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    3冠を掲げて去る真のリーダー

    マンチェスターシティがFAカップ決勝でワトフォードを6-0と破って、国内3冠に輝いた翌日の5月19日、主将のバンサン・カンパニが今季末でシティを去り、古巣である母国ベルギーのアンデルレヒトのプレイヤーマネジャーに就任するというニュースが正式に発表された。まだ33歳ながら、負傷に見舞われることが多かったことから、ベルギー代表チームでは主将職をエデン・アザールに明け渡し、シティでは11年間の在籍でプレミアリーグ通算わずか265出場でピリオドを打つことになった。

    シティのチェアマンが「このクラブの魂であり、心臓のような存在」とカンパニの多大な業績を称賛した言葉に続き、チームメートから一斉に感謝と新天地での成功を祈るメッセージが出た。中でも、地元出身の若手であるフィル・フォーデンの言葉は、イングランド・フットボール界の感想を代弁していた。「最初の日からずっとお世話になった。チーム全員に対して、真のリーダーとしての姿を教えてくれた人。心を込めてシャツを着て、クラブのために全てを尽くした人」。

    2008年夏に、オーナー交代の直前に£6mの移籍金でハンブルクからシティ入りしたカンパニは、現オーナーの「際限のない戦力投資」が始まる前の、「マンチェスターのもう一つのクラブ」でしかなかったシティを、44年ぶりのリーグ優勝に導き、在籍11年間でリーグ優勝4、リーグカップ4、FAカップ2という輝かしい業績を作った、まさにクラブの魂であり、心臓という存在となった。

    その44年ぶりのリーグ優勝は、引き分ければユナイテッドが連覇に王手をかけたはずの4月30日のダービーが突破口になった、と多くの人は指摘する。その試合で決勝ゴールを決めたのがカンパニだった(試合結果は1-0でシティの勝利)。そして、カンパニの4回目で最後のリーグ優勝となった今季の、2位Liverpoolの望みを遮断したレスター戦の70分の弾丸シュートは、人々の記憶に深く焼き付いた(試合結果は1-0でシティの勝利)。

    「ビニーのことを語る時、誰もが2012年のダービーでのゴールと今季のレスター戦のゴールを上げるが、ビニーの真の偉大さは、マンチェスター市のことを心から大切に思い、地元のために多大な仕事をしてくれていること」と、あるシティ・ファンは目を潤ませた。

    ピッチの上だけでなく、奥さんがマンチェスター出身のシティ・ファンという縁もあって、チャリティなどを通じて地元社会に積極的に貢献するカンパニは、即座にシティ・ファンの心を掴み、「ビニー」というニックネームで慕われるようになった。

    それは、昨年の在籍10年功労試合の収益金を、マンチェスター市のホームレス基金に全額寄付するなど、社会問題に広く取り組んでいる人間としての姿を称えたものだった。お父さんはコンゴからベルギーに政治亡命した人で、ベルギー人(白人)のお母さんとの間に生まれたカンパニは、子供の頃から人種差別の犠牲に合うことが日常茶飯事という生活を送る中で、必然的に社会問題に目を向けるようになったという。

    「アンデルレヒトのユースチームでフットボールを始めた頃には、£300の週給でテスコで働きながら生計を立てられれば良い、と思っていた。プロになって、プレミアリーグでこれほど多くのトロフィーを取ることは夢にも見なかった」と笑うカンパニは、冷静な表情で語った。「困難に直面して、それを乗り越えた後は、何も怖いものはないと確信できるようになる」。

    そして、今季の激烈なタイトル争いが大詰めを迎えた時に、「2012年は我々にとって最初のタイトル争いだったので、プレッシャーを感じた。その突破口を克服した今回は、どんなに苦しくても戦い抜くことが出来る自信がある」と、カンパニは宣言した。

    「Liverpoolの激しい追い上げに、シティは14連勝が必須だと覚悟を固めた時、ペップ・グアルディオーラはカンパニの経験に託した」と、BBCは3冠を掲げて去るカンパニにエールを送った。

    「いつもダービーでゴールを決めたライバル選手が、とうとういなくなる。ライバルチームの選手でも人間として尊敬せざるを得ない、人格者で真のリーダー。シティに初めて本物のレジェンドが出来ることになる」と、ユナイテッド・ファンはつぶやいた。

