ウェンブリーのミニ優勝パレード

    プレミアリーグの試合がないインターナショナル・ウィーク中は、あちこちで様々な総まとめ特集記事が出没する。その一環で、デイリー・メール紙が「チェルシーの余剰戦力ベスト・イレブン」と題して、ケビン・デ・ブルイネ、ロメル・ルカク、モハメド・サラー、ダニエル・スタリッジらスター選手を集めて強豪チームを編成した。

    笑いながら見ていたLiverpoolファンは、「アンダー20W杯チャンピオンで最優秀選手のドミニク・ソランケと、アンダー17W杯チャンピオンで得点王のリヤン・ブルースターが、数年後にこのリスト入りするだろう」と頷きあった。

    ブルースターの準々決勝、準決勝での連続ハットトリックで決勝進出したイングランドが、5-2とスペインを破ってアンダー17W杯に輝き、全国メディアはお祝いムードで大騒ぎしていた時のことだった。

    しかし、全国メディアのバンドワゴンに先駆けて、Liverpoolファンの間でブルースターの成長が頻繁に話題に上がるようになったのは、昨季後半のことだった。ユルゲン・クロップの若手育成方針の一環で、ファーストチームのトレーニングに定期的に合流するようになったブルースターは、16歳で既に、年齢層をスキップしてアンダー23チームに定着しつつあった。

    「アンダー23でも全く見劣りせず、堂々とプレイしている。ブルースターは、順調に育てば、来季はファーストチームでカップ戦のベンチ要員に入るだろう」と、時間が許す限りユース・チームの試合も見に行く地元の熱心なファンの間で、頻繁に名前が上がる存在になった。

    そしてブルースターは、17歳になったばかりの昨季4月のクリスタルパレス戦で、プレミアリーグのベンチに入ることになった。ファーストチームの負傷者続出という状況の中で、Liverpoolは苦戦の末に1-2とパレスに敗れ、若手に経験を積ませる余裕がないまま終わったが、しばらく前からブルースターの成長を楽しみにしていたファンにとっては嬉しい誤算だった。

    それがブルースターにとって大きなステップとなったことは、9月にイングランド・アンダー17代表チームでW杯に出かける前に、LFC TVのインタビューで語った言葉からも明らかだった。

    「フットボール生活で最高の出来事は?」という質問に、「パレス戦でベンチ入りできたこと」と、ブルースターは大きな笑顔を浮かべた。「あの場に到達するまでには、僕はまだまだ成長しなければならない面がたくさんある。でも、プロのスター選手に交じって、プレミアリーグの試合でベンチ入りできたことは、僕にとっては超現実的な経験だった」。

    2014年に、14歳でチェルシーのアカデミーチームからLiverpoolに来たきっかけは、コーチのマイクル・ビールの転職だった。その時にお父さんが、ブルースターの成長のためにLiverpool入りを決めたのだった。「それは正しい決断だった」と、お父さんは振り返った。「Liverpoolに入ってからというもの、リヤンは毎日笑顔を絶やさない。リヤンはLiverpoolが大好きで、Liverpoolもリヤンを大切にしてくれている」。

    そのお父さんの言葉は、ブルースターに「超現実的な経験」を与えた時のユルゲン・クロップの説明でも裏付けられていた。Liverpool監督に就任して2日目に、アカデミーチームの親善試合を見学していた時に、クロップはブルースターと初対面した。

    当時15歳だったブルースターが、アンダー16チームの試合を50分で引き上げて、アンダー18の試合に出るようコーチから命じられた。小走りにクロップ一行の前を通り過ぎたブルースターは、ふと立ち止まり、おもむろに戻ってきて、クロップに自己紹介して握手を求めたという。

    クロップは「ものすごく気に入った!」と叫び、以来、ブルースターの成長を注目するようになったという。

    そして、ブルースターのW杯優勝達成に際して、クロップを始め、ファーストチームの先輩から次々とお祝いが飛んだ。トレーニングでよく面倒を見ているジニ・ワイナルドゥムは、「初めてファーストチームのトレーニングに来た若手は、普通は物おじして小さくなっているが、リヤンは違った。先輩に対する敬意を保ちながら、堂々と自分を表現した。見込みがあるなとピンときた」と、口をほころばせた。

    ファンや、ファーストチームの監督と先輩の熱い期待に応えてW杯優勝という偉業を達成し、マージーサイドに戻って来たブルースターは、11月10日、Liverpoolアンダー23チームのカップ戦に出場した(対ニューカッスル・アンダー23、試合結果は2-1でLiverpoolの勝利)。同じ頃、ウェンブリー・スタジアムでは、イングランド対ドイツの親善試合に先駆けて、イングランド・アンダー17代表チーム一行がW杯優勝披露式典に招待されていた。

