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    希望とハート

    昨2018-19季前半の10月末に、マンチェスターシティ監督のペップ・グアルディオーラが、BBCラジオ5の特別番組で「人生の岐路となった5曲」を明かした。No.1に選んだのは、オアシスのドント・ルックバック・イン・アンガーだった。「私がいかにこの曲が好きか、とても言葉では表現できない」と、グアルディオーラは語った。「マンチェスター・アリーナの爆弾事件(※)以来、この曲はマンチェスター市民の曲になった。犠牲者を偲んで1分間の黙とうが行われた時、参列者の女性が歌い始めて合唱となった」。
    ※2017年5月に、アリアナ・グランデのコンサートで自殺爆弾が仕掛けられ、22人の死者を出したテロ事件。

    「あの日、私は息子と一緒に自宅にいて、妻と2人の娘はあのコンサートに行っていた。爆発の直後に妻が電話をかけてきた。『何かが起こってみんな走っている。でも何が起こったのか分からない』そこで電話が切れた。その後、何度電話してもつながらないので、私はアリーナまで迎えに行った。暫くして、妻から電話かかってきた。3人とも無事で帰途に向かっている、と」。

    「私は運に恵まれていた。でも、運に見放された多数の人が苦しむことになった」と、グアルディオーラは目を伏せた。

    その言葉の節々から、グアルディオーラがマンチェスター市に対して特別な感情を抱いている様子が伺えた、と番組のナレーターが付け加えた。

    グアルディオーラが2016年夏にマンチェスターシティの監督に就任した時に、最初にやった「改善」は、選手全員に、毎試合の後でスタンドのファンにお礼の挨拶に行くよう命じたことだった。「それまでも、殆どの選手がスタンドに来ていたが、試合の内容などによって何人かはまっすぐ去っていた。ペップのお蔭で、ファンと選手の間でつながりが出来たような気がする」と、シティ・ファンは歓迎した。

    マンチェスターシティがプレミアリーグ連覇を賭けて、Liverpoolとの間で前代未聞の激烈な優勝争いを繰り広げていた2019年5月3日に、ガーディアン紙が「希望とハート」という見出しで、ヒルズバラの法廷闘争グループの一人であり、秘匿文書の発掘に尽力を注いだ犯罪学者、フィル・スクレイトンのインタビュー記事を掲げた。ヒルズバラ30周忌を控えた4月中旬に、スクレイトンは、Liverpool FCからの依頼を受けて、ヒルズバラ遺族グループのマーガレット・アスピナルと共にメルウッドを訪問し、現役選手全員に悲劇の真相を伝えるレクチャーを行った。

    「行く前は、果たして選手たちがどんな反応をするか、自信が持てなかった」と、スクレイトンは静かに語った。今年70歳になったスクレイトンは、60年超のLiverpoolファン歴の中で、学者として「プレミアリーグの選手たち」の変遷を見てきただけに、事件当時は生まれてすらいなかった選手たちに対して幻想は抱かなかったという。

    「ところが、私の杞憂は全く的外れだった。彼らは、いわゆる『億万長者のエゴイスト』とは正反対だった。マーガレットと私が喋っている間、Liverpoolの選手たちは誰一人として、携帯を見たりせず、全員が真剣な表情で聞いていた。そして、明らかにヒルズバラ悲劇について強い衝撃を感じた様子だった。自分の家族を思い浮かべながら、人生について考えたように見えた」と、スクレイトンは目を潤ませながら語った。「彼らは、まず第一に人間的な側面があり、次にフットボールがあるということを理解している」。

    その「人間的な側面」とは、フットボールが地元社会の中で担っている責任を認識し、実践することにある、とスクレイトンは強調した。「そこに気づかないクラブは次第に取り残されて行く」。

    「ユルゲン・クロップはそれが出来る人物だ。ペップ・グアルディオーラもしかり。この二人が監督を勤めている2チームが、他を大きく引き離してプレミアリーグのトップを争っている事実は偶然ではない」。

    ユルゲン・クロップが、2015年にLiverpool監督が内定した後で、赴任までの間に最初にやったことは、ヒルズバラ悲劇のドキュメンタリーを見ることだったという。それは、Liverpool FCのクラブだけでなく、地元コミュニティを理解するために不可欠だったから、とのことだった。

    Liverpool FCが、2018-19季に掲げ始めた、クロップが語る「We are Liverpool. This means more.(我々はLiverpool。それはもっと深いもの)」のスローガンは、日常的に動画としてスクリーンに映り、ファンの注目を集めるようになった。2018年12月には、グラフィティ・アーティストによる「ユルゲン・クロップ壁画」が、市街地の壁に登場するに至った。