    ジェイミー・キャラガーの、「プレミアリーグ史上に残るベスト・センターバックの一人であり、マンチェスターシティのクラブ史上に残る偉大な選手」というメッセージに、Liverpoolファンは深く頷いた。

    「優勝を決める重要なゴールをねん出してきた選手がシティからいなくなる」と、Liverpoolファンは、カンパニに拍手を送りながら、最初のプレッシャーを経験し、突破口を目指して2度目に臨む選手たちへの期待を再燃した。

    ユルゲン・クロップの(嬉しい)誤算

    5月12日、マンチェスターシティが14連勝の98ポイントで連覇を決めたプレミアリーグ最終日に、Liverpoolの地元紙リバプール・エコーが「ユルゲン・クロップの大きな誤算」という見出しで、2015年10月の監督就任初記者会見での言葉を振り返った。「3-4年後に私がこの場にいるとしたら、それはタイトルを取っているということ。そうでなければ私はスイスにいるだろう」。つまり、クロップは、3-4年以内に優勝できなければクビになって、プレミアリーグよりはプレッシャーの少ない外国リーグで職探しをすることになるだろう、と予測していたのだった。

    「その公約の期限が訪れた今、クロップは自分の誤算を認めた」と、同紙は明るい文面で続けた。「Liverpool以外の人々が皆、口をそろえて『即成功が必須』と脅かすし、私もこんなに時間を与えてもらえるとは思わなかった」とクロップは苦笑したという。「それは、Liverpoolのトップ陣がクロップを全面的に信頼し、就任4年足らずの間で達成した業績を高く評価し、長期計画の実現をバックアップするという態度の証明」と、同紙は説明した。

    エコー紙が突っ込みを入れたクロップの言葉は、Liverpoolファンの間でも折に付け話題になっていた。「昨季はシティより25ポイント差の4位だったチームが、最後までタイトル争いを続けた末に97ポイントを達成した。しかも、CL決勝という大きなチャレンジが残っている状態でプレミアリーグのシーズンを終えることが出来るとは、誰も夢にも見なかったような偉業。クビどころか契約更新すべき」と、ファンは笑顔で頷き合った。

    「Liverpoolのお蔭で我々はここまで勝ち続けることが出来た」と、ペップ・グアルディオーラはライバルチームの健闘を讃えた。

    中立のアナリストは、優勝チームへの祝福と同時に、Liverpoolへのねぎらいを唱えた。その多くは、「97ポイント取りながら優勝できないとは」という同情が込められていた。

    そんな中で、1990年代からクロップを密接に取材してきた、友人でもあるドイツ人ジャーナリストが、「ユルゲン・クロップがLiverpoolを再建の道へと導いた」と、前向きな見解を語った。

    「バルセロナ戦の大逆転勝利(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが決勝進出決定)の後のクロップは、私がこれまで見たことがない程に大きな満足を浮かべていた。その中には、2012年にドルトムントがバイエルンを抑えてリーグとカップの二冠に輝いたシーズンも含んでいる。もちろん、あの大勝利がトロフィーを勝ち取ったわけではなかった。ただ、クロップの目標が実現したからこそできたものだった」。

    2015年10月に、Liverpoolのオーナーが監督候補者に「Liverpoolを再建させるためには何が必要か?」と質問を投げかけた。カルロ・アンチェロッティは3人のワールドクラスの選手のリストを提示したのに対して、クロップは「ファンを呼び起こすこと」と答えたという。

    バルセロナ戦では、アンフィールドのスタンドとピッチの上の選手たちが文字通り一体となって、ミラクルを起こした。「アンフィールドのヨーロピアン・ナイトは有名だが、今回はこれまでにも増して強力な声援だった」と、中立のアナリストが口をそろえた。

    「クロップは、Liverpoolで本当にスペシャルなものを築き上げた。選手たちとスタンドとの強力な一体感を作った張本人はクロップだった。それは、最後のリーグ優勝以来30年足らずの年月の中で、最も顕著な信頼関係と言えるもの」と、エコー紙は断言した。

    「その間、数回のタイトル争いの後で、たがが外れたかのように不調に落ち込み、スター選手が沈む船から逃げ出すかのように出て行った末に、元の木阿弥となった、その暗雲のサイクルを見てきたファンは、クロップが作り上げた強力な団結は、これから更に実を結ぶことを確信している」。

    プロフィール

    ピーエルエフジェイ

    Author:ピーエルエフジェイ
    平野圭子(ひらのけいこ)
    プレミアリーグ ファングッズ店長です。

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