    ブルースターは、9万人の観客の拍手を浴びるチャンスを辞退して、雨のマージーサイドで381人の観客の前で試合に出る方を選んだのだった。

    「リヤンは、ウェンブリーのミニ優勝パレードよりも自分のクラブの試合を優先した」と、Liverpoolアンダー23コーチのニール・クリッチュリーは目を輝かせた。「試合に出て、成長することが自分のやるべきことだと知っているから。W杯優勝の前と後とで態度の違いは微塵もない。優勝で自信を付けたことが唯一の変化」。

    国を統一させたエジプトのキング

    11月1日、CLマリボル戦(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)でゴールを決めたモー・サラーが、同日に発表されたアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤーの候補者入りし、Liverpool陣営は二重の拍手で沸いた。直後にローマのオフィシャル・アカウントがポストした、「2018年1月のアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤー受賞おめでとう、モー・サラー!」というジョーク交じりのお祝いメッセージが、笑いを掻き立てた。

    これに対して、リバプール・エコー紙が解説した。「ローマが気の早いお祝いをポストしたアフリカ・フットボーラー・オブ・ジ・イヤーは、正式には2018年1月4日に発表される。しかし、エジプトのファンの絶対的人気を誇るモー・サラーが受賞することは間違いないという、ローマ時代の事例に基づく『気の早さ』。それは、サラーがLiverpoolの8月と9月のプレイヤー・オブ・ザ・マンスとゴール・オブ・ザ・マンスを連続受賞している事実から、Liverpool陣営でも実感し始めた現象」。

    10月のインターナショナル・ウィーク中に、サラーが95分のPKを含める2ゴールで、エジプトがコンゴに2-1と勝って、1990年以来のW杯予選勝ち抜きを決めたことで、もともとエジプトでは群を抜くNo.1だったサラー人気に更に拍車がかかった。

    サラーの故郷(Nagrig)の村長が、「サラーはこの村を世界地図に載せた」と、熱く語った。「それだけ凄い選手になった今も、自分の故郷に愛情を注ぎ、学校や病院の設備購入資金を出してくれるなど、この村の発展のために多大な貢献をしてくれている」。そして村長は、サラーの出身校を「モハメド・サラー工業高校」と改名したと語った。

    エジプトの富豪の実業家が、W杯出場の「お礼に」、サラーにお屋敷をプレゼントしたいと話を持ち掛けた時に、サラーは「ありがとうございます。それを、僕にではなく、地元のチャリティに寄贈していただけますか?」と言ったエピソードは、まさにサラーの人柄を表していた、と「モハメド・サラー工業高校」の教員が語った。「有名人になってからも折につけ故郷の村を訪問し、地元の人々と気さくに会話するサラーは、国全体の子供たちのお手本になっている」。

    エジプトでのサラー人気の背景について、エジプトのジャーナリストが「サラーは早いうちからヨーロッパに行き、国内リーグの二大勢力であるアル・アハリとアル・ザマレクのどちらにも所属していなかったことから、誰もが何のためらいもなく支持できる選手になった」と説明した。「つまり、サラーは国を統一させたエジプトのキング」。

    かくして、ファン投票で決まる様々な賞で、サラー人気がプラスに働く原理がローマの「気の早いお祝い」となった。そして、サラーの受賞が人気の成果だけではないことは、誰もが知っていた。

    11月4日のウエストハム戦(試合結果は1-4でLiverpoolの勝利)での2ゴールで、Liverpoolでの17出場で12ゴールと、昨季の得点王にわずか2差となったサラーに対する評価は、「この夏のプレミアリーグの新戦力の中で、圧倒的なトップ」と、全国メディアでも上昇する一方だった。「ルイス・スアレス以来の掘り出し物」という声すら出た。

    そして、Liverpoolファンの間で着実に高まるサラー人気が、ファン層の分布図でもエジプトだけの現象ではないことを物語っていた。「ローマから来たこの選手が、ウィングを走り、ゴールを出すと、コップは歌う。サラララララー」というサラーの歌は、あっという間にスタンドの定番になった。

    「サラーとサディオ・マネの俊足コンビは、プレミアリーグのディフェンダーの悪夢。しかも、サラーはマネと同じく人好きのするいい感じ選手。ますます応援に熱が入る」と、Liverpoolファンの絶賛が飛び交った。

    全国メディアがスアレスと比較しているのに対して、70年代を生で見てきたベテランのLiverpoolファンは、もう一人の歴代スター選手を引き合いに出してサラーを絶賛した。「全盛期のケビン・キーガンを思わせる走り。サラーは、キーガンと同じように、走り続けてゴールを決める」。

    ウエストハム戦の試合後のインタビューでサラーは、チームメートのゴールを喜ぶ「人好きのする性格」で、Liverpoolファンの人気を更に刺激した。「前半の早い時間に得点できたことで、その後の展開が有利になった。良いプレイで勝てた。アレックス(オクスレイド・チェンバレン)がプレミアリーグで初ゴールを出せたことは、とても嬉しかった。チーム全体がいい雰囲気になっていて、全員がお互いのために頑張っている。それが、僕はとても嬉しい」。

    「今日の試合は勝てたし、良かった。でも、これからも勝ち続けることが大切」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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