    「この表現は、まさにリバプール市にふさわしい。何度も倒されながら、みんなで力を合わせて立ち上がり、再びチャレンジに挑んできたこの市を象徴している」と、スクレイトンは深く頷いた。

    壊れたクラブに再び夢を与えた人

    イングランドのシーズンが正式に幕を閉じ、全4部リーグの顔ぶれが揃って2019-20季のリーグ日程発表を待っていた6月8日、レイトン・オリエント監督のジャスティン・エジンバラ(49歳)が亡くなったという悲報がイングランド・フットボール界を襲った。3年ぶりにプロ・リーグ(4部)に復帰が決まり、全92チームの中で最も開幕を楽しみにしていたはずのレイトン・オリエントにとっては青天のへきれきだった。

    プレミアリーグのファンの間では、トットナムのレジェンドとしての印象が強い人物だった。

    「攻撃的なフルバックとして、わがクラブでの1990-2000年で、通算276出場を記録し、1991年FAカップ優勝と1999年リーグカップ優勝を勝ち取ったレジェンドだった。その後もトットナム一筋で、わがクラブのレジェンドのイベントは欠かさず出席してくれた。6月1日のマドリードにも来てくれて、後輩選手たちが立派に戦う姿を見てくれたばかりだった」と、トットナムは悲痛なメッセージを出した。

    Liverpoolファンの間でも、このショッキングなニュースに際して、エジンバラへの追悼が飛んだ。「マドリードに来ている姿を見た。まさか数日後にこんなことになるとは想像もできなかった」。

    もともと、Liverpoolとトットナムとは常にお互いに敬意を抱いていた。ファン同士も、例えばLiverpoolファンにとってのエバトンや隣町のマンチェスターの2チーム、トットナムにとってのアーセナルや同じロンドン市内のチェルシーに対する「身近なための宿敵意識」はなく、伝統的に良い関係を保っていた。CL決勝戦のマドリード市内でも、Liverpoolファンとトットナム・ファンが仲良く肩を並べて乾杯する姿がいたるところで見られた。

    「90年代のトットナムを代表するレジェンドだった」と、Liverpoolファンは衝撃を隠せなかった。

    「マドリードでは一緒にスタンドで会話を交わした。その時の彼は元気がみなぎっていたのに」と、トットナム時代のチームメートであるレドリー・キングが語った。

    マドリードから帰国した直後の6月3日に、ジムに行った時に心臓発作に見舞われ、入院から5日後に亡くなったという。

    かくして、トットナム陣営が一斉にショックで言葉を失う中、レイトン・オリエントのクラブやファンは、ノン・リーグ(ナショナル・リーグ)優勝とイングランド・リーグ復帰の天国から一気に墜落する悲嘆を味わった。

    「2017年11月にエジンバラが監督として来た時のレイトン・オリエントは、前オーナーの悪政の末に財政破綻し、プロ・リーグから降格して半年のことだった。ファン・グループが買い取り、クラブの経営立て直しを図る過程で、チーム再建を成し遂げたのがエジンバラだった」と、BBCのロンドン地区が掲載した。「ビッグ・クラブで栄誉を勝ち取った経験に基づくフィロソフィーでチームを底上げし、わずか1年半でプロ・リーグ復帰を達成したエジンバラが、選手たちを率いて臨むはずだった開幕戦は、最も重要な人物がいない試合になってしまった」。

    レイトン・オリエントの主将であるジョビ・マクナフの追悼の言葉は、地元メディアの感傷を裏付けていた。「監督は、壊れたクラブを立て直した人だった。素晴らしいリーダーで偉大な人格者だった」。

    翌週に2019-20季のリーグ日程が発表され、監督を失ったレイトン・オリエントは開幕戦でチェルトナム・タウンと対戦することになった。その直後の6月24日に、チェルトナム・タウンのファン・グループが、開幕戦にジャスティン・エジンバラ追悼のバナーを掲げる計画を発表した。

    「辛い日々を過ごしているレイトン・オリエント・ファンのために、少しでも慰めになるようにと、バナーを制作することになった。オンラインでカンパを募ったところ、資金の£500はすぐに集まった」と、主催者のファン・グループは説明した。費用を上回った分は、エジンバラのご遺族が協賛しているチャリティに寄贈するということだった。

    エジンバラのイメージに「He Made You Dream Again(あなた方に再び夢を与えた人)」と記された7.3m×3.65m大のバナーは、チームを問わず、フットボール・ファンから盛大な拍手が注がれた。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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