ボビー・フィルミーノ

    9月16日、Liverpoolはバーンリー戦に1-1と引き分け、前週のマンチェスターシティ戦の大敗(5-0)のショックからの立て直しを図って臨んだアンフィールドでの2連戦に2分と失意の週を締めくくった(9月13日のCLセビーリャ戦で2-2)。その翌日、母国ブラジルのメディアのインタビューで、フィリペ・コウチーニョが初めて「夏の移籍のゴタゴタ」について語った。

    「他のクラブから誘いを受けて、僕自身も家族も乗り気になった。それは誰もが知るところだと思う。非常に辛い1か月だった」と、コウチーニョは明かした。「しかし、それは過去の話。今は、Liverpoolで新たなシーズンを迎えて、全力を尽くすことに集中している。Liverpoolに対しては常に敬意を抱いてきた。偉大なクラブ、素晴らしいファン。トップの人々も」。

    「他のビッグ・クラブから興味を持ってもらえたのは光栄。でも、Liverpoolもビッグ・クラブだし、このクラブでプレイできることを誇りに感じている」。

    つまり、バルセロナに入る望みが絶たれた後で、コウチーニョは心機一転Liverpoolで頑張る、という決意を表明したのだった。

    これに対して、大多数のファンの意見は一致していた。「プレミアリーグ開幕戦の前日に移籍リクエストを出したことや、『架空の腰痛』で試合に出なかったなどについて、反感を抱き続ける気は全くない。Liverpoolの選手として留まったのだし、ピッチの上で過ちを償ってくれれば、心から応援する」。

    それは、セビーリャ戦で72分のサブで今季初出場を遂げたコウチーニョに対して、スタンドのファンが盛大な拍手で迎えたこととも同期をとっていた。同じように、この夏に出て行く噂の渦中になった末に留まった、他のクラブのスター選手が、ファンからブーイングの洗礼を受けた事例が多い中でのことで、全国メディアは「さすがLiverpoolファンだ」と称賛した。

    ただ、背景には、コウチーニョの「事件」の最中に、Liverpoolファンの間で、「結局、スペインの二大クラブから狙われたら、殆どの選手が、特にラテン系の選手が心を惹かれるのは仕方ないこと。その前提で、Liverpoolにいる間、このクラブに全力を捧げる選手に対しては、我々も全力で応援する」という決意があった。

    その中で、少なくないファンが指摘した。「コウチーニョは、半年前に契約を更新した際に、違約金条項を付けていなかったことが決定打となった。その意味では、狙われたのがボビー・フィルミーノだったらLiverpoolはあっさり負けていた」。

    フィルミーノが2015年にホッフェンハイムからLiverpool入りした時の契約に、100mユーロの違約金条項が付いていることは誰もが知っていた。現在の為替レートでは£92mだった。「2年前なら破格の金額だったが、今では『有能な選手』の相場。Liverpoolは、早いうちにボビーの契約から違約金条項を取り除くか、大幅に上げるべき」。

    実際に、Liverpoolファンの間で、フィルミーノ人気は急上昇していた。CL予備戦勝ち抜きを決めたホッフェンハイム戦(試合結果は4-2でLiverpoolの勝利)で、マン・オブ・ザ・マッチの活躍を見せたフィルミーノについて、地元紙リバプール・エコーは、「親しい友人であり、こんなカッコいい選手が同じチームにいるというのに、コウチーニョは何故、Liverpoolを出て行こうとしているのだろう?」と、半分ジョークを込めて絶賛した。

    この試合の解説を担当していたスティーブン・ジェラードも、フィルミーノを「超人的」とべた褒めした。「昨季末にLiverpoolのチーム一行に交じってオーストリアに遠征した時、トレーニングで最も感銘を受けたのがフィルミーノだった。こんな凄い選手と1シーズンでいいから一緒にプレイしたかった、と残念に思った」。

    プレミアリーグ初シーズンの2015-16季は、ややスロースタートを切ったフィルミーノは、その10月のユルゲン・クロップの監督就任をきっかけに、飛躍的に向上した選手の一人となった。「Liverpoolがフィルミーノを獲得した時に、正直、驚いた」と、クロップは来て早々に語った。「私は同じリーグの選手としてフィルミーノをずっと注目していた。でも、ホッフェンハイムはヨーロッパのカップ戦に出ていたわけでもないのに、どうやってイングランドのクラブがフィルミーノを発見したのか?と」。

    「同時に、ヨーロッパ中に知れ渡った選手でなかったからこそ、わずか£29mで獲得できたと思う。それは、Liverpoolのスカウト陣の有能さの証明でもある」。

    クロップの言葉通り、フィルミーノは、瞬く間にLiverpoolの攻撃陣の中枢となり、Liverpoolファンの「ボビー・フィルミーノ」チャントはスタンドの定番になった。

    それに対して、フィルミーノは、「ファンが付けてくれた『ボビー』というニックネームを気に入っている」と、笑顔で語った。「ファンが僕を名前をチャントしてくれるのを聞くと心から勇気が湧く」。

    セビーリャ戦のファイナル・ホイッスルの直後に、フィルミーノが目をくぼませていた表情がファンの脳裏に焼き付いた。PK失敗したことで、結果的に「決勝ゴールを逃した」責任を感じていた様子に、ファンは異口同音に叫んだ。「みんながボビーのような気合を持っていれば、毎試合楽勝だろうに」。

