FC2ブログ

    優勝の実績が良い選手を作るのではない

    プレミアリーグの6月17日の再開に向けて、着々とステップを踏んでいた5月31日、シェフィールドユナイテッドの地元紙ヨークシャー・イブニング・ポストが、「最後にシェフィールドユナイテッドが6月にリーグ戦を戦った時、ブレーズ(※シェフィールドユナイテッド)はLiverpoolにリーグ優勝をもたらした」という見出しで、1947年を振り返った。

    今季、世界的パンデミックのために試合が中断し、通常ならばユーロやW杯などの代表チームの大会限定で、クラブの試合はあり得ない6月・7月にプレミアリーグの残日程が入った例外的な事態について、過去の事例を引き出して、いずれもLiverpoolがリーグ優勝に輝いたという共通点を紐解いたものだった。

    1946-47季は、20世紀最悪という悪天候に見舞われ、12月から2月にかけて延期・再日程となった試合が相次いだことから、最終日が6月14日、ブラモール・レーンでのシェフィールドユナイテッド対ストークシティの1試合だけが残った。5月31日に全日程を終えていたLiverpoolは、ストークに2ポイント差の首位だった。当時のイングランドリーグのシステムは、勝利は2ポイントだったが、得失点差で圧倒的に勝っていたストークは、最終日に勝てば優勝だった。

    そして試合は、シェフィールドユナイテッドが2-1で勝ち、「ブレーズがLiverpoolにリーグ優勝をもたらした」結末となった。開幕前に優勝候補と言われていたストークは、逆転を目指して猛攻撃に出た後半に、「レフリーの怪しげな判定の数々に涙をのんだ。ただ、ストークは、この試合の前にベスト・プレイヤーのサー・スタンリー・マシューズを売りに出してしまったのだから、勝てなかったのは自業自得」とは、同紙の結論だった。

    たまたま同期をとるように、リバプール・エコー紙が「前回、Liverpoolがリーグ優勝を待たされた1947年」として、同じ話を掲載した。ストークの敗戦の原因として、マシューズの移籍を上げたところまではヨークシャー・イブニング・ポストと共通していたが、同記事では、ブラモール・レーンの試合内容より、Liverpool陣営の動きに焦点を当てていた。

    インターネットも携帯電話もなかった時代のことで、自分たちの優勝の行方を追う手段がなかったLiverpoolファンのために、クラブが知恵を絞り、ブラモール・レーンの試合より15分遅れのキックオフで、アンフィールドでエバトンとの親善試合を行ったのだった。この試合はLiverpoolが2-1で勝ったが、満員のファンの関心はアンフィールドのピッチ上ではなく、スタンドに掲げられたブラモール・レーンの試合経過に集中していたことは言うまでもなかったが、ピッチの上の選手たちも、掲示板に目が向いていたという。

    かくして、6月14日まで待たされた1947年はシェフィールドユナイテッドが、日付という点では最遅記録となった2020年6月25日はチェルシーが、Liverpoolにリーグ優勝をもたらした。

    記録という点では、残り6試合となった今季、Liverpoolは、128年前のサンダーランドの「シーズン通してホームで全勝」にあと2勝、2018年のマンチェスターシティの100ポイントにあと4勝、同シーズンの最多ポイント差19などのチーム記録に加え、モー・サラーの3年連続得点王やアリソンのゴールデン・グラブという個人賞があった。

    ファンの間では、可能な限り多くの記録達成を目指すべき、という声と、来季に向けてのプリシーズン期間が十分に取れないだろうという前提で、残り試合で若手に経験を積ませるべきだという声が混在していた。ただ、誰もが一致していたのは、優勝という最大の目標を達成したチームに対する信頼だった。

    「2週間の間、他の試合の結果を祈るしかなかった1947年は、番外で開始したシーズンにそこまで行き着いた結果の優勝として大いに誇るべき。そして今季、3か月の不明瞭な期間をも克服して達成した優勝は、それを目指して進み続けたチームが自力で勝ち取ったもの。今季がどのような数字で幕を閉じようとも、次の目標への土台になることは間違いない」。

    ユルゲン・クロップが、ファンの信頼を裏付けた。「ファンが歌う'Allez Allez Allez'(アレ、アレ、アレ)の、『我々は決して止まらずに進み続ける』という一節は、今のチームを象徴している。今のチームはまさにその精神力を持っている。みんなで力を合わせて多くの優勝を達成したが、これで満足したから一休み、ということはあり得ない」。

    「自分の向上すべき点を直視してそれを克服するために日々努力し続ける。チームとして、クラブとして、一個人として、達成した業績を自慢するようなおごりは決して持たず、常により良くなれるよう働き続ける」。

    「優勝の実績が良い選手を作るのではない。向上するためには日々の努力しかない」。

    30年間の悲願が達成された日

    6月25日、スタンフォードブリッジでチェルシーがマンチェスターシティに2-1と勝って、Liverpoolのプレミアリーグ優勝が正式に決定した。残り7試合での優勝決定は、イングランドのトップ・ディビジョン史上記録だった(※)。
    ※これまでの最短は、残り5試合で優勝を決めた2000-01季のマンチェスターユナイテッド、2017-18季のマンチェスターシティ。

