒーロー。そのヒーローから電話で励ましの言葉をかけてくれているお蔭で、苦しい治療にも頑張れる」。

    サラー熱はマージーサイドでも確実に燃焼していた。市街地にある、サラーのお気に入りのアラブ料理レストラン'バクチッチ(Bakchich)'では、今年3月から「サラーが得点してLiverpoolが勝った試合の後は、フムスの無料サービス」を実施しているという。

    「サラーが必ず注文する料理ということでキャンペーンを企画した。以来、サラーの得点記録と同じく、フムスの人気が高まった。サラーはピッチの上だけでなく、街中でも郷土のイメージアップに貢献しているヒーロー」と、同レストランのオーナーは微笑んだ。

    かくして、チームメートから信頼され、母国の人々から崇拝され、クラブの地元市民から慕われているサラーは、Liverpoolファンの絶対的支持も集めていた。

    BTスポーツのインタビュアーが得点王絡みの質問に固執する後ろで、スタンドのLiverpoolファンが歌う「モー・サラーがウィングを走る」チャントが鳴り響いた。ファンに向かって笑顔で手を振りながら、質問を無視して「チームが勝つことが重要だから」と答えたサラーに、インタビュアーが根負けしたかのように言った。「ファンの歌がさえてますね」。

    サラーは目を輝かせた。「この歌、大好き!」。


    得点を生み出すミッドフィールダー

    4月4日のCL準々決勝、対マンチェスターシティ1戦目で、アレックス・オクスレイド・チェンバレンのゴールに絶妙のパスを出したジェームズ・ミルナーが、今季CLでのアシスト記録を8とした(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。シーズン中のアシスト数としては、2013-14季のウェイン・ルーニー(マンチェスターユナイテッド)、2016-17季のネイマール(バルセロナ)と並ぶCL史上トップとなった。

    しかも、その8アシスト達成の出場時間は、ルーニーが765分、ネイマールが797分に対してミルナーは僅か452分という快挙だった(※CLのアシスト記録は2003-04季から集計されることになった)。

    「昨季はレフトバックとして出ていたミルナーが、昨年夏の戦力補強でミッドフィールドに再シフトされることになった時に、本来のポジションに戻ったとは言え、ここまで重要な戦力になるとは期待していなかった」と、Liverpoolファンは嬉しい誤算を語り合った。

    ちょうどその頃、昨年6月にミルナーの古巣の一つであるアストンビラ(所属2008-2010、その前にローンで2005–2006)の地元紙バーミンガムメールが、「ビラは果たしてジェームズ・ミルナーの穴を埋めることができるだろうか?」という見出しの記事を掲載した。

    「ミルナーがマンチェスターシティに引き抜かれて5年経った2015年の夏に、その疑問を投げかけた。記者の予測はNOだったし、更に2年経った今も状況は変わらない。ビラでの89試合で20ゴール、最後の2009-10季だけで7得点12アシストを記録した『得点を生み出すミッドフィールダー』ミルナーの穴を、単独で埋められる選手を探すことは不可能に近いタスクだった」。

    「Liverpoolのユーティリティ・プレイヤー(※)ミルナーが、相手ディフェンスを突き破り、コンスタントにゴールを生み出す姿は、ビラがその代わりの選手を探し続けて見つけられずに苦しんでいる現状を物語っている」と、同記事は哀愁に満ちていた。
    ※ユーティリティ・プレイヤー:いろんなポジションで使われる選手。チームの中心人物として専門的な役割を果たす選手ではない、どちらかと言えばネガティブな印象を持つ表現。

    「僕はユーティリティ・プレイヤー」と、ミルナー本人がバーミンガムメール紙の記事を裏付けた。「昨年は、監督から命じられてレフトバックをやった。それはチームのために必要なことだったから、全力を尽くした。今季はミッドフィールドに戻してもらえることになったので嬉しい。勘を取り戻すまでに少々時間がかかるかもしれないが、自分の希望するポジションだから頑張りたい。ミッドフィールドの方がよりゴールに貢献できるから」。

    本人も覚悟した通り、ミッドフィールドでは即座にレギュラーの座に復帰できたわけではなかった。しかし、試合に出れば常に安定したプレイを見せたミルナーは、次第にピッチの上でも重要な要員になっていた。

    「試合に出られなくても文句ひとつ言わず、リズムが掴めないと言い訳するわけでもなく、出れば必ず信頼に応える今季のミルナーは、2015年に入って来た時に期待した通りの戦力になっている。両フルバック、ウィングバック、セントラル・ミッドフィールド、両ウィング、PK担当、シティ時代には臨時ストライカーだったこともある。どのポジションでも及第点以上出してきた経験とノウハウを、ピッチ内外で発揮している」と、ファンは笑顔で語りあった。

    かくして、アシストのCL記録に並んだシティ戦の試合後の記者会見で、ユルゲン・クロップは、「ミルナーのミッドフィールドでの活躍について感銘を受けているか」という質問に対して、即座に首を横に振った。「感銘を受けるかって?そんなことはない。何故なら、ミリー(ミルナー)は最高の選手だということを、私は知っているから。今のミリーの活躍は、本人の実力そのもの」。

    「ミリーは本当に素晴らしいフットボーラー。経験豊富で、チームメートに対する影響力ではこの上なく重要な人物」。

    さてLiverpoolは、4月10日にCL準々決勝2戦目に臨む。エティハド・スタジアムでは、9月のプレミアリーグ戦で5-0と大敗した記憶を手繰るまでもなく、1戦目の3-0の「貯金」は何の保証でもないことを、クロップは強調した。「CL準々決勝は今がハーフタイム。アンフィールドでの試合後に、ハーフタイムに3-0で勝っているからと言って喜んだ選手など、誰一人なかった」。

    ミルナーが、監督の言葉を裏付けた。「シティの攻撃力は誰もが知る通り。我々は、チーム全体で守る必要がある。一人でも気を抜けばそのギャップを突かれることは自明。しっかり守って、そして得点して勝つことを目指す」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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