    潮流の逆転

    9月9日、インタナショナル・ウィーク明けのランチタイム・キックオフで、Liverpoolはマンチェスターシティに5-0と屈辱的大敗を食らった。37分に10人に減ったLiverpoolは、ディフェンスの脆さを暴露した上に、後半早々に白旗を上げた。昨季はトップ6との対戦で無敗(10戦5勝5分)、特にシティには最近5戦で4勝1分と優勢に立っていたLiverpoolにとっては、潮流が一気に逆転した結果となった。

    試合後に、シティの地元グレーター・マンチェスター警察のオフィシャルTwitterアカウントが、「警官が数名、イーストランド(※シティのホームスタジアム一帯の地名。地元ではシティのスタジアムの別名でもある)に向かっています。6万人の目撃者の前で、11人のグループが、無抵抗のLiverpool FCを叩きのめしたという暴力事件を起こしたためです」と、ジョークのポストで笑いを買った。

    これに対しては、「不謹慎だ」と目を吊り上げる人はなく、ユナイテッド・ファンも大喜びで、「Liverpool FCから、『リーグ優勝の望みを失った』という捜索願いは出てませんか?」などと、ジョークのコメントをポストした。これを受けて、「笑っていなければ泣けてしまう」とばかりに、Liverpoolファンは、「ジョナサン・モスはこの試合で笛を吹いたりして、レフリーになりすましていました。逮捕してください」と、ジョークに参加した。

    Liverpoolネタのジョークは全国メディアにも波及した。真面目なハイライト番組で、アナリストたちが「センターバックを補強しなかったために墓穴を掘った。第一希望のフィルジル・ファン・ダイクが得られなかったことは仕方ないにせよ、代わりの選手を取らなかったユルゲン・クロップの賭けは大失敗を見た」とまくしたてる中で、「サウサンプトンからファン・ダイクを拒否された分、元サウサンプトンの選手を取って帳尻を合わせた」と、期限日に正式発表となったアレックス・オクスレイド・チェンバレンの移籍を、ジョークに混ぜる声も出た。

    「チェンバレンは、オールド・トラッフォードでマンチェスターユナイテッドに8-2と大負けした試合がアーセナルでのデビューだった(2011年8月)。そして、アーセナルでの最後の試合ではアンフィールドでLiverpoolに4-0とぼろ負けし、Liverpoolでのデビューでシティに5-0と大敗した」とは、通常は親Liverpoolのインディペンデント紙の記事だった。

    世間一般の冷ややかな反応の中で、£35m(条件付きで最大£40m)という多額の移籍金でLiverpool入りが決まったチェンバレンに対して、ライバルチームのファンの意見は完全に二分していた。負傷欠場や調子の波で、ここ数年ぱっとしなかったという指摘と並行して、「今年の移籍市場では、£40mというのは多額でも何でもない。金額を無視すれば、戦力としてはプラスであることは確かだし、チェンバレンはアーセナルでは成長の余地がなかったように見える。クロップの下で一躍ステップアップする可能性は否定できない」という声も少なくなかった。

    それを裏付けるかのように、クロップがチェンバレンに対する期待を語った。「私がチェンバレンを始めて見たのは、ドルトムントが2014年にCLでアーセナルと対戦した時のことだった(試合結果は2-0でドルトムントの勝利)。サブで出てきて素晴らしい活躍をしたチェンバレンは、次のエミレーツでの試合ではスタートした(試合結果は2-0でアーセナルの勝利)。それ以来、私はチェンバレンを秘かに追うようになった。まだ24歳の若さながらプレミアリーグとCL、そしてイングランド代表チームでも経験豊富な選手」。

    クロップの言葉は、Liverpoolファンに期待をもたらした。「チェンバレン獲得をワクワクしながら待っていた、と言えば嘘になるが、しかしクロップが高く評価していると聞いて、勇気が湧いてきた」。

    地元紙リバプール・エコーは、チェンバレンの移籍を「潮流の逆転」と唱えた。「ウィリアン、モハメド・サラー、ディエゴ・コスタなどなど、近年の移籍市場で、Liverpoolはチェルシーに『狙っている選手』を取られ続けてきた。しかし今回は、アーセナルがチェルシーと移籍金で合意しながら、チェンバレンがLiverpool入りを希望してチェルシーを蹴った。アーセナルが週給£180,000を提示し、チェルシーはもっと高い話だったが、ロンドンの両クラブよりも低い給料という条件をのんで、Liverpoolに来た。それは、ユルゲン・クロップがロンドンの富よりも吸引力を持っているから」。

    インタナショナル・ウィーク明けにメルウッドに初出勤したチェンバレンが、エコー紙の説を裏付けた。「ユルゲン・クロップは、第三者として見ていた時から羨ましいと思っていた監督。ドルトムント時代からの実績と、そのフットボールが超一流だということだけでなく、選手と非常に緊密な関係にあること。この人なら、僕をより成長させてくれるだろうと思った」。

    そして、アンフィールドについての感想を問われてチェンバレンは、笑顔で答えた。「もちろんアーセナル時代に何度も来ているから、アンフィールドの素晴らしさは体験している。ホームの選手としてピッチに立ったら、どんな気持ちだろうと思う」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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