    イングランドのメディアは一斉に、Liverpoolの30年ぶりのリーグ優勝のニュースを掲げた。そのうちの一つ、BBCは「30年間の悲願」という見出しで、最後の優勝シーズンだった1990年から今季までの30年間に起こった出来事を振り返った。

    「1990年5月にLiverpoolがリーグ優勝した時、誰もが定例行事と受け止めた。それはLiverpoolにとっては過去18年間で11回目のリーグ優勝だったから。以来、通算238人の選手がLiverpoolの19回目の優勝を目指した。次の優勝までに30年もかかるとは誰も思わなかった」。

    並行して、ブリーチャー・レポートが「Liverpoolの30年間の悲願」というタイトルの、1分間の動画を流した。1990年に、お父さんに連れられてアンフィールドに向かう少年の姿で始まるその動画は、少年が成長し、お父さんと肩を並べてアンフィールドに通う姿に変わった。お父さんは次第に年を取り、少年はお父さんの車いすを押してアンフィールドに通うようになった。マンチェスターユナイテッドがヘッドラインを独占したニュースを背景に、お父さんは天国へと行ってしまい、少年は1人でアンフィールドに通う。その後、奥さんと一緒にアンフィールドに通うようになった少年は、2020年には娘を連れてアンフィールドに向かった。

    この動画を見て涙をこらえたLiverpoolファンは、BBCの記事を神妙な表情で見つめた。

    「2019-20季、対戦相手を片っ端から降参させたLiverpoolは、誰の目にも無敵の王者だった。唯一、Liverpoolをストップさせたのは、世界を襲ったパンデミックだった」。

    プレミアリーグが中断していた3か月余りの間に、世間の状況はめまぐるしく変動した。一時期は、「試合の再開は無理。30年ぶりの優勝にあと一歩に迫っているLiverpoolには気の毒だが、シーズンを中止し、2019-20季を無効とすべき」という声が、中立のメディアやアナリストの間で圧倒的多数を占めた。

    Liverpoolファンは、「97ポイント取りながら優勝できなかった昨季の後で、今季この戦績で、シーズンが無効で終わるなどと考えられない」と、ひたすら祈った。

    昨季は97ポイントの快挙が空手で終わってしまったプレミアリーグの失意を跳ね返して、クロップが「メンタリティ・モンスター」と表現した通り、チームはCL優勝を達成した。

    この30年間でCL優勝2回の記録は、ファンにとって誇りだった。ライバル・ファンが「チャンピオン(※リーグ優勝)になったことがないチームが『チャンピオンズ』リーグ(CL)で優勝するとは矛盾では?」と、嫌味のジョークを発するのを見て、Liverpoolファンは、「嫉妬だ」と冷笑してきた。しかし、CL(ヨーロピアン・カップ)通算6回優勝のうち、最初の4回(1977、1978、1981、1984)は、文字通りリーグ優勝チームのみが出場するフォーマットだったことは、誰もが認識していた。

    その30年間に、2位で終わったシーズン(2002、2009、2014)は、その翌季または翌々季に監督が交代し、ゼロからスタートするサイクルを辿った。「あと一歩で優勝を逃した」後の立て直しがいかに困難か、この30年間を見てきたファンは痛い程実感していた。

    それだけに、クロップと「メンタリティ・モンスター」たちの偉業は顕著だった。

    チェルシー対マンチェスターシティの試合の後で、スカイスポーツは、レギュラーのジェイミー・キャラガーに加えて、70-80年代の立役者だったサー・ケニー・ダルグリーシュ、グレアム・スーネス、フィル・トンプソンがリモートで出演し、Liverpoolの優勝の特集番組を放映した。Liverpoolのチーム一行は、前日のクリスタルパレス戦(試合結果は4-0でLiverpoolの勝利)のウォームダウンでホテルに戻った後で、半日滞在を延期してチーム全員でこの試合を見ることにしたという。

    インタビューに駆り出されたクロップは、Liverpoolのレジェンドからのお祝いに答えて、「あなた方がこのクラブの歴史を作ったのです。そして、ビル・シャンクリー、ボブ・ペイズリー、ジョー・フェーガンという人々が。そして、スティーブン・ジェラード。20年近くもの間、このクラブの歴史を担いだ。私にとっては、そのクラブの歴史があったから、選手たちにモチベーションを与えることは簡単でした」と、語った。

    「あなた方は30年間待ったのですからね」。クロップの目は、明らかに湿っていた。

    「ファンの方々に喜んでもらえていると思うと、ひとえに嬉しい。この優勝はあなた方のためのものです。ロックダウン中で一緒に祝えないけど、ファンの方々とは心でお祝いを共有しています。30年間の重荷を肩から降ろして、力を合わせて今回の歴史を作ったファンの方々と、共に祝っています」。


    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

    最新記事
    最新コメント
    リンク
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    QRコード
    QR